これまでの経緯(小児期発症疾患を有する患者の支援制度)

子どもたちが、慢性疾患を乗り越えて、成長して、発達し、社会的に自立できるようになることは、小児医療をはじめ、小児保健・福祉、教育など、子どもに携わるみんなの共通の願いです。
小児慢性特定疾病児童等自立支援事業(以下、自立支援事業)は、小児期発症疾患を有する患者の医療費を含む社会生活支援を目的とした制度として、当初は小児慢性特定疾患治療研究事業が実施されていました。同事業は児童福祉法の中で、小児期発症の慢性疾患である小児慢性特定疾病を抱える子どもとその家族への公的な支援策として一定の役割を果たしてきました。しかし、現在では医療技術の向上に伴い治療は飛躍的に進歩し、慢性疾患を有している患児が、社会生活に参加する機会も多くなり、成人期に達する患児も増加してきています。慢性疾病を持つ小児の長期療養が得られるようになってきたため、医療費助成が裁量的経費によるものであることや、自立支援に関する取り組みが不十分であるなどの課題も指摘されるようになってきました。そのため、「慢性的な疾病を抱える児童及びその家族の負担軽減及び長期療養をしている児童の自立や成長支援について、地域の社会資源を活用するとともに、利用者の環境等に応じた支援を行う」との目的で、平成27年1月の児童福祉法の改正とあわせて同事業の内容が見直され、医療費助成制度は義務的経費化されるとともに、対象疾患の拡充、および新規の法定事業として自立支援事業が追加されました。

自立支援事業の現状

自立支援事業は、都道府県・指定都市・中核市・児童相談所設置市(以下「実施主体」)が主体となり、「幼少期から慢性的な疾病にかかっているため、学校生活での教育や社会性の涵養に遅れが見られ、自立を阻害されている児童等について、地域による支援の充実により自立促進を図る」目的で実施されるものです。
自立支援事業では必須事業として、療育相談や巡回相談指導事業をはじめとした「相談支援事業」、および「小児慢性特定疾病児童等自立支援員(以下、自立支援員)による支援事業」が位置づけられています。さらに、任意事業として、「療養生活支援事業」「相互交流支援事業」「就職支援事業」「介護者支援事業」などを行うことが推奨されています。しかし、それぞれの実施主体では、運営にあたっての明確な指針がないため、運営方法を模索しているのが現状であり、運営状況には自治体間で差異があることも指摘されています。

自立支援事業の発展のための研究班の取り組み

自立支援事業の尚一層の質的及び量的向上のためには、各実施主体における自立支援事業の実態を把握するとともに、自立支援事業の先進的取組や好事例に関する情報を収集し具体的な情報を公表することなどが必要です。

本研究班では、具体的な情報収集に努め、(1)好事例集を発行することにより情報共有し、(2)全国実施状況調査の解析を継続して行い経年的変化を把握し課題を抽出し、研究のなかで明らかになった小慢児童とその家族のニーズに即した新規研究も随時追加して、(3)2018-2019年度に行った自立支援員による相談対応、保健所の役割、保育所・幼稚園への就園、就学・学習支援、就労支援、きょうだい児支援、移行期支援についての実態調査および相談事例のモデル対応集などに基づいて、すべての情報をまとめて、自立支援員のための自立支援事業実施手引きや自立支援員研修教材の作成を目指し、今後の自立支援事業の発展に貢献できるように取り組んでいます。
これらの研究成果により、小慢児童の尚一層の健全育成が図られ、小慢児童とその保護者やきょうだいが、より一層安心して暮らすことのできる地域社会が実現することを願っています。

みなさまのご協力をどうぞよろしくお願いいたします。

厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業(H30 – 難治等(難)- 一般 – 017)
『小児慢性特定疾病児童等自立支援事業の発展に資する研究』研究班代表
国立大学法人 愛媛大学大学院医学系研究科 地域小児・周産期学講座
檜垣 高史