前立腺がんの分子機構とDNA修復

SPOP(Speckle-type POZ protein)は、タンパク質の分解を制御するユビキチン化に関わる分子で、前立腺がんで高頻度に遺伝子変異を認める分子の一つです。

私たちは、SPOPが前立腺がん細胞におけるDNA修復とゲノム安定性の維持にどのように関わっているのかを研究しています。特に、DNA複製に伴って生じるDNA損傷と、トポイソメラーゼ2A(TOP2A)との関係に注目しました。

SPOPの機能低下によりDNA損傷が蓄積する

AR陽性前立腺がん細胞においてSPOPを抑制すると、DNA損傷の指標であるγH2AXが増加しました。

さらに、SPOPの機能低下により、DNAに結合したTOP2Aが十分に除去されず、TOP2A–DNA cleavage complexが蓄積することを明らかにしました。

TOP2AをDNAから取り除く仕組み

TOP2AはDNA複製に伴う構造的な問題を解消する重要な酵素ですが、その過程で一時的にDNAと共有結合します。

私たちの研究から、SPOPはTDP1・TDP2などのDNA修復関連タンパク質を介して、DNAに結合したTOP2Aの除去に関与することが示されました。

SPOPが正常に機能しないとTOP2AがDNA上に蓄積し、DNA二本鎖切断やゲノム不安定性につながる可能性があります。

がん関連SPOP変異がDNA修復を変化させる

前立腺がん関連SPOP変異の一つであるF133Vを発現させると、TOP2Aの核内蓄積とγH2AXの増加が認められました。

またF133VではTDP2やMRE11の発現低下も認められ、SPOP変異によるDNA修復機構の異常が、前立腺がんにおけるゲノム不安定性や腫瘍進展に関与する可能性が示されました。

分子機構の理解から新しい治療戦略へ

DNA修復機構の異常は、前立腺がんの発生・進展だけでなく、治療への反応にも関係します。

SPOP、TOP2A、ARシグナルとDNA修復の関係をさらに明らかにすることで、前立腺がんの分子特性に応じた新たな治療戦略につなげることを目指しています。

                                                       Watanabe et al. Mol. Bio. of the Cell 2020

関連論文

SPOP is essential for DNA-protein cross-link repair in prostate cancer cells: SPOP-dependent removal of topoisomerase 2A from the topoisomerase 2A-DNA cleavage complex
Watanabe R, Maekawa M, Hieda M, Taguchi T, Miura N, Kikugawa T, Saika T, Higashiyama S.
Mol Biol Cell. 2020 Mar 15;31(6):478-490.
PMID: 31967940