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2016年12月26日

アメリカ留学記1

アメリカ留学中の岩城です。4月からハーバーUCLA医療センターのRoger Lewis先生に師事しつつ、7月からはハーバード公衆衛生大学院で疫学研究や臨床研究における統計的手法も学んでおります。今日は私が学んでいることについて医学生向けに少し書かせていただきます。
そもそも臨床研究はなぜ必要なのでしょうか。医学生の皆さんは実習で気がつくと思いますが、まだまだ医療にはわかっていないこと、解決できていない課題が山積みです。このような問題を把握し、解決する一つの方法が臨床研究であり、これは集団としての現象を捉える視点を持つことと不可分な関係があるとおもいます。私の経験では、医学部では分子レベル、細胞レベルと徐々に現象を理解するレベルが上がっていき、大体臓器レベルぐらいまでを学びました。卒業後はプロブレムリストの作成や診療を通じて、個人レベルで物事をとらえるように教えられました。集団レベルの視点とはこれをもう一歩進めたものです。例えば、今、目の前で腹痛の患者さんがいるとして、その原因はノロウイルスによる食中毒かもしれません。しかしもっと大きな枠組みで見ると、これまでの生活習慣、生活環境、社会環境、遺伝子、など多くの要因が複雑に絡まりあって発症につながったとみることができます。一人一人の病気が必ずしも同じ原因の組み合わせで構成されていない中で、どれが大事かを見分けていくことが、病態理解や予防には欠かせませんが、その際には集団の中での共通項を探っていく方法論を知っていることが必要です。また、治療においても、実際の治療反応性は人それぞれで効く人・効かない人がいる中で、どういう人にどのくらい効くのかということは、集団の視点を持つことで初めて答えられる問いです。このように個々人の差の中から集団の傾向を見出し、そこに原因解明や治療根拠を求めていくという考え方を持つとき、自ずと臨床研究の必要性が理解できるように思います。
医学部卒業後はほぼ毎日臨床に携わっていたことを考えると、それを一切せず、統計ソフトを使ってデータに向き合うというのはまだ慣れない部分もあり不思議な感覚です。無味乾燥な毎日を送っているように聞こえるかもしれませんが、個人的にはそう感じません。これまでの臨床や研究の経験があるお陰でデータの一つ一つが生き生きと感じられ、解析を通して研究に参加してくださった人々と対話しているような気がしています。臨床研究の良い点は、得られた知見が患者さんにすぐに役立ちやすいという点ですので、その点もモチベーションに繋がっています。科学の礎となる基礎研究、現場に近い臨床研究、医師の本分としての診療いずれも大切と思いますが、医学部の時にはあまり臨床研究に触れる機会はありませんので、本稿でもし臨床研究に興味を持ってもらえたらうれしいです。何か質問があればいつでもご連絡ください。