第79回愛媛県産婦人科医会学術集談会のご案内 令和7年12月6日(土)
第79回愛媛県産婦人科医会学術集談会
プログラム
【第1群】14:30-15:10 座長:池田 朋子
1) 診断に苦慮した先天性食道閉鎖症の一例
愛媛県立今治病院 産婦人科
大柴 翼、田口晴賀、井上翔太、堀 玲子、濱田洋子
2) 癒着胎盤のため子宮摘出を行った1例
市立宇和島病院 産婦人科
山内雄策, 石村景子, 甲谷秀子, 清村正樹
3) 妊娠33週で帝王切開を行ったSHiP(Spontaneous hemoperitoneum in pregnancy)の1例
愛媛県立中央病院臨床研修センター1)
愛媛県立中央病院 産婦人科2)
渡部あすか1)、森 美妃2)、門田 麗2)、河端大輔2)、井上奈美2)、
西野由衣2)、井上翔太2)、上野愛実2)、池田朋子2)、田中寛希2)、
阿部恵美子2) 、近藤裕司2)
4) ドロスピレノン単剤経口避妊薬(Progestine-Only Pill)の初期使用経験
すがクリニック消化器内科・婦人科
須賀真美
【第2群】15:10-15:50 座長:森本 明美
5) 病態解釈に苦慮した臨床的Li-Fraumeni症候群の1例
四国がんセンター 婦人科
日比野佑美、菰下智貴、横山貴紀、藤本悦子、坂井美佳、竹原和宏
6) 子宮頸がんの脊髄転移・がん性髄膜炎に対しセミプリマブを投与した
1例
愛媛大学医学部附属病院 総合臨床研修センター1)
愛媛大学大学院医学系研究科 産科婦人科学講座2)
北村建人1)、市川瑠里子2)、宇佐美知香2)、門田恭平2)、藤田茉由貴2)、
高崎 萌2)、島瀬奈津子2)、宮植真紀2)、伊藤 恭2)、中橋一嘉2)、
矢野晶子2)、吉田文香2)、宮上 眸2)、村上祥子2)、安岡稔晃2)、
森本明美2)、内倉友香2)、松原裕子2)、松元 隆2)、杉山 隆2)
7) 子宮筋腫を伴う閉経後子宮捻転の1例
愛媛県立中央病院
門田 麗、井上翔太、河端大輔、井上奈美、西野由衣、上野愛実、
池田朋子、森 美妃、田中寛希、阿部恵美子、近藤裕司
8) 子宮体癌IVB期の癌肉腫に対してDUO-Eレジメンが奏効している
1例
四国がんセンター 婦人科
菰下智貴、日比野佑美、横山貴紀、藤本悦子、坂井美佳、竹原和宏
—————休憩 15:50-16:05—————
【第3群】16:05-16:55 座長:田中 寛希
9) 両側チョコレート嚢胞と周囲癒着により同定困難であった漿膜下筋腫の一例
松山赤十字病院 産婦人科
藤井貴頌、藤岡 徹、田中万輝、平山亜美、森下佳登、行元志門、瀬村肇子、
髙杉篤志、梶原涼子、本田直利、栗原秀一
10) 腹腔鏡手術で診断、治療した卵巣妊娠の一例
松山赤十字病院 産婦人科
岡田莉子(初期臨床研修医)、森下佳登、栗原秀一、田中万輝、藤井貴頌、
平山亜美、行元志門、瀬村肇子、髙杉篤志、梶原涼子、本田直利、藤岡 徹
11) 当院でのロボット支援下手術時の下腿圧についての検討
愛媛大学医学部附属病院 産婦人科
藤田茉由貴、宇佐美知香、門田恭平、高崎 萌、島瀬奈津子、宮植真紀、
市川瑠里子、伊藤 恭、中橋一嘉、中野志保、矢野晶子、田文香、宮上 眸、
村上祥子、安岡稔晃、森本明美、内倉友香、松原裕子、松元 隆、杉山 隆
12) LSC後に妊娠し帝王切開にて分娩となった骨盤臓器脱の一例
松山赤十字病院 産婦人科
平山亜美、藤岡 徹、田中万輝、藤井貴頌、森下佳登、行元志門、瀬村肇子、
髙杉篤志、梶原涼子、本田直利、栗原秀一
13) 同一術者によるTLH初執刀から35例経験までの手術時間の推移
松山赤十字病院 産婦人科
森下佳登、藤岡 徹、田中万輝、藤井貴頌、平山亜美、行元志門、瀬村肇子、
髙杉篤志、梶原涼子、本田直利、栗原秀一
【特別枠】16:55-17:25 座長:内倉 友香
産婦人科疾患の視点からみた肥満症
愛媛大学医学部附属病院 病院長 杉山 隆
【学術講演】17:25-17:45
あすか製薬株式会社 学術情報担当 坂本 宏朗
