愛媛大学大学院医学系研究科  整形外科学

ご挨拶

整形外科学教授三浦 裕正
1.24時間になぞらえて
はじめに毎年の恒例にしたがって、私の教授としての予定在任期間の12年を1日24時間になぞらえてみたいと思います。平成30年4月1日、赴任後8年が経過した現在、時計の針は午後4時を指しています。午後2時から4時という刻限は、生物学的に覚醒度が低下し、眠気を催す時間帯と言われています。しかし、たいてい午後3時頃は教授会や病院運営委員会、役員会など何らかの会議が開催されており、とても寝ている暇はありません。私の在任期間も後半に入り、残された時間をどのように過ごすのか、真剣に考える時期となりました。
最近、私自身は「今、ここ」を大切にすることを生き方の基本としています。このことは、古今東西の賢人達が繰り返し述べています。たとえば、アルフレッド・ノース・ホワイトヘッドという哲学者は全宇宙の森羅万象は不連続な出来事の連なりであり、その不連続な一瞬、一瞬、かけがえのない一瞬、この時空で唯一無二の出来事の重要性を述べています。また、心理学者のアドラーも「今、ここを真剣に生きる」ことの重要性を強調しています。臨済宗中興の祖である白隠慧鶴が師事した正受老人は「一日暮らし」を提唱しています。「人生の中で一番大切なことは、今日ただいまの自分の心なのだ。それをおろそかにしていては、翌日などというものはない。今日をきちっと一生懸命に務めるように心がけなければ、明日という日も堕落した日になってしまう。」さらに松下幸之助は、どんなに悔いても過去は変わらない。どれほど心配したところで未来もどうなるものでもない。いま、現在に最善を尽くすことだと主張しています。他に老子も然り、神道の「中今」という思想も然り、ギリシャの哲人ツキデウス「明日を思うな、今を考えること」も同様の考え方です。
これらは決して無計画に刹那的な生き方をせよということではありません。未来のビジョンの中にたたみ込まれた日々の計画を確実に実行していくことに他なりません。毎日を無為に過ごすことなく、高い志のもとに二度と訪れない機会を全力で生きること、一瞬一瞬にきらめくことだと考えています。そう考えるとあれこれ将来のことを思い悩む必要性から解放された気がして、むしろ楽なのです。残りの人生は将来を不安に思うよりも今を心から享受し、精一杯生きることを心がけたいと思います。
2.病院長2期目のスタート
新たに学長のもとに設置された病院長選考会議でのヒアリングや学長面接を経て、4月1日付けで病院長2期目がスタートしました。新たな気持ちで来たるべき難局を乗り切りたいと思います。
昨年は病院長ガバナンスの強化や医療安全管理体制の強化に忙殺され、教室運営がやや疎かになった感も否定できません。病院長のガバナンス強化。最近、何度この言葉を耳にしてきたことでしょう。わかったようでわかっていないこの言葉ですが、要するに高度な医療安全管理体制を確保するために病院長が管理運営権限を有することを医療法で明文化したということであり、そのための新たな医療安全管理体制の構築を義務づけたということです。高難度新規医療技術、未承認新規医薬品の導入に係る評価部や評価委員会の設置、医師GRMの専従化、外部監査委員会の新設など大変なエフォートを傾注することとなりました。
愛媛大学では全学的取り組みとしてブランド力の強化を謳っています。附属病院においても、個人や診療科などのブランディング戦略を推進したいと考えています。地方大学が生き残るためにはオールラウンダー的な発展をめざすよりも、強みを活かすべきであり、整形外科としては統合型人工関節センターを中心にアピールしていきます。
3.手術教育について
病院長業務のかたわら、整形外科医としてのアイデンティティを失うような気がしてTKAがほとんどではありますが手術を継続して行っています。手術室は唯一の避難場所であり、私にとって心の安寧を保つための場所でもあります。
これまで私は手術教育の重要性について常々主張してきました。幸い、愛媛大学医学部には手術手技研修センターが設置されており、厚労省の実践的な手術手技向上研修事業の指定を受け、内科系を含む17診療科から毎年500名前後の参加者を受け入れています。本年4月に開催予定の第130回中部日本整形災害外科のテーマにおきましても、「鍛心磨技 - 臨床家の原点に回帰する -」を取り上げました。鍛心磨技は聞き慣れない言葉かもしれませんが、文字通り心を鍛え技を磨くという空手等の武道の訓練において用いられる言葉です。本来、我々は臨床家を目指して整形外科医への道を選択したはずです。優れた臨床家とは深い知識に支えられた高度の技術を有することが必要条件のひとつであります。近年、ナビゲーションや手術ロボットなどテクノロジーの発達が顕著であり、術中により精度の高い便利な機器が使用可能な環境ができつつあります。私はテクノロジーの発展による恩恵を否定するものではありませんが、人の感覚は機械を凌駕するレベルまで到達できるという確信があります。臨床家の原点に立ち返り、手術のエキスパートとはどうあるべきか今一度再考すべき時かもしれません。
4.学会開催について
昨年は第72日本体力医学会大会(平成29年9月16日〜18日)、第44回日本臨床バイオメカニクス学会(平成29年11月24〜25日)を開催いたしました。日本体力医学会は、2日目の夕方に台風18号が最接近し、市内が潅水して電車、バスがストップしたため、帰路につく参加者に対し係員がずぶ濡れになりながらタクシーまで誘導するという事態になりました。しかしながら、不幸中の幸いというか、ほとんどの参加者が初日、あるいは中日の午前中に移動が可能だったため、欠演も10題未満に留まり、約1600名の参加者を得まして無事成功裡に終了することができました。ご支援を頂いた先生方に心より御礼申し上げます。
さらに本年4月には第130回中部日本整形災害外科、平成31年秋には第47回日本関節病学会とAPOKAを合同開催します。平成32年2月には節目である第50回日本人工関節学会の開催が決定しており、そして2度目の中国四国整形外科学会も平成32年11月に開催することとなりました。
今後も病院長と整形外科教授の両立を全力で図っていく所存です。皆様には今後とも引き続きご支援、ご鞭撻を承りますよう宜しくお願い申し上げます。