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2025.06.26 研究成果

レジスチンリスクハプロタイプはサルコペニア肥満を伴うとインスリン抵抗性が著明に増悪する

研究成果のポイント

  • レジスチン遺伝子のリスクハプロタイプ(以下G-Aハプロタイプ)が血清レジスチン値と密接に関連し、特にサルコペニア肥満(骨格筋量低下+内臓脂肪蓄積)の体型を呈するとインスリン抵抗性が増悪し血糖値が悪化する。
  • 803人の日本人地域一般住民を対象に、体組成・経口ブドウ糖負荷試験のデータを用いて階層的クラスタリングを行い、経過とともにインスリン抵抗性が最も増悪するクラスターを同定した。
  • 遺伝子発現解析により、G-Aハプロタイプはマイトファジーに関連する遺伝子の発現変化が確認された。
  • G-Aハプロタイプ単独とインスリン抵抗性との直接的な関連はこれまで報告されていないが、時間的因子としてサルコペニア肥満が加わると顕著に増悪することが示された。

 

研究概要

目的:

インスリン抵抗性関連遺伝子レジスチンは、SNP(一塩基多型)のc.-420 C>G(rs1862513)およびc.-358 G>A(rs3219175)のG-Aハプロタイプを有すると血中濃度が高値となる。このハプロタイプは内臓脂肪肥満および握力低下を呈するサルコペニア肥満と関連している。G-Aハプロタイプとインスリン抵抗性との関係を明らかにするため、体組成および75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)の結果を元に評価した。

方法:

平均年齢62歳の日本人803人を対象とした。骨格筋量・内臓脂肪スコア・OGTTの結果に基づき階層的クラスタリングを実施した。さらに全血RNAを抽出し、RNA-seqとqRT-PCRを実施し遺伝子発現を評価した。

結果:

多変量解析により、G-Aハプロタイプが骨格筋量低下かつ内臓脂肪肥満(サルコペニア肥満)が伴うと、5年間でインスリン抵抗性が著しく悪化することを明らかにした。階層クラスタリングで同定されたクラスター2は、低骨格筋量・内臓脂肪肥満・インスリン抵抗性を特徴とし、G-Aハプロタイプ保有者で血糖の悪化が顕著であった。RNA-seqとqRT-PCRの結果からは、マイトトファジー関連遺伝子の発現変化が確認された。

結論:

G-Aハプロタイプにサルコペニア肥満が伴うと、インスリン抵抗性が5年間で悪化し、これはマイトファジー関連遺伝子の発現変化を介した影響による可能性がある。

 

キーワード

1.レジスチン  2.サルコペニア肥満  3.インスリン抵抗性  4.SNP  5.マイトファジー

 

本研究は、日本人地域一般住民を対象に、レジスチン遺伝子のプロモーター領域にあるSNP(-420Gおよび-358A)からなるG-Aハプロタイプが、サルコペニア肥満(骨格筋量低値と内臓脂肪増加)を呈することで、インスリン抵抗性に与える影響を評価したものである。

研究対象は愛媛県東温市の地域一般住民で構成される東温ゲノムスタディの参加者803名である。75g 経口ブドウ糖負荷試験による糖代謝評価と体組成分析を行い、糖代謝関連指標、骨格筋量(四肢骨格筋量総和/全体重)、内臓脂肪スコアに基づく階層型クラスタリングを施行した。

G-Aハプロタイプ単独ではインスリン抵抗性との明確な関連はなかったが、骨格筋量の低下(Q1群:低値25%)と内臓脂肪面積≥100cm²で定義した内臓脂肪肥満を同時に持つ被験者では、インスリン抵抗性指標(HOMA2-IR)が5年間で有意に増悪した。さらに、RNA-seqとqRT-PCRをG-AホモとC-Gホモで比較したところ、FOXO3, ATG9A, FIS1といったマイトファジー関連遺伝子の発現がG-A群で変化していた。これらの遺伝子変化が骨格筋減少やインスリン抵抗性悪化に関与している可能性が示唆された。クラスタリングによって抽出されたクラスター2は、低骨格筋量・内臓脂肪増加・インスリン抵抗性を特徴とし、特にG-Aハプロタイプを有すると、HOMA2-IRが5年間で最も悪化した。また、60歳以上の高齢者でこの傾向がより強く、加齢がハプロタイプの効果を増強する「時間的因子」として働く可能性が示唆された。

本研究は、遺伝的背景(G-Aハプロタイプ)と時間的因子(加齢、サルコペニア肥満)の相互作用が、インスリン抵抗性進行の鍵であることを示した。レジスチン遺伝子多型は血清レジスチン値に強く影響するが、インスリン抵抗性には潜在的な環境・体組成因子が時間的因子として関与して初めて顕在化する。

 

図表等

レジスチンG-Aハプロタイプ(リスクハプロタイプ)かつサルコペニア肥満は5年間でインスリン抵抗性が最も増悪した
クラスター2はサルコペニア肥満かつインスリン抵抗性が強かった

レジスチンG-Aハプロタイプ(リスクハプロタイプ)はマイトファジー関連遺伝子群の発現変化を認めた

Diabetologia 68: 854-865, 2025.より改変引用

 

論文情報

Genetic variation in the RETN promoter, accompanied by latent sarcopenic obesity, led to insulin resistance in a Japanese cohort: the Toon Genome Study

Yosuke Ikeda, Ryoichi Kawamura, Yasunori Takata, Yasuharu Tabara, Koutatsu Maruyama, Misaki Takakado, Toshimi Hadate, Jun Ohashi, Isao Saito, Yoshihiro Ogawa, Haruhiko Osawa

Diabetologia 68: 854-865, 2025.

DOI:https://doi.org/10.1007/s00125-024-06322-1

 

助成金等

JSPS KAKENHI (23K14738), the Japan Association for Diabetes Education and Care (Z22-100105) and the Clinical Research Promotion Foundation 2023 (Z23-100084).

(それぞれ和名で、科研費、日本糖尿病協会、臨床研究奨励基金)

 

 

問い合わせ先

氏名:池田 陽介

電話:089-960-5647 (内線9480)

E-mail:ikeda.yosuke.yh@ehime-u.ac.jp

所属・役職:糖尿病内科・特任講師