愛媛大学  大学院・医学系研究科   寄生病原体学分野  研究紹介  スポロゾイト 

スポロゾイトのほ乳類感染機構の解明

研究キーワード :: 肝細胞に到達するまで ::肝細胞への感染 :: メロゾイトへの発育:: メロゾイトの放出:: 感染阻止法開発への期待:: 関連する原虫分子:: 参考文献

(1)研究キーワード

マラリア(Malaria)
スポロゾイト sporozoite
肝細胞感染 hepatocyte infection
細胞通過 cell traversal
寄生胞 parasitophorous vacuole
肝内型原虫 exoerythrocytic form (EEF)
感染機構(Infection mechanism)
ジーンターゲティング(Gene Targetting)
ワクチン開発(Vaccine development)



(2)肝細胞に到達するまで

 蚊の吸血に伴い、唾液腺の中に集積している原虫(sporozoite)がほ乳類の皮内に打ち込まれる。その後sporozoitoは、皮内を活発に移動し、3時間以内に半数ほどが血管に侵入し、血流を通って肝臓に到達する。そこで再び血管壁を通り抜けて、標的細胞である肝細胞へと到達する。
 sporozoiteの皮内での移動、肝臓内での血管壁の通り抜けには、標的細胞膜を障害してその中を通り抜ける機能が重要な役割を果たすことがわかってきた。この侵入様式を「細胞通過」と名付けた。細胞通過機構に必須な原虫分子、SPECT, SPECT2の同定により以上のことが明らかにされた。




(3)肝細胞への感染


肝細胞に出会ったsporozoiteは、寄生胞を形成しながら細胞内に侵入する。






(4)メロゾイトへの発育

肝細胞内で原虫は、寄生胞に守られたまま、約2日間かけて、増殖・分化を行い赤血球に感染できる型(merozoite)へと発育していく。感染初期から寄生胞に局在が認められる、UIS3, UIS4は肝細胞内での原虫の発育に関わると考えられる。

5)メロゾイトの放出

肝細胞内で形成されたメロゾイトは、適切な時期に寄生胞が崩壊することで、肝細胞の膜をかぶった状態で血液中へと運ばれると言われている。この際の、寄生胞の崩壊過程に、いくつかのタンパク質分解酵素群が関わることが予想されている。また、寄生胞に局在する肝内型原虫特異的タンパクであるLISP1が、寄生胞の崩壊に重要な役割を果たすことが示された。

(6)感染阻止法開発への期待

 放射線照射することで増殖能を失わせたネズミマラリア原虫のスポロゾイトをマウスに静脈投与することで、防御免疫を誘導できることが報告された(1963年)。 その詳細な分子基盤の解明までは、まだまだ多くの研究が必要であるものの、スポロゾイト、あるいは肝内型原虫が感染阻止免疫の誘導に関わると考えられる。 すなわち、抗原分子を同定することにより、マラリア予防ワクチンの開発につなげられると言えよう。また、原虫の肝細胞内での寄生戦略を分子レベルで理解することで、特異的な阻害剤の開発などが可能になると期待される。

  これらの目的を達するために、ネズミマラリア原虫を利用し、スポロゾイトあるいは肝内型原虫で発現する遺伝子の欠損原虫を作出することで、このステージの原虫感染の分子基盤の包括的理解を目指す。

(7)関連する原虫分子
SPECT
sporozoite micronemal protein essential for cell traversal
細胞通過に関わる。欠損原虫は皮内の移動および、肝類洞壁の通過の効率が激減する。
SPECT2
sporozoite micronemal protein essential for cell traversal
membrane attack complex domainを持つ。欠損原虫の表現型は上に同じ。
CelTOS
cell traversal ookinete sporozoite protein
Ookinete(蚊の中腸上皮細胞を通過する)とsporozoiteで発現し、両ステージ原虫の細胞通過に関わる。
P36
6cys familyのモチーフを持つ。欠損原虫は肝細胞に侵入できなくなる。
P36p
同上。
UIS3
up-regulated in infective sporozoites
肝内型原虫の寄生胞に局在。欠損原虫は肝細胞内で正常に発育できない。
UIS4
up-regulated in infective sporozoites
同上。
MSP1
merozoite sureface protein 1
メロゾイトの表面に発現するタンパク。肝臓ステージ特異的欠損原虫の解析により、肝細胞内でのメロゾイトの形成に関わることが示された。
LISP1
liver stage specific protein 1
肝内型原虫特異的に発現し、寄生胞に局在する原虫タンパク。欠損原虫は、形成されたメロゾイトを放出することができない。

(8)参考文献

Ishino T, Boisson B, Orito Y, Lacroix C, Bischoff E, Loussert C, Janse C, Menard R, Yuda M, Baldacci P.  LISP1 is important for the egress of Plasmodium parasites from liver cells. Cell Microbiol in press (2009). [Abstract]

Amino R, Giovannini D, Thiberge S, Gueirard P, Boisson B, Dubremetz JF, Prevost MC, Ishino T, Yuda M, Menard R. Host cell traversal is important for progression of the malaria parasite through the dermis to the liver.  Cell Host Microbe. 3(2):88-96 (2008/02). [Abstract]

Kariu T*, Ishino T*, Yano K, Chinzei Y, Yuda M.(*: equally contributed) CelTOS, a novel malarial protein that mediates transmission to mosquito and vertebrate hosts. Mol Microbiol. 59(5):1369-79 (2006/03). [Abstract]

Ishino T, Orito Y, Chinzei Y, Yuda M. A calcium-dependent protein kinase regulates Plasmodium ookinete access to the midgut epithelial cell.  Mol Microbiol. 59(4):1175-84 (2006/02). [Abstract]

Ishino T, Chinzei Y, Yuda M. Two proteins with 6-cys motifs are required for malarial parasites to commit to infection of the hepatocyte.  Mol Microbiol. 58(5):1264-75 (2005/12). [Abstract]

Ishino T, Chinzei Y, Yuda M. A Plasmodium sporozoite protein with a membrane attack complex domain is required for breaching the liver sinusoidal cell layer prior to hepatocyte infection.  Cell Microbiol. 7(2):199-208 (2005/02). [Abstract]

Yuda M, Ishino T. Liver invasion by malarial parasites--how do malarial parasites break through the host barrier?  Cell Microbiol. 6(12):199-208 (2004/12). [Abstract]

Ishino T, Yano K, Chinzei Y, Yuda M. Cell-passage activity is required for the malarial parasite to cross the liver sinusoidal cell layer.  PLoS Biol. 2(1):16310-5 (2004/01). [Abstract]


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