研究室紹介
研究室の研究内容
産婦人科学領域を生殖医療、腫瘍、周産期、更年期および乳腺疾患部門の4分野に分け、研究チームを編成し、研究を行っている。研究のモチベーッションは常に、臨床の問題点に立脚することを意識している。
生殖医療研究部門
生殖医療研究部門では、
①子宮内膜症に関する研究、
②卵の成熟・老化、
③着床に関与する新規蛋白質の同定と機能解析
の3つに焦点をあて、問題解決に取り組んでいる。子宮内膜症は不妊症の主な原因のひとつであり、不妊症患者の約半数がこの病気を持っていると言われている。現在、子宮内膜症の確定診断には手術が必要であるが、将来血液検査で診断が可能となるよう、新規診断方法の開発を目指している(特許出願済み。持田製薬との共同開発中)。さらに、内膜症進展における内膜間質の役割についても検討中である。卵の成熟・老化については、当大学、今村教授による光ダイナミクスの手技協力を得て、lgr4などの受精卵成熟に関与していると考えられるタンパク質発現を追跡している。さらに着床とlgr4との関連について、東北大学農学部との共同研究中であり、現在、一名国内留学中である。
腫瘍研究部門
腫瘍研究部門では、アデノウイルス等のオンコリティックウイルス(OV)を作製し、婦人科腫瘍、特に予後不良の卵巣癌に対する新規治療法の開発に取り組んでいる。ウイルス療法は、世界的にみても局注あるいは腹腔内投与どまりであり、治療効果も思わしくはなかったが、2011年になってNature誌に全身投与の効果が報告されるに至った。改良の余地は残されているが、第4の治療法になる可能性が示唆された。我々も、当科開発のポリマーその他の加工・修飾により、卵巣癌へより集積し、かつ中和抗体の影響を受けない新規ウイルスを作製し、より強力で臨床応用可能なウイルス癌治療の開発に取り組んでいる。最終的にはしっかりとした基礎研究データーを蓄積した後、全国発の卵巣癌患者への治療を実現させたい。その他、iPC細胞の作製と抗癌剤感受性への応用、腹腔内腫瘍免疫の検討、卵巣癌発生機所の解明などの研究を推進している。
周産期研究部門
周産期研究部門に関して、①妊娠初期における絨毛細胞の子宮内膜間質、筋層と血管壁への浸潤がその後の良好な胎児発育に必要であると言われているが、妊娠高血圧症候群(PIH)ではこれらの浸潤能が低下していると言われている。よってPIH発症メカニズム解明のため、低酸素環境が妊娠初期絨毛細胞の浸潤能に及ぼす影響を検討している。②近年クローンライブラリー法による腟内細菌叢の解析が可能となり、従来とは異なった知見が得られている。この腟内細菌叢の変化と切迫早産など産科合併症発症の関連、および産科合併症発症予防に関して検討している。③さらに、脳性小児麻痺の主原因である脳室周囲白質軟化症(PVL)の病態を明らかにすると共に、どんな再生医療が今後適応されるのかについて、実験的に検討している。
周産期における胎内診断及び胎児治療
超音波パルスドップラー法、パワードップラー法を用いた胎児循環評価や胎児異常に対するMRI検査、3D超音波検査を導入し、胎児の異常や奇形の診断精度向上に努めています。また臍帯穿刺による胎児採血や胎児輸血などの胎内治療も行っています。
合併症妊娠の治療
内分泌代謝異常合併妊娠(糖尿病、甲状腺機能障害など)、悪性腫瘍合併妊娠(子宮頸癌、卵巣癌など)、血液疾患合併妊娠(突発性血小板減少性紫斑病・白血病など)、循環異常妊婦(心奇形など)などの管理をそれぞれの疾患の専門医と小児科との連携のもとに行っています。
研究内容
子宮胎盤循環における血管新生についての検討
妊娠高血圧症候群発症におけるアンジオテンシンレセプターの役割
胎児由来幹細胞による母体組織の再生に関する検討
妊娠時における血小板血流動態(微小循環学的手法を用いた検討)
更年期部門
2011年に、日本更年期医学会が日本女性医学会に名称変更となり、更年期障害、高脂血症、骨粗鬆症等の40歳代から50歳代の更年期疾患からさらに高齢の老年期疾患まで幅広い領域を研究対象とすることになりました。老年期疾患には、メタボ疾患、高血圧、糖尿病、心疾患、消化器疾患等の内科的疾患が多く含まれ、女性医学の見地から高齢化社会に即応した新しい更年期・老年期医療の構築が望まれています。このため、更年期の身体的変化に由来する更年期疾患、さらに加齢変化が加わることにより発病してくる老年期疾患の診療と研究を行っております。具体的には、従来のホルモン治療を中心とした更年期医療に加えて、境界領域にある老年期疾患の早期診断と進行の予防そして治療およびその臨床研究を行っております。また、集団検診・健康診断の受診率の低い家庭の主婦を中心に、更年期・老年期女性のヘルスケアに対する新たな女性医療の確立に努めています。
乳腺疾患部門
日本産婦人科乳癌学会は、2002年の第1回から2011年には第17回の学会が開催され、150名余りの乳房疾患専門医がすでに認定されています。乳癌は、最近、増加が著しく、女性の癌の死亡率で3番目、罹患率で1番目と、増加の一途をたどっており、その増加率も一番顕著です。婦人科癌としては子宮頸癌、子宮体癌、卵巣癌がありますが、乳癌は、全婦人科癌の死亡率で2倍、罹患率で5倍となっています。乳癌は、検診率が20%と欧米に比べて非常に低いため、検診率をいかにして上げていくかが問題となっています。乳癌は、20歳代から発症し、50歳前後にピークとなりますが、この年代の女性は産婦人科に受診する機会の多い年代であり、産婦人科医師のこの分野での貢献が求められています。当科でも、早くから触診、超音波検査、マンモグラフィーによる乳癌検診に取り組み、認定医も輩出し、実績を重ねているところです。また、ホルモン的に女性ホルモンの関わりの多い臓器であることから、研究対象としても癌遺伝子治療の基礎的研究も行っております。