小児医療を通じて未来を守る
愛媛大学小児科 ~小児医療を通じて未来を守る~

研究紹介 

小児悪性腫瘍の診断・治療に対する基礎研究

血液腫瘍グループでは、病気の原因の追究ならびに、新たな診断方法の開発にも取り組んでいます。

(1) 小児白血病の遺伝子異常による発症機構に関する基礎研究

小児白血病の遺伝子異常の種類は多岐にわたりますが、その多くは胎生期発生(出生前に母体内で白血病細胞ができあがっていること)であることが証明されています(表1)。愛媛大学小児科では主に、予後不良なMLL転座型乳児急性リンパ性白血病(ALL)と、小児で最も多い病型であるTEL-AML1融合遺伝子陽性ALLに関する研究を行っています。

表1 小児ALLは胎生期に発症する

遺伝子異常 新生児血での陽性率 文献
MLL-AF4融合遺伝子 ~100% Gale(1997), Yagi(2000), Fasching(2000)
TEL-AML1融合遺伝子 ~75% Wiemels(1999), Hjalgrim(2002)
E2A-PBX1融合遺伝子 ~10% Wiemels(2003)
高2倍体 ~100% (?) Taub(2002), Panzer–Grümayer(2002)
NOTCH1遺伝子変異 ~25% Eguchi-Ishimae(2008)

1-1. MLL転座型乳児ALL

乳児白血病ではALLの70-80%、AMLの40-50%に染色体11q23の異常が認められ、その結果MLL融合遺伝子が形成されます。この再構成の有無は乳児白血病、特にALLにおける最大の予後規定因子となります。

図1

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1-2. TEL-AML1陽性小児ALL

12;21転座により形成されるTEL-AML1融合遺伝子は小児ALLに特異的かつ高頻度に認められます。TEL-AML1融合遺伝子は胎生期の造血に必須なAML1蛋白の働きを阻害する異常な蛋白質を産生し、白血病化に作用します。このTEL-AML1融合遺伝子は、正常臍帯血の1-2%で検出されることが我々を含めた複数のグループから報告されています(表2) 。すなわち胎生期に形成されたTEL-AML1陽性細胞は白血病細胞の前段階であり、このうち約100人に1人の頻度で付加的な遺伝子異常(2nd hit)を獲得し、最終的に白血病として発症すると考えられます(図2)。

表2 臍帯血におけるTEL-AML1融合遺伝子の検出

  解析数 陽性例 文献
Japan 67 1 (1.5%) Eguchi-Ishimaeら(2001)
UK 567 6 (1.1%) Moriら(2002)
Czech 253 5 (2.9%) Zunaら(2011)

図2

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愛媛大学小児科ではこれらの白血病の発症機構、病態解明、新規治療法の開発のために研究を行っており、マウスES細胞や免疫不全マウスの実験系を用いています。融合遺伝子の機能解析には動物モデルを用いた手法がしばしば用いられますが、マウスES細胞を用いることによって、in vitroで造血細胞の分化段階ごとに遺伝子の影響を詳細に検討することが可能となります。腫瘍化のメカニズムを一つ一つ解明していくことで、新たな治療法の開発への足がかりとなればと研究を行っています。

図3

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図4

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1-3. その他の小児白血病

遺伝子異常に起因するその他の造血器疾患についても病態解析を行っています。一例として、形質細胞様樹状細胞腫瘍(BPDCN)にはじめてCLTC-ALK融合遺伝子を見いだし、これが胎生期発生であることを証明するとともに、融合遺伝子が白血病を起こすまでの過程を詳細に解析しました。

図5

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