神経耳科学グループ

 当科の神経耳科学グループでは、慢性中耳炎などに対する鼓室形成術、人工聴覚器手術、聴神経腫瘍に対する手術治療、高度顔面神経麻痺に対する顔面神経減荷手術など、手術治療に力を入れており、耳科手術の件数は中四国でもトップクラスです。また、突発性難聴に対する新規治療や顔面神経麻痺の診断・治療に関して、積極的に臨床試験を行い、難治性疾患に対する病態解明、新規治療の開発などを目指しています。さらに頭蓋底外科領域では聴神経腫瘍の増大予測に関する臨床研究も行っています。

 基礎研究では、①聴覚機能、②前庭機能、③顔面神経の3分野の研究を主に行っています。

 聴覚機能分野では、突発性難聴の一因と考えられている虚血性内耳障害のメカニズムや新規治療の開発、加齢性難聴やその全段階と位置づけられているCochlear synaptopathyに関する研究、鼓膜穿孔に対する再生医療などの基礎研究を行っています。また、伝音難聴患者や高齢者の聴覚機能の補完を目標とした、新たな超磁歪素子を用いた骨導補聴デバイスの開発も行っています。

 前庭機能分野では、良性発作性頭位めまい症の一因と考えられている骨粗鬆症が耳石器の形態に及ぼす影響や、治療薬の効果についての検討を行っています。

 顔面神経分野では、難治性顔面神経麻痺に対する新たな治療戦略を目指し、Ramsay Hunt症候群に対する新たな抗ウイルス治療に関する臨床研究、徐放化栄養因子を用いた減荷術の臨床研究、神経再生を促す新たな治療法の開発、後遺症克服に向けた基礎研究を行なっています。

感覚器を扱う機能系外科としてQOLの改善を目指し、最先端の医療を提供できるよう日々臨床、研究に励んでいます。

鼻科学グループ

●臨床

 鼻副鼻腔領域の炎症性疾患や腫瘍性疾患に対する手術治療を中心に行っています。特に内視鏡手術に関しては、ナビゲーションシステムや各種デバイスを用いた最先端の手術を行っています。頭蓋底疾患に関しては脳神経外科医とチームを形成し、すべての症例で合同手術を行っています。対象疾患は下垂体腺腫をはじめ、頭蓋咽頭腫や髄膜腫、脊索腫など頭蓋底領域に発生する各種腫瘍です。

 愛媛大学ではご遺体を用いた手術手技研修会を、白菊会、解剖学教室のご協力のもと毎年開催しています。鼻科領域では、若手医師を対象として、内視鏡下鼻副鼻腔手術の手術解剖とその手技の習得を目的とした愛媛耳鼻手術手技セミナーを年に1度開催しています。また、頭蓋底領域では、愛媛脳神経外科耳鼻咽喉科手術手技セミナーを脳神経外科教室と合同で年に1度開催し、内視鏡下経鼻頭蓋底手術に関する手術解剖・手技の研修を行っています。両セミナーとも毎年、国内のトップランナーを講師に招聘し、最新の手術手技の習得に努めております。学生さんも参加可能ですので、医局までご連絡ください。開催の詳細については本HPに随時掲載予定です。

●研究

 我々のグルーブでは、アレルギー性鼻炎や嗅覚障害のモデル動物を用いた現在、嗅覚障害に対する新しい治療を開発すべく、動物モデルを用いた実験をすすめています。また、当教室で実証された嗅覚障害モデルマウスに対する神経栄養因子の局所投与の知見も元に、臨床に応用すべく準備を進めています。

音声・嚥下グループ

 嚥下外来では、嚥下障害患者さまに対し、嚥下内視鏡検査、嚥下造影検査、嚥下圧検査などによる多覚的な嚥下機能評価を行い、より精密な原因および病態診断を行っています。その結果に基づいて栄養管理、摂食指導、摂食嚥下リハビリテーション、嚥下機能改善手術等、患者さまお一人お一人の病態に適した治療内容を組み合わせ、言語聴覚士、看護師、管理栄養士等の多職種と連携して摂食嚥下障害治療に取り組んでいます。

 音声外来では、言語聴覚士による音声リハビリテーションや音声機能改善手術など、音声障害患者さまのニーズに合わせた集学的治療を行っています。特に、音声機能改善手術においては、喉頭微細手術や喉頭形成術の他、日帰り手術で行える局所麻酔下喉頭内視鏡手術も行っています。また、チタンブリッジ実施医、ボトックス施注資格取得医が在籍し、けいれん性発声障害に対する治療も積極的に行っております。また、難易度の高い喉頭・気管の狭窄症治療にも取り組んでいます。

頭頸部腫瘍グループ

 頭頸部がんの治療は手術、放射線療法、化学療法を組み合わせて行います。進行がんに対しては、根治性と嚥下などの術後機能とのバランスを考え、積極的に形成外科や口腔外科、一般外科と共同で拡大切除や再建手術を行っています。早期がんに対しては、TOVSやELPSなどの経口的鏡視下手術を行っています。2023年からTORS(経口的ロボット支援手術)も開始しました。甲状腺腫瘍に対しては、内視鏡下手術(VANS法)を導入し、適応を考慮して行っています。また、喉頭などの臓器を温存することを目的として化学放射線治療も行います。再発転移症例に対しては、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などの新しい薬も使用しています。

 頭頸部がんは、胃がんや肺がんなどに比べると症例数が少なく、地方では十分な診療経験を積むことが難しい疾患です。当科は、関連病院である静岡県立静岡がんセンターや国立がん研究センター東病院などのハイボリュームセンターでの研修を積極的に行っていることを特徴としています。また、そのような施設で研修した指導医により、地方にいながらでも体系的に頭頸部がん診療を学べる教育体制を作っています。手術の研鑽のみでなく、日進月歩の化学療法や、がん診療全体のマネジメントを学ぶことができます。このように、常に最新の情報をとりいれ、エビデンスに基づいた質の高い医療を提供できるように心がけています。

 研究に関しては、頭頸部扁平上皮癌の浸潤や転移に関与する因子の研究を生理学教室と共同で行っています。また、AIを活用した画像診断や、バーチャルリアリティを用いた手術教育など、最新のテクノロジーを用いた研究を工学部と共同で行っています。その他にも企業と連携して腫瘍切除のトレーニングができるモデルを開発したり、名古屋大学と共同で喉頭摘出後の音声獲得を目指した研究を行ったりしています。

 頭頸部領域は仕事量が多く大変であると思われがちですが、当科ではグループのメンバーそれぞれの強みを活かして効率よく運営することでそれぞれのワークライフバランスを大切にし、結果としてさらに生産性を上げることを目指しています。