『子宮内膜症の新たな治療戦略』
—————休憩 17:45-18:00—————
【特別講演】18:00-19:00 座長:杉山 隆
『これまでの歩みから伝えたいこと―がんゲノム医療とHPVワクチン―』
琉球大学大学院医学研究科 女性・生殖医学講座
教授 関根 正幸 先生
【特別講演】
『これまでの歩みから伝えたいこと―がんゲノム医療とHPVワクチン―』
琉球大学大学院医学研究科 女性・生殖医学講座
教授 関根 正幸 先生
私のライフワークとしている「がんゲノム医療」と「子宮頸がん予防」に関して、これまで分かってきたことと今後の方向性についてまとめたみたい。
婦人科がん治療に使用できる薬剤は他臓器がんに比較して多いといえる状況ではなかったが、今や婦人科がんがゲノム医療のトップランナーに躍り出ている感がある。進行卵巣がん治療においては、BRCA遺伝学的検査や相同組換え修復不全(HRD)の有無に基づいた維持療法の薬剤選択が行われ、BRCA遺伝子に病的バリアントを有する家系が多数見いだされてきている。遺伝カウンセリングでは、関連がんの発症リスクやサーベイランス、予防法についての説明を行うが、参照データはほとんどが欧米人のデータである。ゲノム医療の現況と、日本人独自のデータから分かってきたことを解説する。
子宮頸がん予防に関しては、HPVワクチンの積極的勧奨が中止されていた影響はあまりにも大きく、対象世代ではHPV感染率の急上昇が見られている。9価ワクチンが公費接種に採用されたもののHPVワクチン接種率は依然低迷している状況のなか、男性接種の議論も始まったが、費用対効果に疑問があるとして導入は見送られている。検診事業ではHPV単独検診の導入が決まったが、「液状細胞診への統一」と「HPV再検対象者のデータベース管理」というハードルにより、ほとんどの自治体で準備が進んでいない状況である。HPVワクチンの恩恵を受けるための日本の課題、特にキャッチアップ接種と男性接種に関して議論したい。
【ご略歴】 琉球大学大学院医学研究科 女性・生殖医学講座
教授 関根 正幸 先生
<略歴>
1994年 新潟大学医学部卒業
2002年 新潟大学大学院卒業、助手採用
2005年 米国Harvard Institute of Medicine留学
2006年 新潟大学大学院医歯学総合研究科 産科婦人科・助教
2010年 長岡赤十字病院産婦人科・副部長
2013年 新潟大学大学院医歯学総合研究科 産科婦人科・助教
2014年 新潟大学大学院医歯学総合研究科 産科婦人科・講師
2015年 新潟大学大学院医歯学総合研究科 産科婦人科・准教授
2023年10月 琉球大学大学院医学研究科 女性生殖医学講座・教授
<専門医>
産婦人科専門医・指導医
婦人科腫瘍専門医・指導医
がん治療認定医
臨床遺伝専門医
遺伝性腫瘍専門医
産科婦人科内視鏡技術認定医(腹腔鏡)
内視鏡外科学会技術認定医
細胞診専門医
ロボット術者認定資格: da Vinci Certificate
<役職>
日本産科婦人科学会代議員
日本婦人科腫瘍学会代議員
日本臨床細胞学会評議員
日本婦人科がん分子標的研究会理事
日本婦人科がん会議世話人
【第1群】
1) 診断に苦慮した先天性食道閉鎖症の一例
愛媛県立今治病院 産婦人科
大柴 翼、田口晴賀、井上翔太、堀 玲子、濱田洋子
【緒言】先天性食道閉鎖症の発症頻度は2500から3000出生に1人といわれており、胎児診断が難しい疾患の一つとして知られている。今回、診断に苦慮した先天性食道閉鎖症の症例を経験したので報告する。
