脊髄損傷

 

1)脊髄損傷とは

●背髄は、脳と連続している中枢神経であり、ほぼ全身の運動機能、感覚機能の連絡路である。よって、脊髄の損傷は、頚髄であれば(呼吸機能不全+/-)四肢麻痺+感覚障害、胸腰髄であれば、両下肢麻痺+感覚障害となりうる。

●以前より、中枢神経系の損傷は回復不能であり、一度起こった麻痺は永続する(中枢神経は再生しない)と信じられてきた。しかし、近年の研究では、条件さえ整えれば、中枢神経も再生(軸索伸展)することが常識とされている。しかし、神経自体に再生能力があることはわかっていても、現在の医学研究レベルでは、臨床的に人間の脊髄を再生できるところまでいっていない。

●よって、現在行われている脊髄損傷の治療は、急性期には全身管理・ステロイド・脊柱の破壊や脊髄への圧迫因子があればそれを手術で治療すること、慢性期にはリハビリテーションなどで、脊髄神経そのものに対する治療は存在しない。

●手術の道具や技術が進歩したため、脊髄損傷患者さん全体のADLは多少向上していると思われるが、結果としては四肢麻痺の人は四肢麻痺のままで、治療成績は数十年前とあまり変わっていないことになる。

●現在に開発されている最新の知識と方法で、今考えられる最高の治療を行うことも必要であるが、今後は損傷した脊髄神経を再生させる方法を開発することが急務であり、世界中で研究が行われている。

 

2) 発生頻度

1、日本パラプレジア医学会(1990-1992)の調査では

 ・日本中で年間約5000人。発生頻度は40/100万人。

 ・平均年齢48歳。

 ・男:女=82

部位別では、約80%が頚髄損傷

 2、労災データベースでも、男:女=41。頚髄損傷が63%。

 

3) 重症度

全国疫学調査では、

Frankel A(完全麻痺)が25.8

Frankel B(重度麻痺)が12.4

Frankel C(不全歩行不能)が20.3

Frankel D(不全歩行可能)が18.1

Frankel E(しびれのみ)が23

 



第5頚椎と第6頚椎間での脱臼骨折

 

4)初期治療

 A)局所の安静(頭から骨盤までを1本の棒のように扱う、決してねじらない)

 B)整復;場合によっては緊急手術が必要なこともある。

 C)薬物療法;ステロイドの大量療法など。胃潰瘍に注意。

 

頸椎頸髄損傷;頭蓋骨直達牽引やハローベストの装着。進行する神経障害のある場合は緊急手術になることもある。

胸椎以下;安定型の骨折で神経障害のない場合はコルセットなどの保存的治療。

不安定型の骨折や神経症状増悪のある場合には手術的治療。時に神経障害に対して受傷後48時間以内の手術は有効であるという報告がある。

 

5)手術治療

@緊急手術

脱臼や骨片などで脊髄への圧迫がある場合で、麻痺が経時的に進行している場合はもちろん、完全麻痺であったとしても除圧目的で緊急手術(物理的圧迫の除去、血流の改善、2次損傷拡大の予防)が行われる。同時に脊柱再建も考慮する。

  A待期手術

緊急手術は、全身状態が把握しきれていない、出血が多いなどの問題もある。脊髄への圧迫が軽度で、神経症状が落ち着いている場合には待期手術を選択する。骨折部や軟部組織が固まってしまう2週間以内に行うことが望ましい。

 
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