1)保存的治療は?

保存的治療と我々外科医が呼んでいるのは、つまり手術以外の治療という意味です。

選択的神経根ブロック

腰椎椎間板ヘルニアによる足の痛みに最も効果的な保存的治療は「選択的神経根ブロック」という方法であると私は考えています。

よく、クリニックの外来で腰やおしりに注射を打つことをブロックと考えている患者さんがいます。脊椎専門医がブロックと呼ぶのはこのような「局所注射」ではなく、ある神経を確実に捕らえて、そこに麻酔薬を打つ方法です。我々専門医でもレントゲンをかけながら(イメージ下といいます)針の先が確実にその神経を捕らえるのを確認しながらでないと「選択的神経根ブロック」はできません。

この注射を打つと、針先が神経に近づいたときに下肢に電気が走るような刺激があります。ヘルニアで傷害された神経に当たった時には「いつも痛む場所」に電気が走ります。それから麻酔薬が注入されると痛みが引いていきます。このブロックが著効する患者では痛み止めの効果が1週間くらい続きます。このブロックは通常、全部で4−5回までしかしません。1回で痛みが取れてしまう患者もいれば、5回行っても痛みが持続する患者さんもいます。選択的神経根ブロックで手術が回避できる確率は約50%です。「直後には痛みが軽くなったが、翌日にはもとの状態に戻ってしまった」という人は、ブロックが無効な人なので私は2回目は行いません。

硬膜外ブロック

下肢痛のみでなく腰痛もあり、足も腰も両方痛むという人には有効な方法です。この注射は外来でできます。腰から注射する腰部硬膜外ブロックと、おしりの方から入れる仙骨裂孔ブロックがあります。どちらも長い針を神経の通っている骨の穴(脊柱管)まで入れて薬液を注入する方法です。この注射をした後は、下肢に力が入らなくなるので30分くらいはソファなどで休んでから帰ってもらいます。

消炎鎮痛剤の投与

消炎鎮痛剤は飲み薬、湿布、座薬などがあります。痛み止めのことで、ヘルニアを治す効果はありません。しかしヘルニアの半数以上は自然消退しますので、それまで我慢できれば“勝ち”です。消炎鎮痛剤の投与はまさにそのためにあります。海外では麻薬をけっこう使いますが、日本では使いにくいので消炎鎮痛剤が主体です。

リハビリなど

腰椎椎間板ヘルニアに対する牽引や温熱、電気治療などは、全く効果がないと私は考えています。整形外科学会が出版したガイドラインにも「根拠とする十分な研究がない」とされています。お金がかかるだけなので無駄なことはやめましょう。牽引治療に関しては「腰痛には短期的には一定の効果が見られる」とする研究はあります。


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