【症例】27歳。3妊2産。自然妊娠成立後、当院での分娩希望のため近医より妊娠15週に紹介となり、以降当科で妊娠管理を行っていた。胎児推定体重は-1.3~-0.7SDの範囲内で順調に発育を認めており、AFIは20cm前後で推移していたが34週の妊婦検診時にAFI 25cmと羊水過多を認め、児の推定体重は-1.6SDとFGR傾向を認めた。経腹エコーで児にポーチサイン様の所見を認めるも明らかな胃胞が確認でき、精査のため胎児MRIを撮影するもエコーと同様の所見で食道閉鎖の診断には至らず、気管の異常も認めなかった。当院の小児科と協議の結果、当院で分娩を行う方針となった。35週時の妊婦検診時にNSTで軽度遅発一過性徐脈を認めたため入院管理とした。以降児は-2.0~-1.6SDで緩徐に発育を認めており、39週1日にオキシトシンで分娩誘発を施行し、同日児娩出に至った。児は分娩後NGチューブを挿入されレントゲンでコイルアップ所見を認め食道閉鎖が疑われた。またエコーでVSD、大動脈騎乗の心疾患も疑われたため大学病院へ緊急搬送となった。
【結語】今回、先天性食道閉鎖症の診断に苦慮した症例を経験した。羊水過多を認める場合、食道閉鎖の可能性も考慮する必要がある。
2) 癒着胎盤のため子宮摘出を行った1例
市立宇和島病院 産婦人科
山内雄策, 石村景子, 甲谷秀子, 清村正樹
【緒言】癒着胎盤は既往帝切, 前置胎盤, 子宮手術既往, 高齢妊娠, 体外受精などがリスク因子とされる. 今回我々は, これらリスク因子のない妊婦の経腟分娩後に出血が持続するため, 弛緩出血として治療開始したが, 後日胎盤遺残と判明し, 子宮摘出に至った症例を経験したので報告する.
【症例】36歳, 2妊1産. 前回は正常経腟分娩であった. 自然妊娠し, 経過は概ね良好であった. 妊娠40週1日に前医で経腟分娩(男児, 2672g)となったが, 胎盤娩出は遅延し, 胎盤用手剥離が施行された. 胎盤重量は220gと小さく, 産後出血量は1500gに達し, 当院に母体搬送された. 経腹超音波では胎盤遺残を指摘できず, 弛緩出血と診断した. 子宮内バルーンタンポナーデ法を行うも, 出血は持続した. 造影MRIを行ったが, 胎盤遺残は指摘できなかった. 計3000gの出血となったため, 子宮動脈塞栓術を施行した. その後は止血を得られ, DICへの進展はなかった. 産褥2週間検診時に経腟超音波で胎盤遺残を疑う所見を認めたが, 症状なく保存的加療を行った. その8日後に発熱を主訴に受診された. 造影MRIでは胎盤遺残が疑われ, 同部への感染と思われた. 抗生剤治療を行うも改善なく, 再度子宮出血が持続し, 単純子宮全摘術を行った. 病理検査では, 癒着胎盤の診断であった.
【結語】子宮内に血種を認める際は胎盤遺残をMRIで診断できない場合があるため, 臨床経過から胎盤遺残を疑う場合は注意する必要がある.
3) 妊娠33週で帝王切開を行ったSHiP(Spontaneous hemoperitoneum in pregnancy)の1例
愛媛県立中央病院臨床研修センター1)、愛媛県立中央病院 産婦人科2)
渡部あすか1)、森 美妃2)、門田 麗2)、河端大輔2)、井上奈美2)、
西野由衣2)、井上翔太2)、上野愛実2)、池田朋子2)、田中寛希2)、
阿部恵美子2) 、近藤裕司2)
【緒言】Spontaneous hemoperitoneum in pregnancy(SHiP)は、妊娠中から産褥期における外傷、子宮破裂、卵巣出血、異所性妊娠をのぞく急性腹腔内出血である。今回我々は妊娠33週で帝王切開を施行したSHiPの1例を経験したため報告する。
【症例】33歳、G2P1。既往歴として31歳時に異所性妊娠のため腹腔鏡下左卵管切除術と32歳時に内膜症性嚢胞のため腹腔鏡下右卵巣腫瘍核出術施行歴があった。近医にて凍結融解胚移植後妊娠成立し、妊娠11週時に紹介となった。初診時右卵巣に約4㎝大の内膜症性嚢胞を認めた。妊娠32週4日腹痛を主訴に来院し頻回の子宮収縮を認めたため、切迫早産と診断し入院管理を開始した。子宮収縮抑制後も腹痛が改善しなかったため、妊娠32週5日腹部CTを施行し、右卵巣内膜症性嚢胞の増大を認めた。CT所見よりSHiPを疑ったが、妊娠週数を考慮し保存的に経過をみる方針とした。しかし疼痛コントロール困難で徐々に貧血が進行したため、妊娠33週3日緊急帝王切開を施行した。児は女児、2007g、46cm、Apgarスコア8/8(1分/5分)、臍帯動脈血pH7.33、早産児のためNICU入院となった。右卵巣腫瘍が破裂しており,腹腔内出血を認めていた。右卵巣周囲の血腫を除去し出血部位の縫合と圧迫にて止血を行った。手術時間は2時間27分、術中出血量は4011ml(羊水込み)であった。術後はICUに入室したが術後1日目に一般病棟に帰室した。術後経過は良好で術後6日目に退院となった。
