皮膚血管肉腫に対する新たな治療戦略の開発
~免疫チェックポイント阻害剤であるニボルマブの皮膚血管肉腫に対する効果を検証~
研究成果のポイント
- 世界で初となる皮膚血管肉腫に対するニボルマブの効果を検証する臨床試験
- 保険適用が認められるためには、23例中4例で腫瘍の縮小が確認される必要
- 臨床試験の結果、23例中3例で腫瘍の縮小を確認
- 残念ながら、事前に設定した効果に達しなかったため、保険適用は認められず
研究概要
免疫チェックポイント阻害剤は臨床試験において様々な「がん」に対する効果が証明されている。一方で、皮膚血管肉腫に対する効果は臨床研究レベルに留まっており、保険での使用が認められるための臨床試験は行われていなかった。そこで我々の研究グループは、世界で初となる皮膚血管肉腫に対するニボルマブの効果を検討する医師主導治験を行った。その結果、試験に参加した23例中3例で効果が認められたが、事前に設定されていた必要な有効症例数である4例に達せず、残念ながら保険適用は見送られた。
キーワード
①皮膚血管肉腫
②免疫チェックポイント阻害剤
③ニボルマブ
④医師主導治験
皮膚血管肉腫は非常に悪性度の高いがんで、大きく切除して放射線治療を行うことが世界的な標準治療とされているが、多くの症例で2年以内に亡くなっていた。そこで我々は手術に頼らず化学療法と放射線治療を組み合わせる治療を提案し、現在では半数以上の症例が3年近く生存できるようになった。この治療法は現在ではガイドラインにも掲載されており、標準的な治療として受け入れられている。しかし、それでも依然として予後は良くないため、新たな治療開発が求められていた。
次に我々が注目したのは免疫チェックポイント阻害剤である。この免疫チェックポイント阻害剤はこれまでに肺癌や胃癌を含め多くのがんに対する効果が証明され、広く使われるようになっている。免疫チェックポイント阻害剤の特徴として、一旦効果が出ると長続きする傾向があることから、予後が悪い皮膚血管肉腫に効果があれば新たな標準治療となり得る。小野薬品工業と交渉し、同社から医師主導治験を水耕するために必要な資金を拠出して頂き、皮膚血管肉腫に対するニボルマブの効果する効果を検証する臨床試験を開始した。
従来の標準治療である化学療法で進行してしまった症例を対象にニボルマブを投与する試験で、全国11施設が参加して総登録症例数が23症例、その中で腫瘍の縮小が4例以上で認められれば保険の適用拡大申請を行う予定であった。試験を実施した各施設における画像判定では5例で効果が認められていたが、画像を一括して判定する中央判定では3例しか認められず、結果として保険の適用拡大は出来なかった。判定結果を精査したところ、効果無しと判定されていた1例は腫瘍があと0.2mm縮小していれば効果有りと判定され、保険適用の拡大が認められていたことがわかり、実は本当に紙一重であった。
この試験が失敗した要因として、すでに化学療法が行われており免疫能が障害されていた可能性が指摘されている。そこで、国立がん研究センターを中心に未治療の症例を対象に免疫チェックポイント阻害剤と分子標的薬の併用療法を評価する臨床試験が行われており、その結果が大変期待されている。
図表等
画像1:典型的な皮膚血管肉腫
高齢者の頭部に発生することが多く、どこかにぶつけた等の外傷を契機に発症することもある.早期に肺転移を生じて致命的な経過をたどる。
画像2:免疫チェックポイント阻害剤とは
著作権:転用・転載不可
日本で使用可能な免疫チェックポイント阻害剤は、T細胞表面にあるCTLA-4とPD-1という分子の働きを阻害する薬剤である。CTLA-4もPD-1もT細胞の働きを抑えるための分子であり、これを阻害することでT細胞は活性化し、抗腫瘍免疫が増強される。
画像3:治験に参加した23症例の腫瘍のサイズ変化
腫瘍が規定より縮小したのは3例、もう一例はあと0.2mm縮小していれば効果有りと判定されていた。
参考URL
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40472568/
論文情報
Phase II trial dedicated to non-selected, pretreated cutaneous angiosarcoma: Efficacy of nivolumab (AngioCheck Study).Yasuhiro Fujisawa et al、 Eur J Cancer. 2025 Jun 25:224:115537. doi: 10.1016/j.ejca.2025.115537.
助成金等
小野薬品工業
問い合わせ先
氏名:藤澤 康弘
電話:089-960-5350
E-mail:fujisawa.yasuhiro.fp@ehime-u.ac.jp
所属・役職:皮膚科学講座 教授
サイトマップ >
お問い合わせ >
English >








