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2026.10.14 研究成果

治療前後で心筋と乳房のピロリン酸集積が真逆の所見を呈した野生型トランスサイレチン心アミロイドーシスの男性例

研究成果のポイント

・野生型トランスサイレチン心アミロイドーシスの男性患者で心筋と乳房におけるピロリン酸の集積が疾患修飾薬と心保護薬の併用治療前後で真逆の所見を呈した。

 

研究概要

野生型トランスサイレチン心アミロイドーシスは、野生型トランスサイレチンアミロイド(以下アミロイド)が全身、特に心臓や腱、靭帯などに沈着して心不全や不整脈、手根管症候群、脊柱管狭窄症などを起こす高齢男性に多い疾患です。最近、これまで考えられていた以上に患者数が多いことが明らかになってきました。その診断に欠くことができない検査として、心筋に沈着したアミロイドを感度良く描出することができるテクネチウム99mで標識したピロリン酸(以下ピロリン酸)シンチグラフィがあります。アミロイドが沈着した心筋へはピロリン酸が高度に集積しますが、アミロイド沈着がほとんどないとされる臓器・組織(乳房を含む)への集積はありません。一方、女性化乳房(乳腺組織が大きくなった状態)を呈した男性では、その頻度は不明ですが、ピロリン酸が集積することがあるとされています。今回、野生型トランスサイレチン心アミロイドーシスの男性例で心筋と乳房におけるピロリン酸の集積が疾患修飾薬(アミロイド沈着を抑制する効果があります)と心保護薬(アミロイド沈着と関係なく、心臓が悪い方によく用いられています)の併用治療前後で真逆の所見ーアミロイド沈着による心筋のピロリン酸集積が疾患修飾薬治療で減弱およびある種の心保護薬によって顕著になった女性化乳房へのピロリン酸集積出現ーを呈した1例を経験しました。野生型トランスサイレチン心アミロイドーシス患者において薬物治療による心筋と乳腺組織のピロリン酸集積の変化を観察できた興味深い症例と考え、報告しました。

 

※シンチグラフィは、体内に入れた放射性医薬品(多くの種類があり、それぞれ体の中で分布しやすい臓器・組織が決まっています:体の中で薬がどこに行き、どう集まり、どう動いたかを追跡できるので、英語の追跡・トレースが語源になったトレーサと呼ばれています)から出る放射線(ガンマ線など)をガンマカメラと呼ばれる専用の装置で体外から検出することにより、その体内での分布状況や調べたい臓器・組織の働きを画像にする検査です。野生型トランスサイレチン心アミロイドーシスの診断に欠かすことができないピロリン酸シンチグラフィですが、ピロリン酸は元々主に骨疾患の診断に用いる放射性医薬品/トレーサで、この検査は比較的簡単に行うことができるため(被曝の問題はありますが)、野生型トランスサイレチン心アミロイドーシスの診断例が増えた一因と言われています。なお、シンチグラフィは空間分解能がかなり低い画像検査ですので、放射性医薬品/トレーサの正確な集積部位を同定しにくいことが少なくありません。その欠点を補うため、空間分解能に優れたコンピュータ断層(以下、CT)画像と重ね合わせる必要があり、シンチグラフィ施行と同時、あるいはその直後にシンチグラフィの時と同じ姿勢でCT写真を撮影します。

 

キーワード

①野生型トランスサイレチン心アミロイドーシス

②ピロリン酸シンチグラフィ

③心筋

④女性化乳房

⑤薬物治療

 

【はじめに】

私の論文は Clinical Nuclear Medicine の“興味深い画像”に掲載された1症例の報告です。Clinical Nuclear Medicineは臨床現場ですぐに活用できる核医学に関する最新情報を提供しており、この専門分野のあらゆる側面に影響を与える最新の動向に関するデータをタイムリーに発信しています。この学術誌は核医学画像診断分野で臨床実践に重点を置いており、数多くの図解を通じて、医師が重要な情報を日々の診療に即座に活用する方法を示しています(https://www.ovid.com/jnls/nuclearmed/pages/about-the-journal)。

 