【結語】切迫早産と診断し入院管理を開始したが、妊娠33週で帝王切開を施行したSHiPの1例を経験した。妊婦中の腹痛の鑑別疾患としては本疾患も念頭において管理を行う必要性がある。
4) ドロスピレノン単剤経口避妊薬(Progestine-Only Pill)の初期使用経験
すがクリニック消化器内科・婦人科
須賀真美
2025年6月30日、日本初のドロスピレノン単剤経口避妊薬(Progestin-Only Pill: POP)が発売された。従来国内で使用されてきた経口避妊薬はエストロゲン・プロゲスチン配合剤が中心であり、静脈血栓塞栓症リスクや片頭痛を理由に使用を断念せざるを得ない症例も少なくなかった。POPはエストロゲンを含まないことから、これらの背景を有する女性への新たな選択肢として注目されている。当院では発売以降、16例に導入した。対象は避妊を希望する20〜40代の女性で、血栓リスクや片頭痛を有する例、または以前に配合経口避妊薬(COC)で副作用があった例、さらに避妊を望みつつ血栓症リスクを不安に思う例を含んでいた。不正出血は2例に認め、1例は飲み忘れ、もう1例は内服開始時の胃腸炎罹患が影響したと考えられた。重篤な有害事象はなく、現在も14例が継続中である。価格面での課題はあるものの、患者からは新しい避妊法としての有用性が評価されている。
POPは産後間もない女性にも使用可能であり、添付文書上、授乳婦への投与に際しては「治療上の有益性及び母乳栄養を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること(ヒト母乳中へ移行するとの報告あり)」との注意喚起がある。ただし禁忌ではなく、従来のエストロゲン・プロゲスチン配合剤(COC)で投与が制限されていた産後早期の女性にも選択肢が広がった点は特徴的である。避妊選択肢の拡大はSRHRの観点からも意義があり、今後さらなる症例の蓄積と長期的な追跡が期待される。
【第2群】
5) 病態解釈に苦慮した臨床的Li-Fraumeni症候群の1例
四国がんセンター 婦人科
日比野佑美、菰下智貴、横山貴紀、藤本悦子、坂井美佳、竹原和宏
【緒言】Li-Fraumeni症候群(以下LFS)は生殖細胞系列におけるTP53病的バリアントを原因とするがん易罹患性症候群で、浸透率は女性でほぼ100%、その約半数は同時・異時性に複数の癌を発症する。
【症例】30歳代女性、臨床診断基準によりLFSと診断されている。10歳代に骨肉腫、20歳代で乳癌、30歳代で甲状腺腫瘍の既往がある。数年前から当院でサーベイランスを開始し、X年に子宮頸部細胞診異常を認め生検で子宮頸癌と診断された。腹部・骨盤部MRI検査では1.5㎝大の子宮頸癌のほか、肝嚢胞性病変、傍大動脈・右腎周囲リンパ節転移、椎体転移を疑う所見を認め、子宮頸癌ⅣB期(cT1b1N2M1)と推定した。全身化学療法が第一選択であるが本人の希望により手術(拡大子宮全摘+左付属器摘出+右卵管切除)を施行、病理組織学検査で子宮頸癌(HPV非依存性未分化癌)と診断された。術後化学療法前に病態評価目的にPET-CT検査を施行したところ、褐色細胞へのFDG集積が目立ち、術前にリンパ節転移と考えていた病変はパラガングリオーマの可能性が高いと診断された。カテコラミン値は異常高値を示し、1231-MIBGシンチグラフィーでは既知の右後腹膜病変に集積を認め、左臼蓋にも集積を認めた。他院で腫瘍摘出術を施行され、病理組織学検査でパラガングリオーマと確認された。最終的に子宮頸癌はIB1期(pT1b1,pNX/cN0M0)と診断した。
