思春期側彎症の外来での取り扱い(保存的治療)

−愛媛大学医学部整形外科での治療指針−

  

1979年(昭和54年)に学校保険法に側彎症検診が加えられた。側彎症検診の方法は各自治体に任されており一様ではない。

愛媛県においては毎年約2万人の児童がモアレを用いた側彎症検診を小学生(5年生)及び中学生(1年生)時に受けている。モアレ検診を受けている児童は県内の対象児童の約70%である。

(検診のシステム)

愛媛県総合保険協会は各市町村の教育委員会を通して学校内でモアレ検診を行い、その結果を愛媛大学医学部整形外科に送付する。大学病院で判定を行い、それを愛媛県総合保険協会に通知する。保険協会は各学校を通し、保護者へ医療機関への受診を勧める。

各医療機関におけるレントゲン撮影による検診結果(2次検診)は小中学校を通して愛媛県総合保険協会へ報告される。

2次検診の実際 

1)レントゲン撮影

レントゲン撮影は原則として立位で全脊柱を正面・側面の2方向撮影する。

     長いフィルムでの撮影ができない場合には、胸部レントゲンを撮影する大きめのフィルムで胸部と腹部を撮影し、それをつなげて計測する。

計測すべき項目

Cobb角(および頂椎の位置)

頂椎の回旋度(Nash and Moe法)

Risser’s grade

(側面像で)胸椎後弯の減少などのsagittal barance

カルテに記載すべき内容

a) 年齢・性別

(女性なら初潮の時期:初潮から3年以内が側彎進行のリスクが高い)

b) レントゲン所見

Cobb角(例えば T2-T12、右凸、頂椎T7など)

頂椎回旋の有無(程度までは必須ではありません)

Risser’s sign

Sigittal baranceの異常

c) 診察の所見

FFD

Rib hump

(思春期側彎症にはほとんどありませんが)神経学的所見・痛み・皮膚の異常・先天性の病変や生下時の異常(未熟児や脳性麻痺など)



2次検診の評価と保存的治療の適応

思春期側彎症の程度の判定は原則としてCobb角で行われます。

愛媛大学医学部整形外科では原則的に以下の基準で治療に当たっています。この原則に患者さんの年齢やRisser’ gradeなどを考慮して治療法を決定しています。

0〜9度       正常であると判定し、外来診療を終了

10〜24度     側彎症と診断します。自然に軽減する人もいますので、何もせずに定期的(半年程度)にレントゲン計測します。(定期的なレントゲン検査は正面像のみとしています)

24度〜49度    側彎の進行する可能性が高いと考え、原則的には装具治療を勧めます。

50度以上      50度以上の側彎は、成長が終了してからも進行する可能性が高いと言われていますので、手術治療を勧めます。

 

例えば、Cobb角30度であっても、初潮から3年近く経過し、Risser’s gradeでも5度で、最近、もう背が伸びていないという情報があれば、十分に原則を説明した上で、装具治療ではなく経過観察とするという選択をすることもあります。

モアレ検診と2次検診で実際にどのくらいの人が異常と判定されるか?

モアレ検診で異常と判定される確率は約2%です。(2万人のうち400人程度)

モアレ検診で異常とされた患者の60%は2次検診でCobb角9度以下の正常と判定されます。モアレ検診はそのようなスクリーニングです。

逆にモアレ検診で正常と判定された人が10度以上の側彎症である確率は、残念ながらわかりません。

モアレ検診はあくまでもスクリーニングです。モアレ検診での異常はそのまま側彎を意味するものではなく、モアレ検査での正常は側彎症ではないという証拠ではありません。側彎検診にあたって、できるだけレントゲン撮影による被爆を避けたいという試みの一つにすぎないことをご理解下さい(わかりやすく言うと、モアレ検診にそんなに期待しないで下さいと言うことです)。

モアレ検査陽性者の男女比は小学生では7:3,中学生では8:2と女性に多い。


患者への説明の実際

まず原則です。

側彎症の保存的治療で有効なことが科学的に実証されているのは装具療法しかありません。これを実証した研究では装具を1日23時間装着した場合に、装着しなかった群に対して著明に側彎の進行が抑制されたというもので、それより短時間(例えば夜間のみ)の装具装着の効果は実証されていません。

    50度を超える側彎は成長が完了してからも進行すると言われています。

   10度から24度のカーブの患者を経過観察するのは、装具療法開始のタイミングを逸しないためです。

よくある質問

Q:うちの子は姿勢が悪いので側彎になったのでしょうか?姿勢を直したら側彎が治るのでしょうか?
A:姿勢が関係しているという実証はありません。たぶん関係ないと思います。でも姿勢が良いにこしたことはないですよ。

Q:食べものが悪かったんでしょうか?
A:たぶん関係ないと思います。

Q:遺伝性のものなのでしょうか?
A:一部の側彎症には遺伝子が関係するものもあります。しかし大部分は“特発性“すなわち、原因不明です。気にしなくていいんじゃないでしょうか。

Q:運動(体操)で有効なものはありますか?
A:運動療法の有効性は証明されていません。Side Slide法やストレッチなどが提唱されていますが効果は疑問視されています。

Q:マッサージや整体で側彎は治りませんか?
A:たぶん無駄だと思います。

Q:手術には危険があるんですか?
A:もちろんあります。できればがんばって装具で治療しましょう。

Q:50度を超えて、もっと側彎が進んだらどうなりますか?
A:胸郭の変形により呼吸機能が傷害される可能性や、背中の強い痛みが出てくることがあります。

Q:側彎症が進行する確率は?
A:20〜24度の軽度側彎では20%は何もしなくても改善し、60%は進行しません。残りの20%が進行しますので定期的な診察が必要です。



Under arm brace:現在は上の2種類が装具治療の主流です。

側彎のどのタイプにどの装具が適しているかは装具作成者に相談して下さい。


装具のcheck

      バンドの付け方が正しいか?

   バンドの位置は現在のカーブを矯正するようになっているか?

   骨盤にフィットしているか(女子では2年が限界)

 

装具は体操時(体育の授業)と風呂以外の123時間付けるように指導する。

装具は骨成熟(Risser IV or V)が得られ、初潮から3年が経過し、30度以下の側彎なら外しても良い。(目標はRisser VCobb 30度以下、初潮から3年が要注意)

 

こんな時には脊椎外科外来を受診させて下さい

1)左凸の胸椎カーブは重大な問題がある場合があるのでMRIが必要

2)下肢の変形、走行時の異常、反射の異常が見られる場合

3)Von-Recklinghausen氏病やその他の全身疾患が疑われる場合

4)先天性側彎症(脊椎奇形を伴う)が見られる場合

5)装具治療開始・終了の判定が微妙な場合

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