泌尿器の病気MEDICAL INFORMATION
前立腺がん
前立腺がんとは
前立腺がんの疫学
前立腺がんは欧米に多く、アメリカ男性の悪性腫瘍では罹患率第1位、死亡率で肺がんに次ぐ第2位です。アメリカ人でも黒人に多く、アジア人には少ないことから、人種が発生に影響していますが、日本人でもハワイ在住の日本人は発生率が多いことより、環境の影響も考えられます。食生活、性活動、ホルモン、遺伝子などが原因に考えられますが、不明な点も多いです。現在日本で最も増えているがんの1つです。
前立腺がんの症状
前立腺がんは外腺に発生することが多いことから、早期から排尿症状がでることはほとんどありません。ただ、前立腺肥大症がある方は排尿症状が出ますが、これは前立腺がんの有無とは関係ありません。前立腺がんは骨に転移しやすいことから、腰痛や足の痛みで見つかった結果、すでに転移していることなどもあります。
前立腺がんの検査
スクリーニング検査
[PSA(前立腺特異抗原)の測定]
PSAとは正常前立腺でも作られる成分ですが、正常値は4ng/ml以下です。一般的には前立腺がんの患者さんでは、血液中のPSAの値が上昇します。また、前立腺がんの病勢が強くなっていくとPSAの値も上昇してきます。しかし、グレーゾーン(灰色の領域)といわれるPSAが4~10の時は、前立腺肥大症や前立腺炎のために上昇している場合があり、その他の検査の総合的な所見で判断します。
[直腸診]
肛門から指を入れて、直腸の壁を通して前立腺を触ります。大きさや硬さや表面の性状を触診します。
[超音波検査]
最も簡便な画像検査です。小さな器具(プローべ)をおなかにあてたり、細いプローべを直腸内に挿入して、前立腺を調べる検査です。大きさや形状を観察します。がんがあると黒い塊として分かるときもあります。
前立腺生検
スクリーニングの検査で前立腺がんが疑われたら、実際に組織の一部を採取する検査(生検)をします。麻酔(局所麻酔から腰椎(下半身)麻酔まで様々)をして直腸内から(経直腸的に)採取したり、会陰部(陰嚢と肛門の間)から(経会陰的に)採取したりします。その結果で確定診断が付きます。
CT検査(画像検査)
MRI検査(画像検査)
骨シンチグラフィー(画像検査)
前立腺がんの進行度
病期Ⅰ:偶然見つかったがん(前立腺肥大症の手術の際など)
病期Ⅱ:前立腺内にとどまっているがん
病期Ⅲ:前立腺の外に出ているが周囲にとどまっているがん
病期Ⅳ:転移しているがん
前立腺がんの治療
手術(ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術)
愛媛大学では2013年6月から手術支援ロボット・ダヴィンチSi(2019年よりXi)によるロボット支援前立腺全摘除術を開始し、2020年までに680例の患者様に手術を行いました。手術方法は腹部にポートと呼ばれる6つの穴を開け、その4箇所からカメラと3本のロボットの手(アーム)が挿入されます。それをコンソールと呼ばれる機械で遠隔操作して手術を行います。内視鏡手術ですが、従来のものより画像が鮮明で、かつ立体画像のため非常に繊細な手術が可能となりました。手術は前立腺と精嚢(前立腺に隣接する精液を作る臓器)を摘除し、残った膀胱と尿道を吻合します。症例に応じてリンパ節郭清や勃起神経温存手術を行います。最も気になる合併症は尿漏れですが、通常数日から数ヶ月で治ります。
放射線治療
最近は、CT画像から前立腺の形を見て、前立腺の形に沿って放射線をあてることができ、当院では強度変調放射線治療 (IMRT: 立体構造に沿って照射する)を施行しています。これは、身体の外から照射する外照射法です。また前立腺の中に放射線性物質を埋め込む内照射法も行っています。合併症として頻尿が約3割に出現しますが、数ヶ月で元通りになることがほとんどです。前立腺に限局したがんであれば手術とほぼ同等の効果です。年齢や持病などで手術が受けられない方にもお勧めできる治療です。また、転移部位の痛みに対して放射線をあてることで、痛みを和らげることができます。
ホルモン治療
前立腺がんは男性ホルモンの影響を受けて増殖する特性から、種々のホルモン治療が行われています。1~6ヶ月に1回皮下注射をする方法や内服薬などがあります。また、睾丸を摘出する方法もあります。男性ホルモンを除去する治療なので、男性更年期障害と言われるほてりやイライラ感などが出ることがあります。また、骨が弱くなったり、血流障害をきたすこともあります。しかし、ホルモン治療は徐々に薬が効かなくなってくる(ホルモン治療抵抗性)ため、手術や放射線治療の補助的な治療に用いたり、転移症例であったり、高齢であったりして根治的な治療ができない症例に使うことが多いです。現在、愛媛大学では、前立腺がんを対象とした、いくつかの治験を実施しております。行っている治験内容の詳細については、愛媛大学医学部泌尿器科医局までお問合せください。
経過観察(active surveillance)
増殖スピードの遅い前立腺がんならではですが、高齢の患者さんで、生検の結果がんの悪性度が低かったり、がんが小さいものでは、平均余命を考えると前立腺がんでお亡くなりになる可能性が低いことが考えられます。そのような場合はPSAの値などで経過を観察していくことも治療のひとつです。PSAの上昇傾向が強くなってから治療しても、決して手遅れではありません。不必要な治療を避けるために、しばしば経過観察することが選択されます。
前立腺がんの治療効果
がんの種類によっても異なりますが、一般には前立腺内にとどまる病期Ⅰ、Ⅱは5年生存率(5年間生きられる確率)が約90%以上といわれています。前立腺周囲にとどまる病期Ⅲでは約70%前後、骨転移している症例では約30%と悪くなります。最近は検診で前立腺がんの疑いを見つけて、早期治療を行うようになってきており、治療効果の改善が期待されます。