脊椎圧迫骨折後偽関節

 

高齢者の骨粗鬆症性圧迫骨折は通常、自然に骨癒合が得られることがほとんどです。しかし、まれに骨がつかないような状態が起こってしまいます。この状態を我々は偽関節と呼んでいます。いつまでも腰痛が続き、中には下肢麻痺や膀胱機能障害が起こる患者さんもいます。

典型的な経過:

1)まずは、尻餅をついた時に強い腰痛が出現し、動けなくなる。

2)2―3週間ぐらいで痛みが軽くなり、ある程度は元通りの生活を送れるようになる。

3)リハビリで歩行訓練を開始した頃から、腰痛がかえって強くなる。

4)歩行訓練をするたびに、かえって足の力が入らなくなってくる。

5)頻尿(夜間に数回、トイレに立つ)や残尿感が出てくる。

6)歩けなくなる。

3)までは“偽関節”で4)以後は“遅発性麻痺”と呼びます。

 

治療方法

1)装具療法

偽関節までの治療であれば、長期間、固いコルセット(硬性コルセット)で粘ることによって、偽関節の周囲に化骨ができて痛みが軽減することがあります。患者さんの辛抱強い協力が不可欠です。

2)セメント注入による椎体形成術

偽関節になった椎体内にセメント(もちろん医療用です)を注入し、ここを固めることによって腰痛を取る方法です。局所麻酔で行える技術もあります。

これも神経麻痺のきていない上記3)までの患者さんが対象です。

問題点が2つあります。一つは医療保険がきかなく、全額自己負担になることです。もう一つは稀に注入されたセメントが血流に乗って肺梗塞を起こす合併症が報告されていることです。(愛媛大学ではこの方法は現在行ってません)

3)手術療法

全身麻酔で圧迫された神経を除圧し、脊椎を固定します。この方法は“偽関節”にも“遅発性麻痺”にも使えますが、我々は主に遅発性麻痺に用いています。具体的には、偽関節になった椎体内にセメントの代わりにハイドロキシアパタイト(骨の原料になる素材です)の塊を詰め込んで、さらにスクリューとロッドで脊椎を固定する方法です。


(ここからは整形外科医向けのテキストです)

近年、高齢者の椎体圧迫骨折の外科的治療法としてKyphoplasty あるいは Vertebroplastyが早期の患者ADLの向上に有用な方法として取り入れられてきている 。しかし骨折部が偽関節となり、不安定になった骨片が脊柱管内に突出し神経が圧迫された場合には神経除圧が必要となる。前方除圧固定は広く用いられている方法である。後方から除圧固定する場合にはInstrumentationが用いられる。後方から骨折した椎体部分を切除短縮する脊椎短縮術やInstrumentationに経椎弓的な前方操作を行う方法が報告されている。我々の方法は基本的には除圧とInstrumentationで、前方の固定性を高めるためにKyphopastyの手技を追加するものである。

骨粗鬆症による圧迫骨折を生じた椎体の固定に当たっては、健常な椎体に対する手術とは違う考え方で対処する必要があると考えられる。我々が選択したのは、Pedicle screwを用いた後方固定であるが、できるだけ1本のスクリューにかかる力を分散させるため、病変部の上下に2椎体ずつスクリューを挿入し、また、スクリューの引き抜きやカットアウトのリスクを減少させるためにHAスティックをスクリュー刺入時に使用することとした。骨折が比較的安定している場合には脊椎短縮術を行うが、前後屈で容易にAlignmentの変化する偽関節では生理的前彎のとれる整復位(多くは後屈位)でInstrumentationを行い、その状態で空洞となった偽関節椎体に何らかの骨補填材料を挿入し、前方の支柱にある程度の強度を与えることにより、整復位を保持する後方椎弓根スクリューの負担を軽減しうる。骨補填材料としては自家骨、骨セメント(PMMA)、リン酸カルシウム骨ペースト(バイオペックス)、 HA ブロックなどが使用されている。我々の選んだHAブロックは、血管内に漏出するリスクが少ないという点で安全性に優れている上に、挿入する操作自体により椎体の整復ができるという利点がある。HAブロックを用いてKyphoplastyのみを行った場合には、術後一定期間に矯正の損失が見られるが、Instrumentationと併用した今回の3例では、短期間ではあるが、同じ1椎体に120180個のHAブロックを挿入してもほとんど矯正損失は見られなかった。更に我々は自家骨で脊柱固定を得るために、固定部位の後側方に自家骨移植を行っている。術後は3ヶ月以上硬性コルセットを装着してもらっている。

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