6−4)低体温
近年、高度な脳挫傷などに対する全身低体温療法はめざましい効果を上げており、重度の神経損傷患者への福音となっています。中枢神経損傷後の2次的な神経障害進行に対する効果的な薬物療法が開発されていない現在ではこの治療法の適応を拡大するとともに、その効果メカニズムを解析し、それを新しい神経保護治療の開発の突破口とする事が期待されています。
我々の脊髄損傷ラットは、主に炎症を中心とした2次的な障害過程を観察するのに優れており、このモデルを用いて33℃の軽度低体温の効果を検討しました。
この論文はBrain Hypothermiaという本に掲載されていますが、通常の雑誌のようには手に入りにくいと思いますので、興味のある人はホームページ管理者(尾形、ogata@m.ehime-u.ac.jp)に連絡頂ければ送らせて頂きます
Mild hypothermia amelioration of damage during rat spinal cord injury: inhibition of pathological microglial proliferation and improvement of hind-limb motor function.
Ogata T., Morino T., Takeba J., Matsuda Y., Okumura H., Shibata T., Schubert P. and Kataoka K.
In "Brain Hypothermia" (N. Hayashi, Ed.), pp.47-54, Springer-Verlag, Tokyo, 2000.
 
脊髄圧迫を加える直前より60分間、ラットの体温を33℃に維持すると、脊髄内にマイクログリアの増殖がほとんど観察されなくなり、動物の立ち上がり回数もsham animalに比べ、著明に改善するという結果が得られました。軽度低体温はマイクログリアを中心とする炎症反応を抑制することによって効果を発揮すると考えています。
現在我々は、この低体温療法を実用化するに当たって、脊髄の局所冷却法を開発する必要があると考え、そのための装置を作成中です。(平成14−15年度の文部科学省科学研究助成金をいただいています)全身的な低体温は、高度な脳挫傷などの際に、一部の施設で既に実用化され、その有効性は十分に証明されていますが、一方で復温時などに様々な合併症を引き起こすため、敗血症予防のためにガンマグロブリンや抗生物質、成長ホルモンなどの大量投与が必要で、その医療費は極めて高額になり、またこの治療法を維持するための医療スタッフの労力も甚大で、かなり高度な医療設備と技術を兼ね備えたごく一部の施設のみに可能です。これは脳が頭蓋骨という保温性の高い組織に覆われているので、脳だけの局所低温療法が不可能であることが理由であり、脊髄では脊柱管の後方要素である椎弓を切除することにより脊髄の表面を比較的容易に露出することができ、そこに何らかの冷却装置を設置することによって、手術後患者を麻酔下におくことなく長期の局所低温療法が行えると考えています。