【症例提示】

患者は既に他院で心不全治療(ループ利尿薬に加え、選択的SGLT2阻害薬とアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬という心保護薬が処方されていました)を開始された後、心アミロイドーシスが疑われると当院を紹介された87歳、男性です。血液検査では腎機能低下(eGFRが22 mL/min/1.73 m2:正常値は≧90 mL/min/1.73 m2)、心筋負荷所見(NT-proBNP値が2800 pg/mL:正常値は≦125 pg/mL)、心筋ダメージ所見(高感度トロポニンI値が251.0 pg/mL:正常は≦18.4 pg/mL)を示していました。心電図や心エコー図検査(図1パネルA、パネルB左)では、心筋が肥厚しているように見えるが、筋肉組織は少ないと思える所見を呈しており(心筋以外のものが沈着していることを意味します)、やはり心アミロイドーシスが強く疑われる結果でした。心機能的には、左室駆出率(図1パネルBの“#”)が46%(正常は65%程度で、40%台は「軽度低下」と表現されます)、左心室がどれだけしっかり縮んでいるかを見る指標(図1パネルBの“*”)も-12.5%(-20%前後が正常です)と低下していました。そのため、外来でピロリン酸シンチグラフィを施行したところ、心筋へのピロリン酸集積が確認されました(図2パネルA、Bの赤矢印)。引き続き外来でCTガイド下に内腹斜筋(ここにもピロリン酸が集積していました)生検を施行し、アミロイド沈着を確認することができました。最終的に野生型トランスサイレチン心アミロイドーシスと確定診断し、疾患修飾薬導入認定施設・認定医(日本循環器学会が認定)に紹介して疾患修飾薬治療を開始しました。その後、紹介元の医療機関で心保護薬の一つであるミネラルコルチコイド受容体拮抗薬スピロノラクトンを追加されました。

 

治療開始後18ヶ月の間、状態は安定しており、心不全入院は一度もありませんでした。それを反映して、血液検査でもeGFRが20 mL/min/1.73 m2、NT-proBNP値2310 pg/mL、高感度トロポニンI値212.3 pg/mLと悪化なく経過していました。ピロリン酸シンチグラフィを再検したところ、心筋へのピロリン酸集積はかなり減弱していましたが(図2パネルC、Dの赤矢印)、乳腺組織が増大して女性化乳房が顕著になっており(図2パネルE、Fの黄矢印)、しかもそこへピロリン酸が集積している所見が得られました(図2パネルC、Dの白矢印)。女性化乳房による痛みの有無を尋ねましたが、自覚症状はないと返事されました。

 

【考察】

ピロリン酸がアミロイドに集積する機序はまだ確定されていませんが、骨への集積と同様な機序が推定されています。また、疾患修飾薬治療後に心筋へのピロリン酸集積が消えていく機序も不明です。さらに、図2パネルA、B、C、Dにありますように、ピロリン酸シンチグラフィは野生型トランスサイレチン心アミロイドーシスの診断に用いる場合においても“骨”シンチグラフィの側面を持ち合わせているため、治療前後関係なく、胸骨、肋骨、脊椎などの骨にはピロリン酸が集積しています。しかし、私はこれまで野生型トランスサイレチン心アミロイドーシス患者を対象に行った研究で、ピロリン酸集積部位(腹壁皮下脂肪、大胸筋、内腹斜筋、中臀筋など)から生検すると高率にアミロイド沈着を確認でき、治療前のピロリン酸集積の有無はアミロイド沈着の多寡と強く相関していることを示してきました。そのことから、本症例の治療前乳腺組織にアミロイドはほとんど沈着していないと考えます。一方、治療後“奇異性”にピロリン酸が乳腺組織へ集積したのはアミロイド沈着以外の理由と推察されます。女性化乳房へピロリン酸が集積するとの報告は珍しくありませんが、必ずしもその機序は明確化されておらず、やはり骨への集積機序と同じではないかと報告されているに過ぎません。

 