【考察】本症例は全身検索の際、子宮頸部以外にも複数の病変を認めたが、LFSのため重複がんの可能性がありうることから一元的な病態解釈が困難であった。LFSコア腫瘍以外の発症も念頭に入れ、他科と協力しながら柔軟に方針を決定する必要がある。
6) 子宮頸がんの脊髄転移・がん性髄膜炎に対しセミプリマブを投与した1例
愛媛大学医学部附属病院 総合臨床研修センター1)
愛媛大学大学院医学系研究科 産科婦人科学講座2)
北村建人1)、市川瑠里子2)、宇佐美知香2)、門田恭平2)、藤田茉由貴2)、
高崎 萌2)、島瀬奈津子2)、宮植真紀2)、伊藤 恭2)、中橋一嘉2)、
矢野晶子2)、吉田文香2)、宮上 眸2)、村上祥子2)、安岡稔晃2)、
森本明美2)、内倉友香2)、松原裕子2)、松元 隆2)、杉山 隆2)
【緒言】子宮頸がんの再発形式として脊髄転移は稀であり、生命予後はきわめて不良とされる。今回われわれは、子宮頸がんの脊髄転移・がん性髄膜炎に対して免疫チェックポイント阻害薬を用いた症例を経験したので報告する。
【症例】54歳、女性。子宮頸がんⅢC2期、扁平上皮癌と診断され、同時化学放射線療法(CCRT)を施行した。CCRT後に残存病変およびリンパ節再発を認め、パクリタキセル+カルボプラチン(TC)+ベバシズマブ療法を施行し部分奏効を得た。以後ベバシズマブ維持療法を施行し腹腔内およびリンパ節病変は制御されていたが、TC療法終了から約12か月後に歩行障害が出現した。精査により脊髄転移・がん性髄膜炎と診断し、セミプリマブでの治療を開始した。歩行障害は一時的に改善し4サイクル継続可能であったが、その後病勢進行を認め、best supportive careへ移行した。治療開始からの予後は5か月であった。
【考察】子宮頸がんにおいて脊髄転移・がん性髄膜炎は稀であり、治療選択は限られる。近年、他癌腫において、免疫チェックポイント阻害薬が一部の症例で腫瘍制御や症状改善を示すことが報告されているが、全体としての予後は不良である。本症例でも長期の腫瘍制御には至らなかったものの、セミプリマブ投与により一時的な神経症状改善とQOLの維持が可能であった。子宮頸がんにおけるがん性髄膜炎に対する免疫療法の有効性を示した報告はほとんどなく、本症例は治療選択肢の一つとしての可能性を示唆するものと考えられる。
7) 子宮筋腫を伴う閉経後子宮捻転の1例
愛媛県立中央病院
門田 麗、井上翔太、河端大輔、井上奈美、西野由衣、上野愛実、池田朋子、
森 美妃、田中寛希、阿部恵美子、近藤裕司
【緒言】子宮捻転は子宮が長軸に沿って45度以上回転したものと定義される.急激な腹痛や嘔気,性器出血など非特異的な症状を伴い,術前診断に苦慮することが多い.進行すると出血性ショックやDICに至ることがあるため早期の診断,治療が重要である.今回我々は子宮筋腫を伴う閉経後子宮捻転の1例を経験したので報告する.
【症例】73歳,48歳閉経,2妊2産.下腹部痛を主訴に近医を受診し,単純CTにて子宮筋腫を指摘されるもその他異常は認めなかった.同日当院を紹介受診した際には腹痛は軽減しており,経過観察とした.翌日腹痛の再燃のため前医を再診し,再度単純CTを施行したところ前日と比較して子宮全体が腫大していた.当院を再診し,造影CTにて子宮頸部でのwhirl signを認め,子宮全体の造影効果が不良であった.子宮捻転と診断し緊急開腹手術を施行し,子宮体部と両側付属器は内子宮口の高さで長軸方向に450度捻転し暗赤色調に変化していた.腹式単純子宮全摘術および両側付属器切除術を実施し、経過良好のため術後6日目に退院した.
【考察】子宮捻転は稀な疾患であるがそのほとんどが妊娠時に発症し,非妊娠時は極めて稀である.閉経後の女性に発症する子宮捻転は大型の子宮筋腫により子宮が牽引され,加齢に伴う子宮支持組織の脆弱化等により起こると考えられている.
