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2026.07.24 研究成果

冠動脈疾患の死亡・心不全リスクを3項目で予測

~年齢・BMI・心房細動歴から算出するHFpEF-ABAスコアの臨床的有用性~

 

研究成果のポイント

・冠動脈疾患に対して経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受け、左室駆出率が50%以上で心不全入院歴のない3,307例を解析した。

・年齢、BMI(体格指数)、心房細動歴の3項目から算出するHFpEF-ABAスコアが高い患者は、BNP高値、左房拡大、左室肥大など、左室駆出率が保たれた心不全(HFpEF)に関連する特徴を示した。

・追跡期間中央値721日で275例に全死亡または予定外の心不全入院が発生し、HFpEF-ABAスコアは多変量解析後もこれらの複合エンドポイントと独立して関連した。

・HFpEF-ABAスコアは、冠動脈疾患患者のHFpEF関連所見と将来の死亡および心不全発症リスクを簡便に評価する補助指標となる可能性が示された。

 

研究概要

冠動脈疾患は、左室駆出率が保たれた心不全(HFpEF)の重要な危険因子ですが、心不全が明らかになる前の高リスク患者を簡便に見つける方法は確立していません。本研究では、国内7施設の診療情報を蓄積したClinical Deep Data Accumulation System(CLIDAS)-PCIデータベースを用いて、PCIを受けた患者のうち、左室駆出率50%以上で心不全入院歴のない3,307例を解析しました。その結果、HFpEF-ABAスコアが高い患者ほど、BNP高値、左房拡大、左室肥大、腎機能低下などHFpEFに特徴的な臨床像を呈し、全死亡および心不全入院からなる複合エンドポイントの発生率も有意に高率でした。また、多変量解析後もHFpEF-ABAスコアは複合エンドポイントと独立して関連していました。これらの結果から、HFpEF-ABAスコアは、冠動脈疾患患者のHFpEF関連所見や将来の死亡・心不全入院リスクを簡便に評価し、詳しい検査や慎重な経過観察を検討するための補助指標となる可能性が示されました。

 

キーワード

① 左室駆出率が保たれた心不全(HFpEF)

② 冠動脈疾患

③ HFpEF-ABAスコア

④ 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)

⑤ CLIDAS-PCIデータベース

 

【研究の背景】

冠動脈疾患は心不全の重要な危険因子であり、心不全を合併すると予後がさらに悪化します。冠動脈疾患患者がその後に発症する心不全の相当部分は、心臓の収縮する力が保たれているHFpEFです。一方、HFpEFの評価には心エコー図検査やBNPなどが必要になることが多く、日常診療で全ての冠動脈疾患患者を同じように評価することは容易ではありません。そこで、一般診療で得られる情報から、詳しい評価や慎重な経過観察を要する患者を絞り込める簡便な方法が求められています。

【HFpEF-ABAスコア】

HFpEF-ABAスコアは、年齢(Age)、BMI(Body mass index:体格指数)、心房細動歴(Atrial fibrillation)の3項目から、HFpEFである事前確率を算出する指標です。画像検査や採血結果を用いずに計算できる点が特徴ですが、冠動脈疾患患者におけるHFpEF関連所見や、その後の転帰との関係は十分に検証されていませんでした。

【研究の方法】

日本の6大学病院と国立循環器病研究センターの診療情報を蓄積したCLIDAS-PCIデータベースを用いた多施設後ろ向き観察研究です。2013年4月から2019年3月までにPCIを受けた患者のうち、左室駆出率50%以上で、過去に心不全入院のない3,307例を対象としました。主な評価項目は、全死亡または予定外の心不全入院からなる複合評価項目とし、HFpEF-ABAスコアとの関連を検討しました。

【主な結果】

HFpEF-ABAスコアが高い患者では、BNP高値、左房拡大、左室肥大、腎機能低下、貧血など、HFpEFに関連する特徴が多く認められました。追跡期間中央値721日で、275例に全死亡または予定外の心不全入院が発生しました。スコアが10ポイント上昇するごとに、複合評価項目の調整後ハザードは7%上昇しました(ハザード比1.07、95%信頼区間1.00–1.14、P=0.043)。また、スコア50%以上の群は50%未満の群に比べ、調整後ハザードが37%高い結果でした(ハザード比1.37、95%信頼区間1.07–1.76、P=0.015)。この関連は、急性冠症候群と慢性冠症候群のいずれにおいても明らかな差を認めませんでした。

【臨床的意義と今後の課題】

本研究は、3項目だけで算出できるHFpEF-ABAスコアが、冠動脈疾患患者のHFpEF関連所見を捉え、死亡・心不全入院リスクを評価する簡便な補助指標になり得ることを示しました。高スコア患者では、必要に応じたHFpEFの詳しい評価、より慎重なフォローアップ、高血圧・糖尿病・慢性腎臓病・肥満などの危険因子管理につなげることが考えられます。ただし、50%という値は本研究で結果を分かりやすく示すために用いた区分であり、冠動脈疾患患者に対する確立した診断・治療の基準値ではありません。また、HFpEF-ABAスコアはBNP測定や心エコー図検査に代わるものではありません。本研究は後ろ向き観察研究であり、スコアに基づく診療が予後を改善するかについては、今後の前向き研究と外部検証が必要です。

 

図表等

画像:Graphical abstract:HFpEF-ABAスコアとHFpEF関連所見・予後との関係

 

年齢、BMI(体格指数)、心房細動歴の3項目からHFpEF-ABAスコアを算出した。スコアはBNP値および左房径と正の相関を示し、50%以上の群では50%未満の群より、全死亡または予定外の心不全入院からなる複合評価項目の累積発生率が高い結果であった(log-rank P<0.001)。多変量解析でも、50%以上の群の調整後ハザードは37%高値であった(ハザード比1.37、95%信頼区間1.07–1.76、P=0.015)。

※著作権情報

© The Author(s) 2026. 出典:Nishikawa T, et al. Cardiovascular Intervention and Therapeutics. 2026;41:639–650. https://doi.org/10.1007/s12928-026-01286-y

※利用制限

Creative Commons Attribution 4.0 International(CC BY 4.0)に基づき、原著者・出典・ライセンスURLを表示し、変更の有無を明記して利用可。本提出画像は原著掲載のGraphical abstractを改変せず転載。ライセンス:https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/

 

参考URL

https://doi.org/10.1007/s12928-026-01286-y

 

論文情報

Prognostic value of pretest probability of heart failure with preserved ejection fraction in patients with coronary artery disease: an insight from the CLIDAS-PCI database.

Nishikawa T, Tamaki S, Nishimura K, Ihara Y, Higaki A, Kawakami H, Inoue K, Ikeda S, Yamaguchi O, Akashi N, Kohro T, Kabutoya T, Kario K, Kiyosue A, Nakayama M, Miyamoto Y, Tsujita K, Fujita H, Matoba T, Nagai R.

Cardiovasc Interv Ther. 2026;41:639-650. doi: 10.1007/s12928-026-01286-y.

 

助成金情報

戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「Integrated Health Care System」JPJ012425、厚生労働科学研究費補助金(Health Labour Sciences Research Grant)22FA1016、興和株式会社(CLIDAS-PCIの開発資金)

 

問い合わせ先

氏名:仁志川 知晃

電話: 089-960-5303

E-mail:n.tomoaki.9.11@gmail.com

所属・役職:愛媛大学大学院医学系研究科 循環器・呼吸器・腎高血圧内科学講座 医員