高齢男性の女性化乳房(水平断面CT写真上、乳頭下で最も長く見える乳腺組織が2cm以上と定義した場合)の有病率は高い(60〜70%)と報告されています。女性化乳房は相対的に男性ホルモン作用より女性ホルモン作用が優位になった状態で生じます。男性の乳房にはそのどちらにも反応するホルモン受容体があり、加齢によって多くの男性が上述のホルモンバランスになることが高率に女性化乳房を認める理由と考えられていますが、それだけであれば“病的”な状態ではなく、“生理的”な変化と言えるでしょう。そこに肥満や肝硬変、血液透析、ある種の薬剤など、女性化乳房を引き起こす要因が加わることでより顕著になるとされています。本症例も治療前の乳腺組織は左右とも約4cmあり(図2パネルEの黄矢印)、女性化乳房を認めていました。しかし、18ヶ月で乳腺組織が明らかに増大しており、その短い期間に何らかの要因が加わったことが窺い知れます。心保護目的に処方開始されたスピロノラクトンは女性化乳房を起こしやすい薬としてよく知られていること、それ以外に女性化乳房を起こすとされる背景因子はなかったことから、本症例の女性化乳房は「スピロノラクトン起因性」と判断しました。高齢者の女性化乳房の多くは“生理的”で無症状であることから何ら治療は要りませんが、スピロノラクトンが引き起こした場合は結構痛みを伴いますので他剤(スピロノラクトンと同様な作用を有し、女性化乳房を生じにくい薬)への変更を余儀なくされる場合が少なくありません。それにより症状はほぼ消失します。

 

今後、今回の症例をヒントにしてこれまで報告がない乳腺組織サイズとピロリン酸集積の関係を調べる予定です。また、心不全患者、特に高齢者ではポリファーマシーとなっていることが少なくないため、薬剤間の相互作用と女性化乳房との関係も調べてみようと考えています。

 

図表等

画像1:治療前の12誘導心電図と心エコー図

 

12誘導心電図(パネルA)では左軸偏位(前額面QRS電気軸-58°)、心室内伝導障害(QRS幅124msec)、前胸部誘導のR波増高不良、I誘導とaVL誘導のST-T異常などの所見を認めます。また、V4-6誘導もR波は低めで、相対的にS波が深いことから、左室心筋のダメージ、心筋細胞数の減少といった変化が推察されます。心エコー図(パネルB)では、心尖部四腔断面像(パネルBの左側:左は拡張末期、右は収縮末期)で左室壁、右室壁、心室中隔、心房中隔の肥厚を認めます。左室収縮機能に関して(パネルBの右側)、左室駆出率(パネルBの“#”)が46%台とやや低下し、左室長軸方向ストレイン(パネルBの“*”)も-12.5%と低下していました。なお、LV、RV、LA、RAはそれぞれ左室、右室、左房、右房を表します。

※著作権情報

雑誌発行元(Lippincott Williams & Wilkins LWW)

※利用制限

雑誌発行元(Lippincott Williams & Wilkins LWW)の許可

 

画像2:治療前後における心臓と乳腺レベルのテクネチウム99mで標識したピロリン酸(以下、ピロリン酸)シンチグラフィ画像とその直後に撮影したコンピュータ断層(以下、CT)画像を重ね合わせた水平断面画像(パネルA、B、C、D)および乳腺レベルの水平断面CT画像(パネルE、F)

 

治療前、心筋へのピロリン酸集積が確認されましたが(パネルA、Bの赤矢印)、治療後はそれがかなり減弱しました(パネルC、Dの赤矢印)。治療前の乳腺組織は左右とも約4cmあり(パネルEの黄矢印)、女性化乳房を認めていました。治療開始18ヶ月の時点で乳腺組織は明らかに増大し(パネルFの黄矢印)、治療前(パネルCの白矢印)はなかった乳腺へのピロリン酸集積を治療後(パネルDの白矢印)は認めるようになりました。なお、図の左端にある虹色棒の横に記載している数字100はピロリン酸高度集積、0は無集積を表し、40程度(黄緑色)以上を集積陽性と判定しました。

※著作権情報

雑誌発行元(Lippincott Williams & Wilkins LWW)

※利用制限

雑誌発行元(Lippincott Williams & Wilkins LWW)の許可

 

参考URL

Clin Nucl Med. 2026 Oct 1;51(10):908-910. doi: 10.1097/RLU.0000000000006624.

 

論文情報

Discordance of 99mTc-PYP uptake in the myocardium and breast both before and after treatment in transthyretin cardiac amyloidosis. Koji Takahashi, Daisuke Sasaki, Shigeku Uemura, Tomoki Sakaue and Katsuji Inoue. Clin Nucl Med. 2026 Oct 1;51(10):908-910. doi: 10.1097/RLU.0000000000006624.

 

問い合わせ先

氏名:髙橋 光司

電話: 0894-24-5127

E-mail:michitokitatsumasa@gmail.com

所属・役職:愛媛大学大学院医学系研究科地域救急医療学講座 研究員