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スタッフコラム

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Staff Introduction 天体写真と画像診断

スタッフ紹介

  • 津田孝治先生

    昭和58年入局。腹部画像診断のプロフェッショナルとして豊富な知識と経験で、各診療科からの信頼も厚く、当医局の画像診断の礎を築き上げた重鎮。スライドやPC内に、まばゆい輝きを放つ見たことの無い天体の画像が散りばめられ、CTやMRIの画像よりも注目を集めてしまう事がある。

はじめに

高校生の頃に天体写真の趣味にはまり、フィルムカメラで撮影し、自宅押し入れ暗室での現像や引き延ばしをしておりました。卒業して放射線科医としての仕事を開始してからは、多忙にまぎれてしまって、この趣味からは遠ざかることになってしまいました。天体写真の趣味を復活させたのは、15年前くらいにデジタル一眼レフが普及したころになります。デジタルカメラの進歩で、昔苦労して撮影した対象が容易に撮影でき、結果がすぐにわかるようになりました。近場での撮影のみならず、山へ遠征したりするようにもなりました。デジタル化とともに、PC上でPhotoshopを使った画像強調処理などをするようにもなりました。この天体写真の趣味と本業の画像診断には、不思議と共通するものがいくつかあります。これについて少し私見を含めて書いてみました。

1. アトラス

人体解剖は、画像診断の基本になります。同じく、星をみるときも、時間と方角で見えるものは、ほぼ決まっています。惑星は、日々位置を変えています。スターアトラス(星図)は、星をみるときは、必須のものです。水星を水星として認識したことのある人は、天文ファン以外では、ほとんどいないのではと思います。条件が良ければ、1等星以上に明るくなります(図1)。

知識がなければ、それを水星として認識できません。画像診断も同じで、正常解剖や病気の知識がなければ、見えているのに、疾患として捉えることができません。アトラスは、その意味で基本となるものです。名前のついた彗星がありますが、発見者の名前を冠されます。彗星は太陽に近づいてくると、太陽の熱などで、表面が崩壊し、長い尾を引くことがあります(図2)。

大彗星と言われるものでは。長大な尾を引き、天文ファンのみならず、一般の人の関心を引くことがあります。通常の星空のなかに、突如として出現する彗星ですが、日々位置を変えることになります。これを撮影するときも、起動要素から位置を推算して、星図上での位置を確認して撮影します。頭部の位置、尾の引く方向や長さからどうフレーミングするかというときに、アトラスやマップが必要です。画像診断においても、常に正常構造を意識しながら、見慣れないものを見つける事が重要です。

2. SN比: SNR (Signal to Noise Ratio)

夜の星という微弱な光をとらえて画像化するという作業は、本業の画像診断にも通じるところがあります。X線での撮影では、今は多くの撮影がデジタル化されています。デジタル化以前のフィルム撮影では、増感紙を用いた単純写真やImage Intensifierでの透視撮影など、若い先生たちの知らない事がいくつかありました。基本的には、X線をたくさん照射すれば、良い画像が撮影できるのですが、被曝が増えることやX線管球の容量から、ある程度の線量で、画像を強調する工夫がなされてきました。昨今の被曝に対する意識の高まりから、今も同じ努力が続けられています。

天体撮影も人工の光(Noise)に埋もれがちな星という微弱な光(Signal)をとらえる事になります。SN比という用語は色々なところで出てくるのですが、良い画質や音質を得るためには、SN比が良好であるという事が重要です。Noiseの低減のためには、まずは暗いところで撮影することが重要です。街中では、明るい星しか見えないのに、キャンプなどで出かけたとき暗い空の下で見る星は大変明るく輝いて見えます。暗く澄んだ夜空が、星の撮影には重要です。その代表としては、ハワイ島山頂のすばる天文台や宇宙空間にあるHubble宇宙望遠鏡になります(図3)。

そこでは、大口径の望遠鏡を利用して、微弱な光を集光することになります。人間の瞳は7mmで網膜の感度はそれほど高いものでありません。それに代わって、望遠鏡のレンズで光を集光することになります。7cmの望遠鏡では100倍の光を集光できます。すばる望遠鏡は口径が8.2mもあるので、肉眼よりも137万倍の光を集光しています。望遠鏡の性能は、倍率ではなく口径に依存することになります。現在の天体写真では、網膜に代わって、その焦点位置にデジタルカメラのCCDやCMOSセンサーに光を蓄積して、デジタル信号化して画像化していきます。感度を上げるとより暗いものが写るのですが、同時にセンサーのノイズが増加します。そのノイズを低減していく工夫も必要になります。

3. NEX (number of excitation)とスライス厚

NEXとは、MRIでの撮影での加算回数になります。すなわち何度も撮影したMRI信号を加算することで、ノイズに埋もれた微弱なMRIの信号を強調することになります。NEXをn回すると、SN比はroot n倍になります。天体写真では、撮影枚数を増やしてノイズ低減を図ります。元々暗い星雲などでは、強調処理をしないと見栄えのする綺麗な写真にならないのですが、光害以外にカメラ内部でも生じるノイズがあります。これを減らすために何回も撮影した画像を加算平均して行く処理は、MRIのNEXと同じ事です。これを星の世界では、compositeやstackという手法となります。