【結語】子宮筋腫を有する高齢女性が下腹部痛を認める際には,子宮捻転を考慮すべきである
8) 子宮体癌IVB期の癌肉腫に対してDUO-Eレジメンが奏効している1例
四国がんセンター 婦人科
菰下智貴、日比野佑美、横山貴紀、藤本悦子、坂井美佳、竹原和宏
【背景】癌肉腫は子宮体癌の3〜5%を占める稀な組織型で、上皮性・間葉系の両成分を有する。高齢者に多く、IV期では全生存期間中央値8か月との報告もあり悪性度の高い腫瘍とされる。今回、子宮体癌IVB期、癌肉腫に対し手術療法を行い、術後にTC+Durvalumab+Olaparib療法を導入し奏効した症例を経験したので報告する。
【症例】80歳代、女性、不正性器出血で近医受診し、子宮内膜細胞診陽性のため当科を紹介受診した。骨盤部MRI検査で子宮内腔に6cm大の腫瘍を認めたが、筋層浸潤はなかった。躯幹部PET-CT検査では子宮内腔にSUVmax 12.8の集積を認めたが、遠隔転移は指摘されず、子宮体癌IA期と診断し手術療法を選択した。腹腔内には大網転移や腹膜播種が散在し、子宮周囲に強固な癒着を認めたため完全切除は困難と判断し、腟上部切断術・両側付属器摘除術・大網切除術を施行した。術後病理診断は癌肉腫であり子宮体癌IVB期、pT3bNXM1と診断した。MMR-IHC検査はpMMRであった。術後TC+Durvalumab療法を6サイクル試行し、部分奏効が得られたため、Durvalumab+Olaparib維持療法に移行した。その後も増悪なく経過している。
【考察】DUO-E試験では癌肉腫も約7%含まれ一定の効果が示されている。本症例は単例ながら良好な治療経過を示しており、既報と整合する結果であった。
【結語】癌肉腫に対してもDUO-Eレジメンの有効性が示唆されており、今後もさらなる症例集積が望まれる。
【第3群】
9) 両側チョコレート嚢胞と周囲癒着により同定困難であった漿膜下筋腫の
一例
松山赤十字病院 産婦人科
藤井貴頌、藤岡 徹、田中万輝、平山亜美、森下佳登、行元志門、瀬村肇子、
髙杉篤志、梶原涼子、本田直利、栗原秀一
【緒言】ダグラス窩閉鎖を伴う両側チョコレート嚢胞(kissing ovary)に対する手術は、剥離面の同定や周囲臓器のオリエンテーションの把握が困難となることが多い。今回さらに子宮背側に漿膜下筋腫を伴い、筋腫の同定に時間を要した症例を経験したので報告する。
【症例】症例は34歳、未婚、G0P0。月経困難症を主訴に前医を受診し、子宮内膜症、両側チョコレート嚢胞の診断にて約3年間ジェノゲストが投与された。症状は軽快し嚢胞の縮小を認めるも妊娠希望にて休薬後、症状の増悪と嚢胞の増大、また漿膜下筋腫を指摘され手術目的に紹介された。MRIにて両側チョコレート嚢胞(kissing ovary)を認め、子宮は後屈していた。また子宮体部後壁に茎を有する漿膜下筋腫を認め、チョコレート嚢胞と直腸が周囲を取り囲むように存在していた。腹腔鏡手術にてまず卵巣腫瘍内容液を吸引して卵巣背側の癒着剥離を行った。閉鎖したダグラス窩の癒着剥離を側方より進め、正中のやや強固な癒着部位も同様に剥離してダグラス窩を開放した。その後、確認困難であった子宮筋腫も同定し筋腫核を摘出することができた。手術時間5時間3分、出血量は少量であった。術中術後合併症はなく術後4日目に退院となった。
【結語】ダグラス窩閉鎖を伴う両側チョコレート嚢胞症例において癒着部位の周囲に漿膜下子宮筋腫が存在する場合は、剥離面や筋腫そのものの同定など慎重な対応が必要であると思われた。
10) 腹腔鏡手術で診断、治療した卵巣妊娠の一例
松山赤十字病院 産婦人科
岡田莉子(初期臨床研修医)、森下佳登、栗原秀一、田中万輝、藤井貴頌、
平山亜美、行元志門、瀬村肇子、髙杉篤志、梶原涼子、本田直利、藤岡 徹
【緒言】卵巣妊娠は異所性妊娠の1-3%程度と報告され、非常に稀であるが時に大量出血を引き起こすため緊急性の高い疾患である。今回腹腔鏡手術で診断・治療した卵巣妊娠の1例を経験したため報告する。
