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2025.10.30 研究成果

より自然に感じる膝を目指した新たな人工膝関節置換術の開発

より自然に感じる膝の再現を目指して、患者個々のアライメント・靭帯バランス特性にあわせて内側最小侵襲かつ1㎜・1度単位の追加骨切りで調整する人工膝関節全置換術の新たな術式

 

研究成果のポイント

  • より自然に感じる膝を目指して、患者が本来持つ内側軟部組織バランスの温存・再現のための新たな術式
  • 人工膝関節全置換術において、一般的に広く行われている内側軟部組織解離による調整を行わず、患者個々のアライメントを加味し、1mm・1°単位の追加骨切り調整により患者個々の生来の内側軟部組織バランスを獲得する新たな術式を開発
  • 従来の内側軟部組織を解離する手法と比較し、より良好な術後膝関節可動域および患者満足度を獲得

研究概要

愛媛大学大学院 医学系研究科 関節機能再建学講座 日野 和典准教授、同整形外科講座 津田貴史医師、髙尾正樹教授らの関節研究グループが、内側軟部組織付着部を可能な限り温存し、患者個々のアライメントを加味し、1mm・1°の追加骨切り調整により生来の内側軟部組織バランスを獲得するという新たな術式を開発し、本研究にてその有効性を実証しました。本術式は、患者個々が持つ内側軟部組織の本来の機能を維持・再現できる点において、これまでにない新規性を有しており、術後疼痛の軽減、早期回復、確実な内側安定性獲得が期待できます。患者個々の多様性への対応(日本人と欧米の人の違い)、サイズバリエーションの改善、材料工学の発展などが背景にあり、患者個々のアライメントや組織バランスにあわせた手術が有効であることを実証しました。

 

キーワード

①人工膝関節全置換術(TKA)

②Personalized Alignment

③Personalized Soft Tissue Ballance

④内側軟部組織バランス

⑤患者満足度

 

従来の人工膝関節置換術(TKA)では、機能軸に垂直となるよう画一化されたアライメント目標に沿って骨切りを行い、内・外側、屈曲・伸展の対称性を重視した軟部組織バランスを目標とし、靭帯バランスの過緊張に対し内側軟部組織を骨付着部より解離することで内外側のバランスを調整する手法が幅広く行われてきました。しかし、これらの方法では中間屈曲領域での安定性獲得やキネマティクス(膝の動き)の再現性に課題が残り、術後患者満足度低下の一因と考えられるようになりました。近年、患者個々のアライメントの多様性に着目し、そのアライメント特性を反映する術式が提唱されるようになり、正常膝では内・外側、屈曲・伸展バランスにも患者個々が持つ非対称性があり、外側に比べ内側安定性獲得が術後成績により強く関連することの報告も散見されるようになり、TKAの術式はパラダイムシフトを迎えようとしています。

愛媛大学医学部附属病院 整形外科では、日野 和典准教授が開発した内側軟部組織温存と患者の多様性に着目した新たな術式を世界に先駆けて実践しています。具体的には、膝内外側の靭帯緊張の不均衡に対し、前方から内側の軟部組織は可能な限り温存し、安全域内で脛骨アライメント(患者ごとに機能軸に87度~90度)に調整するPersonalized Alignmentのアルゴリズムを組み合わせ、1mm・1°単位の追加骨切りによりバランスを調整します。本術式により、脛骨内側の骨切り面より遠位に付着する前方から内側軟部組織を温存することが可能となりました。この術式はアライメントのみでなく軟部組織バランスについても患者個々の多様性を考慮し、生来の全可動域での内側軟部組織バランスを温存・再現することで「より自然に感じる人工膝関節置換術」を目標としています。本研究では、後十字靭帯代償型(Posterior-stabilized)人工膝関節全置換術において、従来の内側軟部組織解離手技と本術式の術後臨床成績を比較し、その有効性を検証しました。その結果、術後可動域および患者満足度において、本術式が有意に優れていることを示し報告しました。

これらの知見により、軟部組織温存による全可動域にわたる患者本来の内側安定性の再現が、人工膝関節置換術後の快適性や違和感軽減、運動機能の早期回復に繋がる可能性が示唆されました。

 

図表等

画像1:新しい術式と従来の術式の違い

従来の術式では機能軸に垂直な画一したアライメント目標であったのに対し、新しい方法では患者ごとのアライメントを加味して骨切りを行う。従来法では内側と外側を等しくなるよう調整するのに対し、新しい方法では患者ごとの内側組織バランス再現を目標とする。1㎜、1度単位の追加骨切り調整を加えることによりカットエラーをなくし、手術精度と再現性を追求している。この方法によりAMR(Anterior Medial Retinaculum)やdMCL(内側側副靭帯深層)などの患者ごとの生来の前内側~内側の支持組織が温存可能であり、より自然に感じる膝関節を追求することができる。

 

画像2:独自開発した1mm・1°単位の追加骨切りが可能な骨切りガイド

 

参考URL

https://journals.lww.com/jbjsjournal/fulltext/9900/minimized_medial_soft_tissue_release_with.1535.aspx

 

論文情報

  1. Minimized Medial Soft Tissue Release with Bone-Recut Adjustment Improves Short-Term Outcomes: Compared with Medial Release in Posterior-Stabilized Total Knee Arthroplasty Tsuda T, Hino K, Kutsuna T, Watamori K, Kinoshita T, Horita Y, Takao M. J Bone Joint Surg Am. 2025 Sep 17;107(18):2069-2076. doi: 10.2106/JBJS.24.01098. Epub 2025 Aug 7. PMID: 40773529

 

助成金等

JSPS科研費 18K09033, 整形災害外科学研究助成財団研究助成 No.603, Teijin-nakashima Co.(共同研究), Zimmer-Biomet Co.(研究助成),

 

問い合わせ先

氏名:日野 和典

電話:089-960-5343

E-mail:kazunori330225@yahoo.co.jp

所属・役職:関節機能再建学講座・准教授