研究内容 Research

研究テーマ1 血管新生分子機構の解明と制御法の開発

血管は、全身にくまなく存在する人体最大の臓器です。血管新生は既存の血管から新たな血管が形成される生理的現象で、癌や糖尿病など、幅広い疾患に関わっています。例えば癌では、自身が増大するために新生血管を通じて栄養や酸素を獲得すると言われています(Folkman, J, 1971)。これら疾患治療のためには、血管新生の分子メカニズムを正しく理解し、それを制御する方法を確立することが必須です。これまで我々の研究室では、血管新生が、その促進シグナルと抑制シグナルのバランス制御によって成立するという新しいコンセプトのもと、そのマスターレギュレーターCullin-3 (CUL3)の同定と、その分子基盤解析に成功してきました (Blood. 2012, Angiogenesis 2013, Cancer Sci. 2016, Sci. Rep 2017; J. Biochem 2017; Biol. Open. 2017)。現在、CUL3を中心とした血管新生制御メカニズムを細胞骨格制御、エピジェネティクス制御、細胞内輸送制御、脂質代謝制御といった「多面的時空間制御軸」から解明し、当該システムを阻害する低分子化合物や核酸アプタマーを開発し、癌治療へ応用する事を目指して研究を進めています。我々は解析手法として、古典的な生化学と細胞生物学に加え、最新の顕微鏡や質量分析装置、コムギ無細胞タンパク質合成系、核酸アプタマー開発、アルファスクリーンシステムを用いており、極めてユニークな研究を展開しています (J. Cell. Physiol. 2019; Nucleic Acid. Ther. 2020)。

研究テーマ2 EGFR-リガンドシグナル及び、CUL3/BTBP/基質タンパク質軸の破綻とがん

EGF受容体 (EGFR)とリガンドであるEGFファミリーの増殖因子は、細胞増殖・分化を始めとする様々な局面において、その制御の中核的役割を担っています。これらの分子群によるシグナル伝達経路の研究は、正常な細胞の挙動を解明するだけでなく、その破綻に起因するがんを理解するためにも不可欠です。我々はこれまで、EGFファミリーに属するHeparin Binding-EGF (HB-EGF)及びAmphiregulinの機能解析を通じて、新規の増殖制御機構 (J Cell Biol. 2003, J Biol Chem. 2009)、細胞内輸送経路 (J Cell Sci. 2008, J Cell Biol. 2008)、EGFファミリー産生機構 (Mol Biol Cell. 2012, J Biol Chem. 2013)を提唱してきました。現在、角化細胞や乳腺細胞等を実験材料として、EGFファミリーの機能差について研究を行っています (Sci. Rep. 2016)。多くの研究室ではEGFによってEGFR経路を活性化させる研究が行われていますが、我々は、異なるリガンドを使ってEGFR経路の活性化様式の違いを見出すという独自の着眼点に立って、がんに対する新しい診断・治療法の開発を目指した研究を進めています。

 また近年、CUL3システムの基質タンパク質認識アダプター分子であるBTBP (ヒトには183遺伝子が保存)に変異が入ることで、前立腺癌や髄芽腫が引き起こされる事が分かってきました。我々はこのCUL3システムの破綻依存的な癌化の分子基盤と病理学的意義に関しても精力的に解析を行っています (Biochem. Biophys. Res. Commun. 2018; Cancer Sci. 2019; Biochem. Biophys. Res. Commun. 2019; Mol. Biol. Cell. 2020. Life Sci. Alliance. 2021) 。