【症例】34歳、1妊0産。原発性不妊症に対し近医でタイミング療法を行っていた。最終月経より5週時から腹痛を認め、6週時に腹痛の増悪を主訴に救急病院へ搬送となった。Hb 9.0g/dLの貧血と腹部CTで骨盤内から上腹部に至る血液貯留を認め、卵巣出血疑いで当科を紹介受診した。子宮内に胎嚢様のエコー像は認めず、子宮周囲に著明な血腫貯留、左付属器領域に胎嚢様エコー像を認めた。血中hCGは11934mIU/mLと高値であり、異所性妊娠と診断して同日審査腹腔鏡を実施した。子宮周囲から上腹部まで及ぶ900mlほどの血液を回収し、250mlを返血した。両側卵管は正常外観で、左卵巣に連続する腫瘤を認め、腫瘤壁は破綻し持続的な出血を認めた。卵巣妊娠と診断し、腫瘤を切除した。腫瘤と連続する正常卵巣壁を部分的にセーレで切除した。バイポーラーで凝固止血し手術を終了した。手術時間は1時間21分、腹腔内出血は900mlであった。術後1日の血中hCGは6724mIU/mLと低下し、Hb 6.1g/dLと低下していたためRBC4単位を輸血した。術後経過は良好で術後4日目に退院した。病理結果で正常卵巣と共に絨毛組織を認めた。術後1ヶ月の診察で異常を認めず終診となった。
【結論】卵巣妊娠は発症頻度が少なく、本症例のように卵巣出血と類似した所見を呈することがあるため、詳細な問診と腹腔鏡による診断が有用である。
11) 当院でのロボット支援下手術時の下腿圧についての検討
愛媛大学医学部附属病院 産婦人科
藤田茉由貴、宇佐美知香、門田恭平、高崎 萌、島瀬奈津子、宮植真紀、
市川瑠里子、伊藤 恭、中橋一嘉、中野志保、矢野晶子、田文香、宮上 眸、
村上祥子、安岡稔晃、森本明美、内倉友香、松原裕子、松元 隆、杉山 隆
【背景・目的】Well leg compartment syndrome(WLCS)は砕石位による手術における重篤な合併症の一つである。ロボット支援下手術では頭低位の角度が深くなるため、WLCSのリスクが高くなると考えられ、また肥満もWLCSの危険因子として知られている。当院ではWLCSの予防を目的に術前・術中に下腿圧測定を行っており、今回、当院のロボット支援下手術における下腿圧について検討した。【方法】2019年5月から2025年7月の期間に当院においてロボット支援下手術を施行した98例を対象とし、手術記録を用いて後方視的に検討した。【結果】年齢、BMI、手術時間の中央値はそれぞれ51歳、25.5、220.5分であった。術前に20度の頭低位で測定した下腿圧(右/左)の平均値は、全体で12.10/12.87 mmHg、BMI25未満では11.6/10.99 mmHg、BMI25以上30未満では13.2/11.46 mmHg、BMI30以上35未満では10.22/10.82 mmHg、BMI35以上40未満では16.58/14.95 mmHg、BMI40以上では16.41/14 mmHgであった。術中の測定値についても大きな変化は認めなかった。現在までにWLCSを発症した症例は認めていない。
【結論】当院におけるロボット支援下手術では、良好な下腿圧を維持しながら手術が施行できており、WLCSが予防できていることが示された。今後も安全な手術を継続するために現行の対策を継続しながらさらに工夫を重ねたい。
12) LSC後に妊娠し帝王切開にて分娩となった骨盤臓器脱の一例
松山赤十字病院 産婦人科
平山亜美、藤岡 徹、田中万輝、藤井貴頌、森下佳登、行元志門、瀬村肇子、
髙杉篤志、梶原涼子、本田直利、栗原秀一
【緒言】高齢者の骨盤臓器脱に対する治療として、最近ではlaparoscopic sacrocolpopexy(LSC)が行われるようになってきた。また生殖年齢で子宮温存を希望する症例に対しても子宮温存下のLSCが行われているが、その歴史は浅く術後妊娠・分娩例の報告は少ない。今回、子宮温存を希望する骨盤臓器脱症例に対して子宮温存下LSCを施行し、妊娠・分娩となった症例を経験したので報告する。
【症例】症例は32歳、G3P2(25歳、28歳ともに経腟分娩)、既往歴として22歳脊髄系留症候群に対し手術を受け、神経因性膀胱に対し自己導尿を行っていた。第2子妊娠前より子宮下垂感を自覚、第2子妊娠中期より子宮頸部は腟口より脱出するも妊娠経過に問題なく、妊娠33週子宮の増大と子宮脱のため自己導尿が困難となり膀胱留置カテーテルを挿入、37週3日に正常経腟分娩となった。分娩後も子宮頸部は腟口より2cm以上脱出した状態にてペッサリーによる保存的治療を勧めるも挙児希望にて同意は得られず、LSCの方針となった。産後約6か月経過後に腹腔鏡下仙骨腟固定術(LSC)を施行した。