呼吸器外科

呼吸器外科について

当科では、肺や縦隔、胸壁など呼吸器に関連した病気に対する手術を行っています。

扱っている症状

肺癌検診で異常を指摘された場合の精密検査、血痰、咳嗽、胸痛、呼吸困難など。

当診療科の対象疾患

  • 肺腫瘍

    (原発性肺癌、転移性肺腫瘍、良性肺腫瘍、気管腫瘍など)

  • 縦隔腫瘍

    (胸腺嚢胞、胸腺腫、胸腺癌など)

  • 胸膜・胸壁腫瘍

    (悪性胸膜中皮腫など)

  • 炎症性肺疾患

    (真菌症、非結核性抗酸菌症、肺膿瘍など)

  • 気胸、嚢胞性肺疾患

診療実績

  • 呼吸器外科 2014年末統計

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肺がん治療について

-われわれの行っている肺がん診療-

肺がん治療に対する考え方

がんをはじめとする悪性腫瘍の治療を考えるとき、われわれが最も重要だと考えているのは、腫瘍に対する根治性と患者様に対する侵襲性のバランスです。つまり下の図のように、「がんをできるだけ確実に取りきる」という「根治性」という要素と、「体に優しく行う」または「できるだけ体の機能を温存する」という「低侵襲性」が、天秤の上に乗っかっていると考えていただければよいかと思います。

まず根治性をどんどん追及して行くと、「がん」が治る可能性は大きくなってきますが、それにともなって天秤皿に乗った「根治性」がどんどん重くなってゆくことにより、もう片方の皿にのった「低侵襲性」はどんどん上がって行きます。つまり体にとってきつい治療となったり、術後のいろいろな機能が損なわれてしまう可能性があります。またこれは、現在実際に行われている「より大きく強い治療」、例えば手術で言えば「拡大手術」、抗がん剤などの領域で言えば「多剤併用あるいは大量化学療法」、放射線治療では「広い範囲あるいは高い線量の放射線照射」などが威力を発揮するかもしれません。またそれらの治療法を総合して行う「集学的治療」も含まれるでしょう。しかしその結果当然患者様に対する侵襲はどんどん大きくなっていきます。つまり体に対する攻撃を最小限にとどめつつ、最大の治療効果を上げる、という治療法を適切に選択することが重要と考えております。

また逆に患者様に対する侵襲性を少なくするためには、「より小さく弱い治療」を行う必要があります。たとえば手術であれば「縮小手術」や「胸腔鏡下手術」、内科の領域であれば「抗癌剤の単剤治療(抗がん剤を一度に一種類だけ使う)」や「投与法の工夫」、さらにいま脚光を浴びている「分子標的治療」も一種の低侵襲治療といえるかもしれません。また放射線科の領域であれば「照射する範囲を狭くすること」、「あたる線量分布の厳密な予測の元で照射をおこなうこと」などがあげられるでしょう。また重粒子線治療や定位放射線治療といった新しい放射線治療が可能となり、大きな成果をあげています。しかしながらこれらの体に優しい治療法を行うことによって、標準的な治療法にくらべて根治性が劣るという結果になったら、それは大きな問題です。手術を行う、あるいは治療を行う限りは、やはり「治る」ことが必要条件ではないかと思っています。

今まで、「根治性」と「低侵襲性」のバランスを考えて最良の方法を選択する、ということが肺癌治療に非常に重要であるとお話ししてきましたが、もうひとつ、根治性を上げるため(拡大手術や集学的治療など)、あるいは侵襲性を下げるため(縮小手術、胸腔鏡下手術、ラジオは焼灼術など)の手段を、一つでも多く自分のものとして身につけておくことが重要と考えています。

 

 

近年医学の進歩などによって、肺がん治療に関しても、より多くの患者様方が積極的な治療を受け、延命を享受できるようになってきました。しかしながらまだまだ十分とはいえず、診断された時点で積極的な治療が不可能と判断されてしまう患者様も多いのではないかと考えられています。われわれ愛媛大学病院呼吸器センターでは、呼吸器外科のみならず呼吸器内科や放射線科も一体となって診療に当たるよう心がけています。その結果そのような患者様の一人にでも一筋の光を当てることができれば幸いと考えて診療にあたっています。

肺がんの患者さんを一人でも多く助けるためには?-早期発見

われわれも長きにわたって肺がんの外科治療にあたってきましたが、日常診療において常日頃より考えていることを、皆様にお伝えできればと考えました。簡単に申しますと、標題にもありますように「肺がんの患者さんを一人でも多く助けたい」という気持ちにほかなません。

