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2025.11.17 研究成果

脂肪酸摂取による脂肪肝増悪機序の解明

~GPAMという脂質合成酵素が,肝臓の脂肪蓄積と全身の脂肪配分を左右することを発見~

 

研究成果のポイント

  • トランス脂肪酸の摂取で肝臓に脂肪が溜まりやすくなるメカニズムを発見
  • 脂肪合成の鍵酵素 GPAM が、肝臓の脂肪を増やし,内臓脂肪を逆に減らす働きを確認
  • GPAM を抑えると脂肪肝が軽減し、脂肪が全身に配分される現象を解明
  • ヒト代謝機能障害関連脂肪性肝疾患の肝組織でも GPAM の発現増加を確認し,臨床的意義を裏付け

研究概要

本研究では、私たちの身近にある「食事中の脂肪の種類」が、肝臓の脂肪蓄積にどのように影響するのかを明らかにしました。特に、加工食品などに含まれるトランス脂肪酸を多く摂取すると、肝臓に脂肪が溜まりやすくなることが知られていますが、その正確な仕組みは解明されていませんでした。

本研究グループは、マウスと細胞を用いた解析から、GPAM(Glycerol-3-phosphate acyltransferase 1)という脂質合成酵素が、トランス脂肪酸によって強く誘導され、肝臓に脂肪を蓄積させる中心的な役割を果たすことを発見しました。さらに GPAM を抑制すると肝臓の脂肪は減少し、内臓脂肪が増えるという、脂肪の「配分の逆転」が生じることも明らかになりました。また、愛媛大学病院での代謝機能障害関連脂肪性肝疾患患者の肝生検サンプルを解析したところ、高度の脂肪肝を有する患者では GPAM 発現が高いことが分かり、マウスモデルの結果と一致しました。

これらの成果は、食事性脂肪と肝疾患のつながりを分子レベルで説明する新知見であり、将来的に代謝機能障害関連脂肪性肝疾患の治療標的として GPAM を活用できる可能性を示しています。

 

キーワード

①トランス脂肪酸
②GPAM
③代謝機能障害関連脂肪性肝疾患
④脂肪分布
⑤脂質代謝

 

近年、生活習慣の変化に伴い、脂肪肝を基盤とする MASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)が世界的に増加しています。MASLD は、肝硬変や肝がんの発症リスクを高めるだけでなく、心血管疾患の危険因子にもなることが知られ、注目度の高い疾患です。

MASLD の発症・進展には、肥満や糖代謝異常に加えて、食習慣、とくに摂取する脂肪の種類が大きく影響します。飽和脂肪酸であるパルミチン酸は炎症や線維化を促進し、反対にオレイン酸は脂肪毒性を弱める一方で細胞内の脂肪蓄積を増やすことがあります。また、加工食品などに多く含まれるトランス脂肪酸は肝臓の脂肪蓄積や炎症を促し、MASLD の悪化と関連することが報告されています。しかし、「なぜ脂肪酸の種類によって肝臓の脂肪蓄積の増え方が異なるのか」、あるいは「どの脂肪酸が最も脂肪肝を悪化させるのか」 といった根本的な仕組みは、これまで明確には分かっていませんでした。

本研究グループは、脂肪酸の違いが肝臓でどのような分子応答を引き起こすのかを網羅的に評価する中で、脂肪合成の鍵酵素 GPAM(Glycerol-3-phosphate acyltransferase 1)に着目しました。GPAM は中性脂肪を作り出す最初のステップを担う重要な酵素で、肝臓に脂肪を蓄積させる「起点」ともいえる存在です。さらに、MASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)の病態にも関与することが示唆されていましたが、食事中の脂肪酸との関係は十分に解明されていませんでした。

本研究では、パルミチン酸・オレイン酸・トランス脂肪酸 という代表的な脂肪酸の高含有高脂肪食で飼育した動物モデルと細胞実験、さらにヒトの MASLD 肝生検データを組み合わせ、どの脂肪酸が最も脂肪肝を悪化させるのか、その際の分子メカニズムは何かを詳細に解析しました。

その結果、トランス脂肪酸を摂取したマウスでは肝臓の中性脂肪量とALTが著明に上昇し、他の脂肪酸より強い脂肪肝を示すこと、肝臓からの中性脂肪の放出が弱く内臓脂肪の蓄積が軽度であること、そしてその背後で GPAM が特異的に強く誘導されていることを明らかにしました。培養肝細胞でもトランス脂肪酸刺激により GPAM が上昇し、脂肪滴形成が亢進していました。

さらに、肝臓の GPAM を特異的に抑制すると、肝臓の脂肪沈着が減少する一方、これまで低下していた内臓脂肪が回復し、体内の脂肪の「配分」が変化する現象も確認されました。

加えて、ヒト MASLD 肝生検でも、脂肪肝が高度な症例ほど GPAM の発現が高く、マウス・細胞モデルで得られた結果と一致しました。

本研究は、トランス脂肪酸がGPAM を介して肝脂肪蓄積を促進し、全身の脂質バランスを変化させるという新しい病態機序を示した点で重要であり、MASLD/MASH の新たな治療標的として GPAM を提示する成果となりました。

 

図表等

画像1:食事性脂肪酸の違いが肝臓の脂肪蓄積に与える影響とメカニズムの解明

 

参考URL

https://doi.org/10.1007/s00535-025-02297-x

 

論文情報

GPAM upregulation enhances hepatic fat deposition and reduces visceral adipose tissue in response to trans-fatty acids

Teruki Miyake, Osamu Yoshida, Shinya Furukawa, et al.

Journal of Gastroenterology, 2025 Oct 4. doi:10.1007/s00535-025-02297-x

 

助成金等

JSPS科研費 22K11804

 

問い合わせ先

氏名:三宅 映己

電話:089-960-5308

E-mail:miyake.teruki.mg@ehime-u.ac.jp

所属・役職:地域生活習慣病・内分泌学講座 准教授