愛媛大学泌尿器科では、泌尿器悪性腫瘍を中心に、臨床で得られた課題を基礎研究へと展開し、その成果を再び診療へ還元するトランスレーショナル研究を推進しています。泌尿器癌の分子病態の解明と新規診断・治療法の開発を基盤とし、医工連携を含めた学際的研究にも積極的に取り組んでいます。
- 1.前立腺癌の進展・転移・治療標的を制御する分子の探索
前立腺癌は比較的緩徐に進行する症例がある一方で、骨転移や治療抵抗性を獲得し予後不良となる症例も存在します。当科では、前立腺癌の悪性化、転移、治療抵抗性に関与する分子機構の解明を目的として、細胞株、臨床検体、遺伝子発現データベースを用いた研究を行っています。これまで、骨転移との関連が示唆されるGPRC5Aなどの候補因子に着目し、その発現が腫瘍増殖や転移能、病理学的悪性度と関連することを示してきました。また、前立腺癌に比較的高頻度に認められるSPOP遺伝子変異に注目し、この異常がDNA修復異常をもたらすことを明らかにしています。
さらに、前立腺特異的膜抗原(PSMA)は、近年、PET画像診断および放射線リガンド療法の標的分子として注目されており、当科ではそのタンパク機能に早くから着目し、腫瘍細胞のみならず腫瘍血管における役割の解明を進めてきました。これらの知見を基に、診断的・治療的意義の解明を進めています。
- 2.希少・高悪性度前立腺癌の病態解明と臨床応用研究
前立腺癌の中でも、神経内分泌前立腺癌(NEPC)や導管内浸潤癌(IDC-P)などの希少で高悪性度の亜型は、予後不良でありながらその分子病態には未解明な点が多く残されています。当科ではこれらの難治性前立腺癌に着目し、シングルセル解析や空間的遺伝子発現解析を用いて、腫瘍内不均一性や腫瘍微小環境を含めた病態解明を進めてきました。
現在は、NEPCを対象とした国内外共同研究を展開しており、愛媛大学を研究拠点として多施設から収集した臨床検体を用いた統合的解析を進めています。これらの研究を通じて、難治性前立腺癌の分子基盤の解明と、新規バイオマーカーおよび治療標的の開発を目指しています。
- 3.画像再構築と数値流体解析による腎盂内圧推定と臨床応用
上部尿路通過障害や水腎症においては、腎盂内圧の上昇が腎機能障害の進展に関与すると考えられていますが、従来の圧測定は侵襲的であり、特に小児においては臨床応用に制約があります。当科では、造影CT・MRI画像から腎盂・尿管の形状を再構築し、数値流体解析(computational fluid dynamics: CFD)を用いて腎盂内圧を非侵襲的に推定する手法の開発を進めています。
本手法により、水腎症における閉塞の程度や腎盂内圧の変化を定量的に評価し、さらに動物モデルを用いた検証を通じて解析結果の妥当性を検証することで、腎盂形成術の適応判断など臨床意思決定への応用を目指しています。
現在普及している泌尿器科におけるロボット手術は前立腺癌手術を中心に多くの経験が蓄積されてきました。一方で、ロボット手術に長けた熟練医と不慣れな医師との間で技術格差が認められることがあり、熟練医の遠隔指導による技術向上が期待されます。当科では、大阪大学工学部との共同でロボット手術技術の遠隔指導サービス実現を目的とし、高精細・多次元映像伝送を基盤とした医療分野における遠隔指導システムの構築を進めています。
その他にも、膀胱癌をはじめとする泌尿器癌においても、腫瘍進展や分化に関与する分子機構の解明を進めており、ミトコンドリア代謝を介した腫瘍進展機構や、扁平上皮分化に関わる新規バイオマーカーの同定など、新たな分子基盤の解明に取り組んでいます。さらに、アンドロゲンシグナルとEGFRを介した骨格筋制御機構の解析など、泌尿器科領域と全身代謝・内分泌との関連に着目した研究も展開しています。