後腟壁と両側仙骨子宮靱帯、前腟壁と子宮頸部腹側に各々メッシュを縫合し、いずれも第1仙骨前面の前縦靱帯に固定、メッシュが腸管と直接接触しないよう腹膜を縫合閉鎖し被覆した。手術時間3時間42分、出血少量であった。術後1年5か月経過後に自然妊娠成立、妊娠中子宮頸部は腟口から頭側2cmの位置で下垂はみられなかった。妊娠37週5日選択的帝王切開術(子宮下部横切開)にて3014gの女児をAS4/9にて分娩した。術中メッシュの腹腔内への露出や破綻はなく、触診にて頸部腹側から左右広間膜内を通って岬角に固定されていることを確認した。また腟鏡診で悪露の流出は良好で、子宮頸部は腟口から頭側2cmの位置であった。
【結語】今回、生殖年齢で子宮温存を希望する症例に対して子宮温存下LSCを施行し、その後の妊娠・分娩・産後経過は良好であった。挙児希望を有する骨盤臓器脱の症例に対し、子宮温存下LSCが選択肢となる可能性が示唆された。
13) 同一術者によるTLH初執刀から35例経験までの手術時間の推移
松山赤十字病院 産婦人科
森下佳登、藤岡 徹、田中万輝、藤井貴頌、平山亜美、行元志門、瀬村肇子、
髙杉篤志、梶原涼子、本田直利、栗原秀一
【緒言】当院では年間約110件のTLHを実施しており、内視鏡技術認定医4名の指導のもと、専攻医および修練医が執刀している。今回、筆頭演者が当院において1年6か月の間にTLH初執刀から35例を経験し、手術時間の推移について検討したので報告する。
【方法】2024年4月から2025年10月6日に筆頭演者が当院でTLHを完遂した35例を対象とした。①総手術時間、各工程に要した時間(②広間膜腔展開〜尿管同定・子宮動脈結紮、③基靱帯処理、④腟断端縫合)、および執刀開始から各段階までの所要時間(⑤両側仙骨子宮靱帯処理まで、⑥腟管切開完了まで)について解析を行った。また全35例をA群(初執刀〜10例目)、B群(11〜20例目)、C群(21〜30例目)、D群(31〜35例目)に分類し、各群の平均値について比較を行った。
【結果】①はA群199.4±41.3分、B群174.8±28.2分、C群167.2±26.1分、D群138.4±29.5分と推移し、有意差を認めた(p=0.012)。A群とD群で各工程別に比較すると、② : 39.1±12.5→21.3±5.1分(p=0.14)、⑤ : 78.3±11.5→55.2±22.9分(p=0.096)、⑥ : 107.5±13.8→84.0±23.3分(p=0.11)と有意差はないものの短縮傾向を認めた。また、③ : 13.1±3.6→14.0±4.0分(p=0.95)において変化は乏しかった。一方、④ : 18.4±6.8→12.0±1.6分(p=0.029)においては有意に短縮を認めた。
【結語】今回の検討において、同一術者によるTLHの総手術時間は執刀経験数に伴って短縮傾向を示し、特に腟断端縫合の所要時間において顕著であった。これらの工程は術者の習熟度を反映しやすく、術者および指導者が手技向上を確認する上でも有用な指標となる可能性があると思われた。
【特別枠】
産婦人科疾患の視点からみた肥満症
愛媛大学医学部附属病院 病院長
杉山 隆
生殖年齢女性のやせの増加は、低出生体重のリスク因子であり、次世代の健康に影響を与えることからも重要である。一方、晩産化に伴い30歳以上の女性では、肥満とやせの頻度は同程度であり、標準体格の女性が減少している。さらに、2010年以降では肥満女性の割合が上昇傾向にあり、わが国では「やせ」と「肥満」という両極端の課題が並存している。
子宮内環境によるエピジェネティックな影響を考慮すると、低栄養のみならず過栄養も次世代の疾患発症に関与することが報告されている。女性の肥満は、妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群などの妊娠合併症と関連するだけでなく、晩産化に伴う生殖補助医療の利用増加も、さまざまな妊娠合併症の発症と関連していることが示されている。また、肥満関連がんの増加も看過できない重要な問題である。
母体および児の将来の疾患発症リスクを低減する観点からも、産後のフォローアップを含むプレコンセプションケアの充実が求められている。
本講演では、近年使用可能となった抗肥満薬の特徴および使用時に注意すべき点について解説する。
