泌尿器の病気MEDICAL INFORMATION
骨盤臓器脱
骨盤臓器脱とは
骨盤臓器脱の原因
1.骨盤底のゆるみ
2.膣ハンモックの損傷
3.その最大の原因は、妊娠・経腟出産
4.そのほか、肥満、女性ホルモンの減少、加齢による筋肉の弱まりなども原因となる
骨盤臓器脱の症状
外陰部の違和感
・膣から何かピンポン球のようなものが出ている
・入浴時に手に何かが触れる
・股の間に何かが挟まっているような気がする
などから始まります。
脱出した膣壁が下着に擦れての出血、痛みによる歩行困難、内臓が下部に引っ張られることによる腰痛、排尿困難、尿閉、排便困難をきたす場合もあります。
骨盤臓器脱の検査
問診
・出産歴、手術歴、婦人科疾患の有無(子宮摘出術既往の有無)
・便秘の有無
・骨盤臓器脱の起こる状況(何時、どのような時に、どれくらいなど)
検尿
超音波検査
膀胱造影(チェーンCG)
透視室にてレントゲンを用いて行う検査です。外尿道口より、カテーテルとチェーンを膀胱内に挿入し、造影剤を注入します。その後、立位の正面と側面でレントゲン写真を撮影し膀胱が、臥位と立位、腹圧(+)と(-)がどの位置にいるかを確認します。
MRI
症例によって、必要があれば行います。
骨盤臓器脱の治療
骨盤底筋運動、生活指導
症状が軽度の場合は、手術ではなくこれらの方法で対応できます。
ペッサリー挿入
ペッサリーというリング状の器具を膣に挿入して子宮を支持する治療法です。(当院では産婦人科でペッサリーを挿入してもらっています)しかし、ペッサリーの大きさが合わずにすぐ外れるもしくはきつくて痛いとの不快症状を訴えられる患者さんもいます。また、ペッサリーは異物なので留置により膣に炎症を来たし、膣壁のびらんなどがおこる場合もありますので、当院ではペッサリー治療を主な治療としてではなく、根治術までの一時的な症状改善目的で行う場合が多いです。
手術療法
メッシュを用いる低侵襲手術
・Tension-free vaginal mesh (TVM)手術
2000年にフランスで開発された、骨盤臓器脱に対し経膣的におこなう低侵襲手術です。当院では2007年より導入し、現在までに約150例の患者さんにこの手術を行っております。
この手術は、弱った膣壁の代わりにポリプロピレン製のメッシュ(ポリフォーム)を用いて弱った支持組織をおきかえる手術法です。大きなメッシュ自体で骨盤底にハンモックを再建するため手術後の再発がきわめて少ない(5%)という利点を持ち、原則として子宮は温存する手術法です。
・Laparoscopic sacrocolpopexy (LSC)手術
1953年にAmelineらにより腹式仙骨膣固定術が報告され、欧米において再発の少ない有効な治療法としておこなわれていました。しかし、この術式は下腹部を大きく切開する必要があり、出血や術後腸閉塞等の合併症が多いため、1990年代にWattiezらのグループにより腹腔鏡を用いた内視鏡手術として発展した。内視鏡手術はその手技の困難さから当初は、広く普及しなかった。2011年にアメリカの厚生労働省にあたるFDA(Food and Drug Administration)によりTVM手術に対して合併症の報告が増加したため警告がだされアメリカをはじめ欧州においてもTVM手術が禁止された国が多くみられました。代わりの治療法としてLSCが注目され2014年日本でも保険診療に収載されました。当院でも2016年より開始、2021年までに100例を超える症例を経験し治療成績も安定しております。
・Robotic-assisted laparoscopic sacrocolpopexy (RaSC)手術
泌尿器科領域のみにとどまらず、ロボット支援手術は年々適応拡大されており、仙骨膣固定術も2020年4月に保険収載されTVMやLSCに変わる治療として広まっています。当院では高難度医療技術審査を受け、全国に先駆けて2019年1月より治療を開始しており、中四国病院の診療支援として、RaSC手術導入と普及に寄与してまいりました。
【手術の実際】
全身麻酔下に膣前後壁の裏側にテフロンメッシュのシートを挿入し、膣壁を包むように覆ったあと仙骨前面の前縦靭帯に固定し膣のアーチを修復する手術です。骨盤内臓器の下垂を膣壁の修復をすることで内側から矯正する手術です。腹部に5か所に8mmから12mmの穴をあけて行い、手術時間は3時間程度です。経腟メッシュ手術であるTVM手術とくらべ、膣壁を切開しないためメッシュ露出が少ないこと、術後の臀部痛がないこと、性生活への影響が少ないことが特徴です。TVM手術と比べ、手術時間が長い傾向がありますが、出血量は少なく、術後尿閉もほぼみられず、退院後の入浴も可能です。入院期間は術後6日が平均となっております。
以上骨盤底の障害による尿失禁と骨盤臓器脱は非常に多い病気で、高齢者においても治療が可能ですので、年のせいとあきらめる前に是非一度は専門医の診察を受けていただきたいと考えます。