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人工膝関節全置換術におけるインプラントデザインの違いが膝関節運動動態に与える影響の検証

研究成果のポイント

  • 献体膝を用いた膝関節運動動態の比較
    個体差の影響を排除するため、同一のThiel固定献体膝に異なる3種類のインプラントを順に適用し、ナビゲーションシステムで精密な運動解析を行いました。
  • Kinematic retaining(KR)デザインはより自然膝に近い動きを示す
    KRデザインでは大腿骨外側顆の前後移動が他のデザインよりも大きく、生理的な膝関節運動であるmedial pivot運動(屈曲に伴う大腿骨の外旋運動)を示す割合も最も高い傾向がありました。
  • 臨床応用に向けた基礎的エビデンス
    本研究はcadaverを用いた検証であり、KRデザインの生理的な運動動態の高い再現性を示唆するデータとして、今後の臨床研究の指針となる可能性があります。

研究概要

人工膝関節全置換術(TKA)では、実臨床でさまざまなデザインのインプラントが使用されていますが、どのデザインがより生理的な膝の運動を再現するかについては、いまだ明確な結論が得られていません。本研究では、異なる3種類のインプラントデザインを用いて、どのデザインが最も「本来の膝の動き」に近い運動を誘導するかを検証しました。その結果、自然な関節面形状を模して設計されたKinematic Retaining(KR)デザインが、最も生理的な膝運動に近い動きを示しました。

 

キーワード

①膝関節運動動態

②インプラントデザイン

③人工膝関節全置換術

④変形性膝関節症

⑤Cadaver study

 

はじめに:

人工膝関節全置換術(TKA)におけるインプラントのデザインは、これまでに大きく進化してきました。近年は、自然な膝の動きを再現することで術後成績が向上することも明らかとなり、一部の新しいインプラントでは、解剖学的にもより正常膝に近い関節面の形状が採用されています。本研究では、同一の献体(キャダバー)膝を用いることで条件をそろえ、異なるインプラントデザインが膝の動き(キネマティクス)に与える影響を比較検討しました。私たちは、「人体の関節面形態を再現する特徴を持つインプラントである、Kinematic retaining(KR)デザインは、生理的な膝の動きにより近いキネマティクスを示す」という仮説を立て検証しました。

 

方法:

軽度の内側型変形性膝関節症を有する9膝のThiel固定献体膝を使用しました。使用したインプラントは「Physica」システムの3種類のデザインで、後十字靭帯を温存するTKAである

KR(Kinematic Retaining)デザイン

CR(Cruciate Retaining)デザイン

MC(Medial Congruent)デザインの3タイプです。

膝の動きを正確に測定するため、まずナビゲーションシステムを用いて詳細なキネマティクスデータを取得し、膝の前後方向(AP)・内外側方向(ML)・圧縮/牽引方向の位置変化や回旋角度を解析しました。さらに、これらのデータをもとに、大腿骨が脛骨に対してどのように回旋するか、膝関節の屈曲中の大腿骨の回旋量、および内側・外側顆の前後移動量を算出し、TKA術前膝および3種類のインプラントデザイン間での違いを検証しました。

 

結果:

3つのデザイン間で膝関節の最大屈曲角度および伸展角度に有意差はみられませんでした。
KR群では、他のグループに比べて可動域を通した脛骨に対する大腿骨の外旋量が最も大きい傾向を示しましたが、統計学的な有意差はありませんでした。一方、CR群およびMC群では、外側顆の前後移動量がTKA術前膝よりも有意に小さくなっていました(それぞれ p = 0.021、p = 0.003)。また、KR群ではMC群よりも外側大腿骨顆の前後移動量が有意に大きいことが確認されました(p = 0.021)。さらに、生理的な膝関節の動きであるmedial pivotの動きを示した膝は、KR群で9膝中6膝、CR群で3膝、MC群で4膝でした。

 

考察:

同一の献体膝を使用し、ナビゲーションシステムを用いて詳細に解析した結果、KRデザインは、生理的な膝に近い運動を示す傾向がみられました。ただし、これらの結果は基礎的研究(cadaver研究)であり、今後は臨床研究によるさらなる検証が必要です。

 

図表等

ナビゲーションシステムを用いて、膝関節運動における大腿骨の脛骨に対する相対位置関係を算出。さらに、得られた回旋角度データから三角関数を用いて各膝関節角度における大腿骨の位置を平面上にプロットし、2次元的に運動動態を評価。
AP:脛骨に対する大腿骨の相対前後位置

 

Native:術前、KR:Kinematic retaining、CR:Cruciate-retaining、MC:Medial congruent

 

KRデザインにおけるインサート形状

 

参考URL

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40958131/

 

論文情報

Effect of the kinematic retaining design on knee kinematics in total knee arthroplasty: A cadaveric study using a navigation system. Kinoshita T, Hino K, Kutsuna T, Watamori K, Tsuda T, Horita Y, Takao M. Knee Surg Relat Res. 2025 Sep 16;37(1):38. doi: 10.1186/s43019-025-00290-5. PMID: 40958131

 

助成金等

公益財団法人 日本整形災害外科学研究助成財団  (grant no. 531)

JSPS KAKENHI (grant no. 24K19622)

 

問い合わせ先

氏名:木下 智文

電話:089-960-5343

E-mail:orthop@m.ehime-u.ac.jp

所属・役職:整形外科学講座・助教