近年高齢化社会の到来など様々な理由により、我が国においても死因の第一位は「がん」であります。また「がん」の中でも「肺がん」が死因の第一位となりました(平成21年人口動態統計月報年計(概数)の概況)。このように「がん」あるいは「肺がん」により命を落とす方が多くなりますと、当然その対策が重要となってきます。

しかしわれわれの先達もいままで黙って指をくわえてみていたわけではありません。下の表にも示しますように、さまざまな進歩がもたらされてきました。

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図1 肺がん診療における進歩

その結果わが国における肺がん治療成績は、他の国々と比べても全く遜色がないばかりか、トップレベルにあることは特記すべきことと思います。
また昔と比べても明らかに治療成績は向上してきています。それはなぜでしょうか?今日わが国の肺がんに向き合っている医療人たちの持っている治療レベルが高いからではないか?とも考えられます。われわれ呼吸器外科医の「腕がいい」ことがその理由であるということでしたら、われわれも鼻高々です。しかしながらおそらく最も大きな理由は、「肺がんを早く見つけることができている」ということではないかと思います。

近年、検査技術の向上などから、比較的早期の肺がんが多く見つかるようになってきました。また2007年に発表されました肺癌登録合同委員会による1999年肺癌外科切除例の全国集計に関する報告によりますと、病理病期IA期で83.3%、IB期で66.4%、IIA期で60.1%、IIB期で47.2%の5年生存率が示されております。これが1994年の時には、病理病期IA期で79.2%、IB期で60.1%、IIA期で58.6%、IIB期で42.2%でしたから。やはり肺がんの手術成績も向上しているようです。一般的に非小細胞肺がんの手術適応はI期ないしII期ということになっておりますから、このような比較的早期の段階で発見いたしますと、手術が可能となり、その結果、現在わが国で死因の第一位となっている肺がんであっても、助けることができるのではないかと考えられます。

つまり肺がんの患者さまを一人でも多く救おうと考えたとき、最も効果的な方法は、「可能な限り早期に発見する」ということに尽きると考えられます。

それでは、「可能な限り早期に肺がんを発見する」ためにはどうしたらよいでしょうか?そこにはおそらく多くの答があると思います。世界中の呼吸器内科医が日夜追いかけている分野でもあります。それでは日頃われわれができることとしてはどのようなことがあるでしょうか?成績が向上してきた最近の肺がん手術症例を見ていると、自ずとひとつの答えが浮かび上がって参ります。

おそらく最も効果的な方法は、「CTを撮影すること」ではないかと考えております。特にCTが普及してから、「CTでしか見つからない肺がん」、つまりレントゲンではなかなか見つからないような「非常に小さな陰影」や「限局性スリガラス様陰影(GGO)(図1)」が多く見つかるようになったために、肺がんの治療成績が飛躍的に向上したのではないかと考えられます。先にも述べましたようにほとんどのGGOは、CTでしか発見することが困難です。つまり「肺がん患者を一人でも多く助けるためには?」に対する最も有用な答えの一つは、「疑わしい患者さんに対してはとにかくCTを撮影しましょう」ということではないかと考えます。幸いなことに現在ではCT撮影は比較的容易で、十分日常診療内の医療行為となっております。
被曝の問題やコストの面において問題も残っていますが、検診異常を指摘された方、またほかの病気で経過観察中の患者さん、また何らかの呼吸器症状を持つ患者さんに対しては、できるだけCT撮影を行い、肺がんをはじめとする胸部疾患を早期の段階で発見できるよう心がけています。

早期に発見し、各患者さんにとって最適と思われる方法で、素早く、しかも確実に治療を行うことによって、肺がんによって亡くなる方を少しでもなくすことができればと信じて、日々診療にあたっております。

respiratory-effort_2_img02図2、右肺上葉に発生した高分化型腺がん(GGO)

肺がんに対する体に優しい手術:縮小手術と胸腔鏡下手術

現在世界中の呼吸器外科医が行っている「肺がんに対する標準手術」とは、「肺葉(あるいはそれ以上)切除+肺門部と同側縦隔リンパ節郭清」ということになります。人間の肺は右3つ(上葉・中葉・下葉)、左2つ(上葉・下葉)の合計5つの袋からなっています。そのうちの最低1袋を切除しますから、標準手術後は肺の袋の数は一つ減って5分の4、つまり約80%になります。肺は肝臓などと違って、切除した後に再生することは無いとされていますので、手術前に比べて呼吸の機能は約20%減少し、それが一生続くことになります。もちろん普通の呼吸機能を持つ方でしたら、肺の半分を切除しても日常生活はほぼこなせますので、標準手術を行ったところで日常生活に困るということはまずありません。しかしながら、特に高齢者や呼吸機能の悪い方にとっては、きつい手術ということになるかもしれません。そこで今われわれが行っている体に優しい手術についてお話しさせていただこうと思います。

