愛媛大学大学院医学系研究科 器官・形態領域 泌尿器科学 愛媛大学大学院医学系研究科
器官・形態領域 泌尿器科学 Department of Urology Ehime University Graduate School of Medicine.

お問い合わせINQUERY
Menu

泌尿器の病気MEDICAL INFORMATION

尿失禁

尿失禁とは

正常な排尿機能とは、無意識でも、尿意を感じることなく、尿を膀胱に貯める(蓄尿する)ことが出来、尿意を感じたら、意識的に尿を残すことなく、勢いよく排出(排尿)できる状態をいいます。これらのバランスが損なわれ(特に蓄尿機能が)自分の意思と無関係に尿が漏れてしまう状態を尿失禁といいます。尿失禁が続くと、日常生活が妨げられ、外出せず自宅に引きこもってしまうなどの状態を引き起こす場合もあります。

尿失禁の種類

腹圧性尿失禁

咳・くしゃみ、突然走り出したとき、縄跳びなど、お腹に力がかかった(腹圧がかかった)時に尿が漏れる症状を起こすものです。女性でよくみられる尿失禁です。

過活動膀胱(切迫性尿失禁)

突然尿意を感じ(おしっこがしたくなり)、それが急激であり、また我慢できない。あわててトイレに行くが、間に合わず、尿失禁を伴う状態です。

溢流性尿失禁

前提として排尿障害が存在する患者さんに認められます。尿が出にくい為、ぱんぱんに膨れた膀胱から、溜まりすぎた尿が溢れて漏れてくる状態です。男性患者さんに多い状態です。原因となる疾患としては、子宮癌術後、神経因性膀胱、前立腺肥大症、前立腺がん、尿道狭窄、糖尿病などがあります。

機能的尿失禁

膀胱機能は正常だが、痴呆症や高齢による身体運動機能の低下により、 トイレに間に合わないために尿が漏れてしまう状態です。

尿失禁の症状

ここからは、外来で診察することが多い腹圧性尿失禁について詳しく説明します。女性がかかりやすい腹圧性尿失禁は、くしゃみ、重い荷物を持ち上げたとき、階段の昇り降り、歩行時など腹圧が急に かかると、尿失禁をおこしてしまう状態です。

なぜ女性が腹圧性尿失禁にかかりやすいのか?

(1)尿道が短く、前立腺が存在しない
女性は男性と比較すると尿道が短い(男性約25cm>女性約4cm)
また、女性では膀胱の下に存在する前立腺が存在しないために、男性と比較して尿道を締める力が弱くなるため

(2)骨盤底筋群が弱い
骨盤底筋群といって、尿道、膣、直腸を支えている筋肉が存在していますが、女性は外尿道口、膣口など開く構造をとるものが多く、男性に比べると筋肉 を引き締める力が弱くなってしまいます。その上、出産、肥満、加齢などに よりいっそう緩み易くなる傾向にあります

(3)膣・子宮の存在
子宮が膀胱の上にのしかかり、膣が膀胱に寄り添うように存在しているため、 婦人科疾患に罹ると、尿失禁も起こし易くなります。

腹圧性尿失禁の危険因子(risk factor)

(1)出産回数(経膣分娩)
(2)年齢
(3)便秘
(4)肥満
(5)職業歴(踏ん張る=腹圧がかかる仕事)

尿失禁の検査

腹圧性尿失禁の診断・検査は次の通りです。

問診

・出産歴、手術歴、婦人科疾患の有無
・便秘の有無
・尿失禁の状況(何時、どのような時に、どれくらい等)

検尿

超音波検査

パッドテスト

パッドをつけていただいた状態で、水分を取ってもらい、せき、くしゃみ、 手洗い、足踏みなど腹圧のかかり易い動作をメニューに沿って行っていただき、尿失禁の量を測定します。

膀胱造影検査(チェーンCG)

透視室にてレントゲンを用いて行う検査です。外尿道口より、カテーテルとチェーンを膀胱内に挿入し、造影剤を注入します。その後、立位の正面と側面でレントゲン写真を撮影し、尿道と膀胱の解剖学的な関連を判定します。後部尿道角が正常人で90~110度ですが、腹圧性尿失禁患者では110度より大きくなります。

尿失禁の治療

腹圧性尿失禁の治療について、説明します。

骨盤底筋体操

<目的>
腟および肛門を意識的に締める、緩めるという動作を繰り返すことで尿道および、膀胱・尿道などを支える骨盤底筋群を同時に締めることとなり、骨盤底筋群を鍛えることとなり、尿失禁の予防に役立ちます。

<方法>
リラックスした姿勢をとり、腟および肛門を意識しながらゆっくり締め、5秒数えたら緩めます。これを数分間続けます。これを1セットとして1日に何回か行っていただきます。慣れてきたら、起床前の布団の中で、家事の途中で立ったままで、いすに座った姿勢で、就寝前や、仕事・家事の合間に行っていただくこととなります。
しかし、この運動だけでは、尿失禁が改善されない患者さんもいらっしゃいます。その場合は以下の如く、内服治療、手術などを行います。

内服治療

抗コリン剤、β受容体刺激薬、α受容体刺激薬などが使用されます。主に、膀胱を緩め、尿を貯まりやすくし、また尿道を締めて尿失禁を防ぐ目的で使用します

手術療法

腹圧性尿失禁にたいしては、様々な手術法がありますが、当院では「膀胱頸部(尿道)スリング手術」を行っています。
[膀胱頸部(尿道)スリング手術とは?]
膀胱頸部(尿道)スリング手術=TVT(tension-free-vaginal tape)
経腟的に手術を行う、低侵襲で局所麻酔でも行える手術です。 当院では、腰椎麻酔で手術を行っています。
手術は約1時間以内に終わります。プロリンテープを経腟的に尿道を支える形で留置し、膀胱に腹圧がかかった時に尿失禁を来たさないように尿道を支えるようにします。術後の問題としては一時的ですが逆に尿が出にくくなり、調子が落ち着くまで自己導尿をしていただかないといけない場合があります。順調に術後の経過が進めば、手術後5日位で退院となります。