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病理学とは

医科学実習の学生が一般の皆様向けに作成したポスターを掲載しました。


病理学はなぜ大切なのか


1.病理解剖って何?


 病理解剖とは、病気による死後に行われる解剖のことで、死の診断(死因の判定)を主な目的としたものです。病理解剖の歴史は古く、過去には多くの医学上の大発見をもたらしました(図1は昔の大学者たちが病理解剖に臨んでいるレリーフ像です)。



 図1 ベルリンにあるウィルヒョウ記念碑のレリーフ
 図2 近代病理の父ウィルヒョウ



 それは病理解剖が、体の中で起こった病気を全身にわたって観察する唯一の方法で、しかも、肉眼でみた病変観察部位が顕微鏡下にも観察できる、確実かつもっとも情報量の多い検査法だったからです。今では診断技術の飛躍的進歩もあり「唯一」ではなくなりました。しかし他のことは変わりません。病理解剖は、次にまとめた目的と意義を持ち、今後の医学発展の一翼を担う、将来に向けた重要な検査なのです。

   病理解剖の目的と意義
    ・死因の究明(医学的研究課題の提起)
    ・病変の質的および量的確認(臨床診断との対比)
    ・治療による病変の修飾(治療効果の判定)
    ・資料の保管と活用(教育、研究資料として医学、医療への貢献)



2.病理解剖で何をするのか

 私たち病理医は、病死に際し、本人の遺志や遺族の許可があり、かつ臨床医から要請があった場合にご遺体の病理解剖を行います。
 病理解剖は、解剖行程の効率化や感染対策に十分配慮した病理解剖室で行われます(図3-7)。
 病理解剖に先立って、主治医から臨床経過などの説明があり、続いて臨床上の問題点や検索希望事項などが述べられます。それらを元にして病理医は検索の範囲や方法を決定します。その後、外見を観察し、ご遺体にメスを入れます。



 図3 最初の部屋で執刀者は術衣に着替える
 図4 消毒室で長靴を履き準備完了
 図5 感染予防対策を施し改装した病理解剖室。外部より陰圧に保たれている
 図6 解剖用器具
 図7 切り出し台。全面に排気口があり術者の感染を防ぐ構造

 ここで最も大切になるのは、外観および諸臓器・組織についての肉眼所見(臓器の色、形、触感など)をいかに正確につかむかということです。
 病理解剖が終わった時点で、病理医はは主治医に病理解剖所見を説明しながら質問事項に答え、肉眼所見による仮の診断をつけます。その後に、顕微鏡による病変組織の検索を行い、最終的な診断を下します。こうした一連の過程を経ることにより、多くの真実、時には予想もされなかった事実が明らかにされます(図8-11)。



 図8 固定した臓器からの組織ブロックの切り出し
 図9 切り出した組織はカセットに入れて次のプロセスに進められる
 図10 ブロックはパラフィンに封入され、ミクロトームで薄切された後プレパラートに貼り付けられる
 図11 染色されたプレパラート


 例えば、、いわゆる「脳卒中」などの場合、出血がどこになぜ起こったのか(図12-14)、癌はどこまで浸潤してしまったのか(図15)、癌は治ったはずなのに、何が死因なのかなどです。


 図12-14は白血病に小脳出血を合併してなくなった症例

 小脳に著明な出血が認められる(図12は固定前、図13は固定後の割面)。
 組織標本で初めて、出血部位には著明な白血病細胞の浸潤があることが明らかになった(図14)。
 肺癌の症例 癌が空洞を形成しながら広範囲に広がっている(図15)。

 病理解剖の最終診断は、臨床医と症例検討会の場で報告されます。ここでは、いつも活発な討論が繰り広げられます(図16-17)。



3.病理解剖はなぜ大切か

 昨今、画像診断や臨床検査の発達により、生前になされる診断や治療効果判定の精度は向上しました。しかし、いまだに病理解剖による全身検索から得られる情報は、それらとは桁違いに大きなものと言えます。医療行為の評価や将来の医療に対する指針を得る上でも、大切な情報を提供しています。さらに、病理解剖で得られた情報の蓄積は病気の予防法や新治療法の開発にも生かされています。また、医学部学生教育や研修医教育にも大きな役割を担っていることはいうまでもありません。病理解剖は、未来に開かれた情報源として、医療の発展に大きく寄与していることをご理解頂けたでしょうか?決して、研究者の自己満足のために利用されてはいないのです。

愛媛大学 大学院医学系研究科
ゲノム病理学分野

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