野元先生雑感

2016年10月11日

寒露(かんろ)市中の病院と大学病院 10月8日

10月8日 寒露  市中の病院と大学病院
今年は台風が多かった。愛媛県では幸い被害は報道されていないが、東北、北海道では雨による被害が多かった。寒露は初秋になり野草に宿る冷たい露のことである。台風一過、涼しくなり、朝夕は肌寒くなった。最も過ごしやすい時期である。

 

市中の病院と大学病院

皆さんは、今、どこで研修をしているだろうか。私の時代は同級生の大部分は大学病院で研修したが、市中病院でも研修できた。一緒に70人が卒業したが、2-3人はかなり大きなベッド数1000以上の市中の病院で研修を開始した。今は法律で研修制度が規定されており、認定された市中の病院はしっかりした研修ができるように整備されている。大学病院と市中の病院での研修の差異については、皆さんの方が詳しいと思う。大きな違いは学部学生の実習だろう。大学病院では常に学部学生が病院で実習しており、1年生から6年生まで病院で実習あるいは見学しており、皆さんも先輩としての役割が回ってくる。3年目以降は主治医として患者さんを担当する。基本的にはいずれの病院も変わりないと思うが、大学病院ではカンファレンスや研究会、学会が多いと思う。大学院に入学していると講義もあるので、文献等の調べものをしている時間は大学でより多いだろう。一緒に仕事するメディカルスタッフの相違もあると思う。一方、担当する患者さんの数は市中の病院が多くなる。一般には大学病院は紹介患者が基本で珍しい疾患を担当することが多く、市中の病院ではcommon diseaseがより多くなる。どちらも重要で両方で研修することを勧めたい。卒業して数年は皆さんが勉強するために病院が体制を整備しているので、皆さんは勉強する権利がある。中堅になると、市中の病院では医長に、大学病院では講師になる。大学病院では要請により地域医療の応援に出かけているが、講師以上では学校業務が多くなり、診療応援のため市中の病院へ出かけることは少なくなってくる。その分、大学での会議や講義、卒後研修としての講演の時間が増えてくる。また、研究を行って論文として発表することが業務となる。同時に後輩の研究を指導し、論文として発表してもらう。研究は大学病院に勤務する時に必須の業務で、治療方法を教えてもらうだけでなく、新しい治療を生み出して成果として論文にまとめて発表する。その分、一人の医師が担当する診療業務は市中の病院よりも少なくなる。

私は後期研修を終えるころにはクリニックを開きたいと考えていたので、大学に長く勤めるつもりはなかったが、British Council Scholarship 試験に合格し留学したことから研究を担当することとなり、愛媛大学へ赴任してからは欧米の大学をモデルとした臨床薬理学講座を立ち上げて現在に至っている。日本では初めての創薬を現場で担当する欧米型の臨床薬理学講座であり、スタッフの数は多くないが、愛媛大学病院における創薬の半分を実施しており、また臨床研究倫理委員会業務の事務局を担当し、これから日本が先進医療を生み出していくために大学病院が行うべき業務にいくばくかの貢献をしている。

私は大学に勤務しており、皆さんには大学での研究を勧める立場であるが、多くの諸君にとって、大学も市中の病院も、いずれも楽しい職場と思う。日常診療とともに後輩の指導や研究会、論文発表、新しい医療を生み出す研究は、いずれの病院でも実施している。それぞれの業務は量的には病院によって異なるので、自分が最も面白いと考える職場を選んでほしい。

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