肝肺疾患(HPS)は、肝疾患、肺内血管拡張,動脈血低酸素血症を特徴とするもので、肝硬変などの疾患で認められます。本疾患は、肺組織において血管シャントを形成することが知られ、これにより呼吸困難やチアノーゼを誘発します。しかしながら、これまでその病態および、発症機序について不明な点が多いのが現状です。そこで我々は、本疾患の病態を分子レベルで明らかにするため、総胆管結紮(CBDL)モデルマウスを作成し (Shikata F et al PLoS One. 2014, Sakaue T et al., Surgery., 2017)、肺組織における遺伝子発現およびタンパク質発現を網羅的に解析しております。
肺がんは、年間約6万人以上発症する疾患であり未だ治療法が確立されていません。上皮成長因子(EGF:epidermal growth factor)は、細胞の分化、発達、増殖に重要です。EGFの受容体であるEGFR は、多くのがんにおいて遺伝子変異や遺伝子増幅、構造変化が認められ、がん細胞の増殖、 アポトーシス抑制、血管新生、浸潤・転移など、腫瘍の進展、悪性化に関与しています。これまで我々は、肺がんにおけるEGFRの遺伝子増幅や突然変異によるEGFRシグナル亢進が、がんの悪性化に関与していることを見出してきています (Cancer Res. 2005, Int J Cancer. 2006, PLoSMed. 2007, Cancer Res. 2008, Ann Surg Oncol. 2010)。EGFR発現亢進は免疫組織化学的に詳細に解析されており、非小細胞肺癌においては 34〜84%で過剰発現が認められています (Eur J Cancer. 2001, Cancer Res. 2001. Semin Oncol. 2002)。また、このEGFR発現亢進機構は、従来EGFR遺伝子増幅が大きな要因と考えられておりましたが、近年、遺伝子増幅の見られないタンパク質レベルでの過剰発現が確認されております(Eur Respir J. 2000, Molecular Cancer, 2008)。我々は、現在EGFR細胞内代謝異常ががん化に起因するものと考えており、その分子メカニズムに着目して解析を進めています。
心移植後の慢性拒絶反応として移植心に生じる冠動脈硬化病変形成機序は、複数の因子が発症に関わっていると考えられていますが、今なおその全貌は不明です。具体的には、ドナー/レシピエント間の組織不適合による免疫刺激により生じますが、その免疫学的、病理学的機序は解明されていません。現在まで我々は、ラット異所性心移植冠動脈病変発生モデルにおいて、移植心を一定期間後に取り出して、ドナーと同系のラットに再移植し、以降の再移植心への免疫刺激を回避することができる「戻し移植」モデルを確立しました (Izutani H et al., Transplantation. 1995, Izutani H et al., Transpl Immunol. 1997)。これにより、移植後初期、時に5日目までの免疫反応が重要であること、抗体が関与しなくても病変が発生すること、さらには細胞性免疫の関与が重要であることを示してきました。現在このモデルによる免疫応答、病理組織、分子生物学的解析などを検討することにより病変発生に必要な免疫機序について解析を進めております。
- 大動脈弁狭窄症発症機序の解明およびその治療・予防法の開発
大動脈弁狭窄症(AS)は加齢・動脈硬化により大動脈弁が石灰化、硬化するため圧較差を生じます。それに伴い心肥大を誘発し、それが突然死を招く重篤な疾患です。
高齢化社会である日本人患者数は年々増加傾向にありますが、本疾患発症の分子メカニズムはほとんど分かっていません。我々の研究室では、AS患者さんの弁置換術によって得られる大動脈弁および末梢より採血した血液試料を用いて、日本人におけるAS発症に関わる重要なタンパク質の探索・解析とその発症予測バイオマーカー開発のための研究を進めています (Sakaue T et al., Ann Thorac Surg. 2019, Sakaue et al., Biol Open. 2018)。”
先天性心疾患は、多くの場合生後すぐに外科的な手術を必要とし、また患者さんの成長に伴って再手術の回数も多いのが特徴です。再手術の際に最も問題となるのが癒着で、癒着除去剤の開発は世界的に急務であります。本研究では、心臓に起こる癒着分子メカニズムを解明し、癒着防止あるいは除去剤の開発を目指しています (Kojima A et al., J Cardiothorac Surg. 2019)。