難治性食道静脈瘤に対する新たな内視鏡治療
~重度の瘢痕で治療が難しい食道静脈瘤に対し、内視鏡的粘膜下層剥離術を応用した新手技~
研究成果のポイント
- 繰り返す治療で瘢痕化し、通常治療が難しい食道静脈瘤に対する新しい内視鏡治療を報告
- 内視鏡的粘膜下層剥離術の技術を応用し、静脈瘤の原因となる血管を直接処理
- 合併症なく治療を完遂し、治療後も食道静脈瘤の消失を確認
- 難治性食道静脈瘤に対する新たな治療選択肢として期待
研究概要
食道静脈瘤は出血すると命に関わることがあり、治療を繰り返すうちに傷あとが強くなって、通常の内視鏡治療が難しくなる場合があります。今回、そのような難治例に対し、内視鏡的粘膜下層剥離術を応用して原因となる血管を直接処理する新しい治療法を考案し、実施しました。術後も静脈瘤の消失が続いており、新たな治療選択肢となる可能性が示されました。
キーワード
①食道静脈瘤
②内視鏡治療
③ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)
④救済治療
⑤Endo-Hepatology(内視鏡学と肝臓学の融合)
■ 背景(医療課題)
食道静脈瘤は、肝硬変などによって食道の壁にある血管がコブのように膨らむ病気で、ひとたび破裂すると大量出血を起こし命に関わります。これまで内視鏡によるゴムで縛る治療(結紮術)や薬で固める治療(硬化療法)が広く行われてきました。
しかし、これらの治療を繰り返すうちに食道粘膜に強い「瘢痕(きずあと)」が残り、再発した静脈瘤に対してさらなる治療が技術的に行えなくなる、という深刻な課題がありました。
■ 新しい手技と成果
本研究では、静脈瘤破裂を繰り返し、高度な瘢痕化によって標準治療が困難となった患者さんに対し、「VTE(Variceal Transection with ESD)」と呼ばれる新しい救済療法を適用しました。
ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)は本来、早期がんを粘膜の下の層から剝がし取るための高度な内視鏡手技です。本治療ではこの技術を応用し、粘膜の下にトンネル状の空間を作って、静脈瘤に血液を送り込む「穿通枝」と呼ばれる血管を直接目で確かめながら、一本ずつ確実に熱で焼き切って血流を遮断します。
その結果、術後の出血など新たな合併症を起こすことなく安全に治療を終え、術後14日目および90日目の検査でも静脈瘤が完全に消失した状態が維持されていることが確認されました。
■ 今後の展望
本成果は、従来治療が極めて困難であった難治例に対し、血管そのものを根元から断つという新しい治療概念を示したものです。
高度な内視鏡手技と肝疾患の病態への深い理解を融合させた本手法は、今後、同様の困難な病状で苦しむ多くの患者さんに対する新たな治療選択肢となり、予後改善に寄与する可能性があります。
*本論文は、消化器内視鏡分野の国際誌『Endoscopy』に動画付きの症例報告(E-Videos)として公開され、その手技が映像とともに世界に発信されています。ぜひ、ご覧ください。
図表等
画像1:食道静脈瘤に対するVTE治療の流れ
(1) 再発を繰り返している治療前の食道静脈瘤
(2) 粘膜の切開:静脈瘤を避けた安全な位置に、専用の電気メスで粘膜の下へ入るための小さな入口を作成します。
(3) 粘膜下トンネルの作成:静脈瘤の真下ではなく、その脇に沿って粘膜の下にトンネル状の空間を作り、粘膜下の奥深い血管へ安全にアクセスする道を作ります。
(4) 穿通枝(血液を送り込む血管)の確認:トンネル内から、静脈瘤に血液を供給している「穿通枝」を直接確認します。従来の表面からの治療では見えなかった原因血管が明瞭に視認できます。
(5) 穿通枝の焼灼・遮断:止血鉗子を用いて、穿通枝を粘膜下から一本ずつ確実に焼灼(熱で処理)し、静脈瘤への血流を根元から完全に遮断します。
(6) クリップによる閉鎖:処置を終えた後、入口部分を金属のクリップで丁寧に閉鎖します。これにより、術後の出血や穿孔(穴が開くこと)を防ぎます。
※無断転載不可
画像2:VTE治療による食道静脈瘤の変化(治療前/治療後)
(1) 治療前 (2) 治療後(術後14日目)
※無断転載不可
参考URL
https://www.thieme-connect.com/products/ejournals/abstract/10.1055/a-2791-4765
論文情報
Yamamoto Y, Mori H, Niida K, Tange M, Takeshita E, Ikeda Y, Hiasa Y. Variceal transection with endoscopic submucosal dissection as a rescue therapy for esophageal varices with severe scarring. Endoscopy. 2026 Mar;58(S 01):E290-E292. doi: 10.1055/a-2791-4765
問い合わせ先
氏名:山本 安則
電話: 089-960-5308
E-mail:yasunori@m.ehime-u.ac.jp
所属・役職:第三内科(消化器・内分泌・代謝内科学) 講師
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