学会のポスター会場で神妙に説明を聞いているところ。
国際学会に参加すると、世界の大きなサイエンスの流れの中の小さな研究者の一人であることを自覚する。

2021年6月1日付けで、愛媛大学大学院医学系研究科 解剖学・組織学講座(現:生体構造医学講座)に着任いたしました武内章英と申します。

私は医学部の基礎配属でお世話になった講座で、自分の考えたアイデアに沿ってそれまで見たこともない機械や試薬を使った色々な実験をして分からないことを解明しようとする基礎医学研究の面白さを知り、それが今の自分の研究者の人生につながっています。脳科学に興味があったことから卒業後は脳神経外科のレジデントになりました。そこで、高度な機能を持つ複雑な構造のヒトの脳とは、頭蓋骨の中の小さな空間に入った1500グラムにも満たない豆腐のような柔らかくとても脆い臓器であることを知りました。人を人たらしめるとても重要な臓器なのに、一度ダメージを受けてしまうと元に戻らない事や、脳腫瘍の治療の難しさや、多くの神経変性疾患・精神疾患・痴呆症は治療法がなく進行していってしまう非常に困った疾患であることを知りました。複雑な脳がどのようにできているのかを知りたいという気持ちから、大学院生の頃から脳・神経の発生機構の解明に挑戦しながら、神経変性疾患や精神疾患の病態解明や治療法の開発につながるような研究を目指しています。

医学部の学生の頃の解剖実習の思い出は鮮明に残っているのですが、残念ながら一生懸命勉強したということと、複雑な構造を見たらしいと言うことしか覚えておりません。臨床実習では体系的な解剖の理解ができていないことを自覚せざるをえず、ポリクリの際には行く先々で教官の先生方から随分絞られました。しかしながら現在医師として活躍している先生方の多くも同じような経験をしていると言われるので、これは自分の問題ではなく解剖教育にまだ多くの改善できる余地があるということなのだろうと思っています。このような思いから少しでも解剖の理解や知識の定着がよくならないかと、前任の京都大学では色々な試みをしてきました。一方私が解剖実習を受けていたころは、当時のまだのんびりした医学教育システムの名残もあり、解剖の先生方があまり試験をされなかったことと相まって、結構のびのび楽しく実習に参加し、自分が興味のあるところだけを勉強していた記憶があります。

基礎医学の講義や実習や研究室で触れる最先端の研究は、将来活躍できる優秀な臨床医や医学研究者になることを見据えている学生さん達にはきっとワクワクする経験になるはずだと信じています。そのための解剖学・組織学教育の改革、さらに日本から愛大から世界に発信して行く研究を展開すべく、これから講座の先生達と共にチャレンジしていきます。

2021年8月7日