野元先生雑感

2016年11月02日

立冬(りっとう)産官学民(2) 11月7日

11月7日 立冬

産官学民 (2)

産官学民は、産は会社、産業界で、官は行政を、学はアカデミアで大学や研究施設を、民は一般社会、医療では患者さんを指している。新しい治療を作る研究では、この4者の協力が必須である。治療薬や機器の臨床研究は医療機関で実施するが、出来上がったら使いたいという患者さんも多く、同様の考えの医師も少なくない。臓器移植でも同様のことがあり、国内では実施しないため海外で臓器の提供を受け移植して帰国する例が相次ぎ、日本は臓器を買う国として非難された。

新しい治療を作るには治療研究が必要であるが、国内では実施せず、出来上がったものを使うだけという医療は理解が得られない。研究開発には患者さんの協力が必須である。また医師にとってもいつもの診察とは異なる。診療は患者さんから依頼があり、医師が引き受けることで診療契約が成立する。治療研究では医師は研究計画(プロトコール)を作成し、患者さんに治療研究を説明し参加を打診して、患者さんが同意することにより開始となり、呼びかける方向が一般の診療とは反対となる。患者さんにとって新しい治療研究は不安が伴い、医師にとっても、いつもの診療よりも多くの時間と体力を要する。しかし、新しい治療を生み出すには必須である。官(行政、厚生労働省)では、新しい治療が開発されるよう推進する「研究開発振興課」があり、研究して申請されたものを審査して承認する「審査管理課」がある。また、医療機器と治療薬を審査する医薬品医療機器総合機構(PMDA)があり、いずれの部署にも医師(医系技官)が配置されている。医薬品や医療機器は産業界(会社)で製造し全国と世界に供給しており、その研究開発にはアカデミア(学)として大学や病院に勤務する医師とメディカルスタッフが協同して担当している。参加してくださる患者さんは、研究への協力が十分に社会から評価されることが必要である。

皆さんは講義でED50やLD50を勉強したと思う。これは薬の効果と有害反応(副作用)のバランスをみる方法で、これが大きいと安全性の高い薬を意味する。有害反応のない薬はなく、全ての治療薬にはよい面とよくない面がみられる。「副作用があってはならない」という考え方は適切ではなく、かえって副作用を見逃しやすい。両方のバランスを比較しながら治療を進める必要がある。治療薬の研究では特に安全性への姿勢が重要となり、疾患の重篤性と現在の治療薬の位置づけを前提に、効果と有害反応(副作用)を検討して治療を研究する。

皆さんが、新しい治療を生み出して世界に貢献することを期待し、確信している。

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