教授ご挨拶

平成26年7月1日に着任し、平成27年4月1日に講座の名称を「公衆衛生・健康医学講座」から「疫学・予防医学講座」に変更いたしましたが、令和3年10月1日をもって、「疫学・公衆衛生学講座」に再度変更いたしました。この理由として、令和4年度より愛媛大学では医学系研究科と農学研究科が連携して「医農融合公衆衛生学環」と称する公衆衛生大学院修士課程を設置しております。当講座はこの大学院の基幹となるため、講座名に公衆衛生学を改めて明示した次第です。

本講座は、昭和50年に木村慶教授の下、「公衆衛生学講座」として開講し、小西正光教授(平成7年)、谷川武教授(平成20年)の3代の教授のご尽力によって発展してまいりました。4代目の教授として任務を遂行できておりますこと、皆様に感謝申し上げる次第です。幾多の著名学者や公衆衛生医師を輩出した「衛生学講座」が私の着任以前になくなっていたことから、学部での教育面では、医学科4年生を対象に「衛生学・公衆衛生学」を担当しております。加えて、医学科1年生を対象に「医学統計学」を医療情報学講座と共同して担当しております。

過去を振り返りますと、防衛医科大学校在学4年生の時に福岡大学医学部公衆衛生学助教授から防衛医科大学校公衆衛生学教授として赴任された古野純典教授との出会いが重要な岐路となりました。在学中から疫学に入り込んだわけではないのですが、分子生物学とは異なり、人を対象とした疫学という興味深い学問があることを知ることができました。

3年間の内科研修の後、京都大学大学院医学研究科内科系専攻博士課程(指導教官:北徹教授)に進学いたしましたが、色々と考えた末、分子生物学ではなく、疫学で学位を取得することを決断し、古野純典教授が九州大学にご栄転されていたことから、大学院2年生への進級時に九州大学大学院医学系研究科社会医学系専攻博士課程に転学いたしました。以後、疫学者として歩んでおります。

大学院在学中、自衛官の退職時健診データを用いた横断研究で、コーヒー摂取と血清脂質との関連を調べたのが私にとって初めての筆頭著者原著論文です。次いで、福岡心臓研究という症例対照研究で中高年別に心筋梗塞のリスク要因を検討し、私の学位論文となりました。近畿大学や福岡大学在職中は、小中学生や3歳児を対象とした横断研究、妊娠中から生まれた子を追跡する出生前コーホート研究、難病の症例対照研究を主導しました。

愛媛大学では平成27年度より中高年を対象とした「愛大コーホート研究」を開始しました。平成29年度には、愛媛大学の先端的研究グループを認定するリサーチユニット制度に採択され、「アジアでトップクラスの拠点形成:疫学研究ユニット」を主導し、令和4年度より「トップクラスの拠点形成:ヘルスデータサイエンス・疫学研究ユニット」として発展しております。「愛大コーホート研究」の初期段階であるベースライン調査は愛媛県内ほぼ全ての市町に展開し、約10400名の方にご参加いただきました。令和2年度から5年目の追跡調査も並行して実施しております。お陰様で、既にベースライン調査のデータを活用して、英文原著論文を公表しております。別途、平成27年度から3年間、「日本潰瘍性大腸炎研究」と称する症例対照研究を実施し、症例群384名、対照群666名よりデータを収集いたしました。平成19年度より開始しました出生前コーホート研究である「九州・沖縄母子保健研究」では追跡調査を継続しており、対象者のお子様が中学生となっています。このような疫学研究を実行できますのもひとえに調査にご参加いただいております皆様のご協力のおかげと、心より感謝申し上げます。これまで研究にご参加いただいております皆様、またこれから新規に研究にご参加いただきます皆様におかれましては、疫学研究の発展のため、特段のご協力を賜りますよう、何卒、よろしくお願い申し上げます。

今後とも、各種疾患発症のリスク要因及び予防要因解明を目的とした疫学研究を推進し、多くのエビデンスを創出することで、第一次予防医学の発展に貢献したいと考えております。また、疫学に興味を持つ学部学生や大学院生等には、第一次予防に資する疫学研究について学ぶ場を供し、情熱をもって指導してまいります。さらには、医療情報学講座の木村映善教授と連携を深め、愛媛県におけるヘルスデータサイエンスの展開や、様々なリアルワールドデータを活用した研究も推進いたしたく存じます。

疫学は公衆衛生だけでなく、臨床医学においても重要な学問であります。私どもの講座から、第一次予防医学の発展に貢献できる有能な疫学者、臨床疫学研究を適切に実践し英文原著論文としてエビデンスを公表できる臨床家、根拠に基づく医療或いは根拠に基づく公衆衛生学を十分に理解し医療保健活動を実践できる専門家を多数輩出できればと考えております。

No single study gives a conclusion. たった一つの疫学研究だけでは、その真偽はわからないのです。エビデンスを蓄積し、根拠の明確な予防プログラムを確立することが何よりも重要です。愛媛大学大学院医学系研究科および医農融合公衆衛生学環がトップクラスのヘルスデータサイエンス・疫学研究拠点となるよう、努力する所存です。

今後とも、ご指導ご鞭撻賜りますよう、何卒、よろしくお願い申し上げます。