マルチスライスCT時代になり、多数の薄いスライスの画像が生成されることになりました。3D作成用には、薄いスライスデータを用いることになりますが、通常の診断の際には薄いスライスではノイズが多くなります。診断にはある程度のスライス厚での画像のほうが、SN比が良くなります。すなわち先ほどのNEXと同様に、0.5mmスライス厚のCT画像のCTと5mm厚のスライス画像とで、10枚重ねた効果が得られ、√10(3.16)倍SN比が向上します。薄いスライスでないと見えない構造もありますが、薄いスライスの欠点も十分理解することが必要です。

4. AI (人工知能)とCNR(Contrast to Noise Ratio)

近年CTでの画像再構成法は、従来のFiltered back projection法から逐次近似法を利用した再構成、さらに最近ではAIを利用した再構成法も出現してきました。この背景には、CTでの被曝量を低減することが重要な課題となっているからです。画質と放射線被曝の関係はトレードオフにあり、被曝を低減すると画質が劣化することになります。この画質劣化を防ぐために、逐次近似法がまずは試されることとなりました。残念ながら、逐次近似法の再構成では、特有のオイルペイティング様の不自然な画像となりやすいのです。低線量でも、より自然な画質でコントラストや空間分解能を保持した画像が、今後の画像再構成には望まれています。

理解しづらい画質の指標にCNRがあります。簡単に言えば、低コントラスト領域における分解能を意味します。星は背景となる暗い宇宙空間に比し、高コントラスとなります。しかし、モヤモヤ広がる星雲は低コントラストで彩度も低くなります。これを綺麗に描写するためには、低コントラスト領域のノイズを減らすことが重要になります。淡い星雲を強調するには、淡い低コントラスト領域をいかにノイズを増やさずに強調するかということがキーとなります。ノイズを減らす最も手軽な処理は、ぼかすことです。しかし、ぼかすと空間分解能が低下して、ぼやけた画像となってしまいます。空間分解能を落とさずに、ノイズを低減させる手法として、昨今はやりの人工知能(AI)を利用した画像処理が、利用されています。私の好きな天体写真でも、高画素数で高感度のセンサーが用いられ、カメラ内部処理で低ノイズ化が図られているのですが、ISOなどのセンサー感度を上げると避けられないのがノイズとなります。ノイズが増えると、分解能の低化につながり、綺麗なシャープな写真とは言えません。まずは、撮像枚数を稼ぐことが、一般的な手法ですが、一晩に撮影できる時間は限られています。画像処理のだいご味は、いかにノイズ感を少なく、高コントラストな画像に仕上げるかにかかってくるのです。画像処理ソフトの代表となるPhotoshop上のプラグインに、最近はAIを利用したものが出てきました(図4)。

高画素の画像を処理するには、PCの能力にかかってくるのですが、こんなところにも類似点があります。近年のPCのCPUはマルチコア化が進み、高度の演算処理が可能となります。今のPCでも、この様な処理を走らせると、しばらく時間がかかってしまいます。高性能のPCが欲しくなっている今日この頃です。

5. MIP (最大濃度投影法)と比較明合成法

通常、星の撮影は地球の自転によって、長時間の撮影では、星は流れて写ります。星の流れを無くし、淡い光を蓄積して撮影する方法をガイド撮影と言います。赤道儀という望遠鏡架台に、カメラや望遠鏡を載せてモーターで星を追尾しながら撮影していきます。これの制御にも、PCでのコントロールがなされます。MRIでの呼吸同期撮影や、心臓CTなんかの心電図同期も動いているものをできるだけ、静止させて撮るという同じコンセプトとなります。

画像処理の再構成法の一つに、MRAなどで良く用いられるMIPという処理法があります。これは、いくつかのスライスを合成する際に、最も高濃度(高信号)となる部分を描出する手法です。星の世界でも、比較明合成法というのがあります。この手法は、固定撮影法で用いられます。カメラを動かさないので、背景となる風景や建物が動かずに写り、星の軌跡が線となって写ってきます(図5)。

最も、単純な星の撮影ですが、星と景色を撮る場合に良く使われます。夜は暗いと言っても、長い時間の露光では、背景の星空も風景も真っ白になってしまいます。そこで、適正な露光の写真を合成します。この時、MIPと同じ手法である比較明合成を用いると、地球の自転を感じることのできる写真となります。

6. 最後に

天体画像処理のなかに、Wavelet変換を利用した惑星画像処理などもありますが、こちらは私の領域ではないので割愛しますが、今はVoyagerで撮影した様な驚異の惑星画像を撮影する方もおられます。オタクの世界の技術も進歩する一方です。

良い画像とは、ノイズが低く、適切なコントラストと彩度を保持した、分解能の高い画像と言えます。これを目的に画像処理を加えて行くことになります。しかし、元画像(データ)が重要であることは、言うまでもありません。写っていないものまで、画像処理で描写することはできません。医用画像も同一で、良い撮像機器を用い、適切なパラメータで良い画像データを取得する事が、診断に適した画像を作成することの基本となります。同じ機器を使っていても、撮影する医師や技師の熱意のある画像はとっても綺麗で、説得力のある画像になります。画像の基本に立ち返って、CTやMRIの画像を見直してはいかがでしょうか。