体に優しい手術の方法には3つあります。一つは切除する肺の量を小さくする方法(縮小手術)、次にリンパ節の郭清範囲を狭める方法、それから胸腔鏡補助下手術です。

① 縮小手術

縮小手術にも2種類あり、最も小さく切除できるのが「肺部分切除」で、これは主に下述の胸腔鏡補助下に、自動縫合器を用いて行われます。また部分切除より切除範囲はやや大きくなりますが、解剖学的特徴に従って肺の区域単位で切除する方法が「区域切除」で、肺癌のリンパ節転移経路を考えると、技術的にも少し難しい方法ではありますが、根治性は上がるのではないかと考えて、積極的に行うようにしています。

② リンパ節郭清範囲の縮小

リンパ節の郭清範囲は「規約」によって、こと細かく規定されています。ただし、肺の上のほうにがんがある場合、特に縦隔下方のリンパ節郭清は不要ではないか、また肺の下のほうにがんがある場合、縦隔情報の郭清は不要ではないかと考えられるようになってきました。つまり不要と思われる部位のリンパ節はあえて郭清せず、侵襲を少なくしようという考え方が出てきています。われわれは症例を選んで(早期症例に限って)、科学的根拠に基づいた郭清範囲の縮小を行うよう心がけています。

③ 胸腔鏡補助下手術(Video-assisted Thoracic (Thoracoscopic) Surgery (VATS))

以前は肺がんの手術といえば、胸を横切るように、約20cmから30cm切って、場合によっては肋骨を1本切断して手術を行っていました。ここ数年来胸腔鏡というカメラを胸腔内に挿入し、その画像をモニターで見ながら手術を行うVATSと呼ばれる手術が施行可能になってきました。われわれの行っているVATSだと、肺がんの標準手術でも、ほとんどの場合約1~2cmの傷(カメラを挿入します)が1ないし2か所と、約6cmの傷1か所(ここから切除肺を取り出します)で行うことができます。またこの手術であっても肺切除あるいはリンパ節郭清ともに開胸した場合とおおむね変わらない手術が可能です。しかしこの手術は技術的に困難なため、十分な修練を積んだ外科医によって行われるべきであると推奨されています。
われわれは、多くのVATS手術を施行してきておりますので、特に早期の肺癌(主に臨床病期IA期)に対しては、より体に優しいVATSによる手術を行うようにしています。

またVATSには大きく分けて、ハイブリッド胸腔鏡下手術(Hybrid VATS)と完全胸腔鏡下手術(Complete VATS)という二つの方法があります。
その二つの大きな違いは、Hybrid VATSは胸腔鏡で映し出されたモニター画面を見たり、6cmの創から直接覗き込んで見たりしながら手術を行うのに対して、Complete VATSは、すべて胸腔鏡で映し出されたモニター画面を見て手術を行うという違いがあります。そのため創は3cm程度ですみ、術後の疼痛や機能回復もさらに良好になると思われます。昨年よりわれわれもこの完全鏡視下手術を導入、早期がんの患者さんに適応して良好な術後経過を得ております。

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図1 胸腔鏡下手術風景(完全鏡視下手術)

 

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図2 手術支援ロボット ダ・ヴィンチ

進行した肺がんに対する治療法:集学的治療(組み合わせ治療)

早期肺がんに対しては、縮小手術と胸腔鏡下手術が良いのではないかというお話をいたしましたが、これらはあくまで早い段階で見つかった肺がんに対して行う手技になります。それではもう少し進行した肺がんに対してはどうでしょうか?

肺がんに対する治療を考える時、肺がんの種類(組織型)とともに最も重要と考えられているのが「病期」、つまり病気の進行度です。みなさんご存知の通り、肺がんに限らずがんはこわい病気ですが、早期に発見して早期に治療を行うことができれば、比較的良い予後が期待できる場合が多いと考えられています。また病期によって治療法を決めることが一般的となっています。

では肺がんではどうでしょうか?現在肺がんの「病期」は、最も早期のIA期から最も進んだIV期までの7段階に分けられています。ここで考えなければならないのは、そのがんがどこまで広がっているのか?ということです。現在肺がんに対する治療は、①手術、②放射線療法、③化学療法(抗がん剤治療)という三つの柱を中心に行われています。この三つの中で、手術と放射線療法は「局所的治療」、化学療法は「全身的治療」ということができます。つまり、手術や放射線療法は、がんが肺の一部分(あるいは肺近くのリンパ節を含む)にとどまっている場合にのみ有効であると考えられています。なぜならその範囲を超えてしまうと、手術で取りきれない、あるいは放射線をすべてのがんに当てることができない、ということになるからです。そういった場合には化学療法を行うべきとされています。なぜなら点滴や飲み薬で投与される抗がん剤は、原則として全身のあらゆる場所にまで届くからです。近年抗がん剤の世界も大きな進歩がみられ、より副作用が少なく、より効果が高い抗がん剤が数多く開発され、また「分子標的薬」といわれる、標的(がん)に対してより効率よく作用するようにつくられた薬が登場することによって、さらに選択の幅が広がってきています。しかしながら抗がん剤による副作用がなくなったわけではなく、またその効果もまだまだ満足のできるレベルとはいえません。

そこで考えなければならない次の一手が「集学的治療」です。「集学的治療」とは、1つの治療法だけでは十分な治療効果が上がらないと判断されたとき、他の治療方法を組み合わせることによって治療成績を向上させようとする治療法です。つまり現在肺がんの治療法として広く知られている治療法である手術、放射線治療、化学療法(抗がん剤治療)をそれぞれ単独ではなく組み合わせて使おうということです。

そこで今特に注目されているのが、①術後化学療法(手術→化学療法)と、②術前放射線・化学療法(化学療法+放射線療法→手術(→化学療法))です。

① 術後化学療法: 特に肺がんにおいては、たとえ手術ができたとしても、再発や転移を起こすことがままあります。特にある程度以上進行した肺がんにおいては、手術だけでは不十分で、放射線療法や化学療法を組み合わせて行うことによって再発や転移のリスクを減らすことができるのではないかと考えられています。

特に肺がんに対して、手術を行った後に抗がん剤を投与する術後化学療法が有用であるという臨床研究報告が、2003年ごろから相次いで発表されました(表1)。これを受けて、日本肺癌学会でも、治療指針(ガイドライン)を改訂し、術後病期IB期、II期、IIIA期の非小細胞肺癌の完全切除例に対して、「手術+化学療法」を標準的な治療法として推奨するようになってきました。 具体的には、UFT(経口剤)もしくはプラチナ製剤をベースとした2剤併用療法が、エビデンス(根拠)にもとづく治療法として推奨されています。

われわれは、瀬戸内肺癌研究会の一員として現在、①病理病期IA期非小細胞肺癌完全切除症例に対するTS-1単剤の術後化学療法の無作為化忍容性試験 (T>2cm)という、比較的早期の肺がんに対するTS-1という抗がん剤の内服薬を併用することが可能か?という臨床試験と、②術後補助化学療法におけるTS-1+CBDCA 併用療法とS-1単剤継続維持療法の認容性試験という、術後病期II期からIIIA期の患者さんに対して、抗がん剤TS-1(経口)とCBDCA(点滴)を併用することができるか?という二つの臨床研究に参加して、未来の肺がん治療に関する新しい指標を見つけ出すべく努力しています。

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図1

Arriagada R, et al. N Engl J Med 2004;350:351–60
Winton TL, et al. N Engl J Med 2005;352:2589–97
Rosell R, et al. Lung Cancer 2005;49(Suppl. 2):s3 (Abs. Pr3)
Strauss GM, et al. J Clin Oncol 2006;24(Suppl. 18): 365 (Abs. 7007)
Kato H, et al. N Engl J Med 2004; 350; 1713-21

② 術前化学・放射線療法: いままで病期IIIA期以上の進行した肺がんに対しては、手術をすると生存率が延びるという証拠はなく、たとえ手術を行っても、その成績は惨たんたるものだと考えられていました。実際、肺癌登録合同委員会の2006 年における全国集計で、5年生存率は、IIIA期が32.8%、IIIB期が30.4%、IV期が23.2% でした。

私の在籍していた岡山大学では、1999年より積極的に術前化学・放射線療法を加えた手術を施行することによって、IIIA期の非小細胞肺癌の5年生存率が約60%と非常に良好な成績が得られています(図1)。このような実績に基づいて現在われわれも、局所の進行肺がんに対しては、積極的に術前化学・放射線療法後の手術を行っております。

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図2

局所進行肺癌に対する術前導入治療後手術療法の成績(岡山大学呼吸器外科研究会)

このように、比較的進行した肺がんを治療するに当たっては、「集学的治療」が重要であることがいえると思います。そのためには外科・内科・放射線科など部署の垣根を越えた密接な連携が必要となります。われわれ愛媛大学医学部附属病院においては、呼吸器センターという昔ながらの外科や内科といった垣根を越えた組織を作ることによって、よりよいチームワークを持って、それぞれの患者様にとって最適な治療を的確に行うことが可能となりました。