野元先生雑感

2016年08月08日

立秋(りっしゅう)創薬と治療 8月7日

8月7日 立秋
8月になり前半の講義と実習が終了し夏休みに入った。4週間の夏休みで次は8月29日から始まる。数年前の愛媛大学医学部は日本で最も休みの多い医科系大学であったが、今は最も短いグループとなっている。学生諸君は体調を整えて、また、事故なく夏休みを過ごしてほしい。

 

創薬と診療

皆さんが患者さんを担当して診断がつき、また方針が決まっても治療が奏功しない例は少なくないと思う。基幹病院では特に治療の難しい症例が集まるので、困難さを感じるだろう。現在、手元のある治療方法で十分に治療できない時には国内、国外の文献を探し有効な治療法を調べてほしい。標準治療は「今日の治療指針」「診療ガイドライン(各学会で作成していることが多い)」「ワシントンマニュアル(米国版今日の治療指針)」等が手近にあり使いやすい。ちなみに前2者については私も担当している。海外文献は「PubMed」が使いやすい。国内の資料は「医学中央雑誌(医中誌)」で検索できる。愛媛大学図書館を経由して検索すると、主要な文献はdownload できるし、abstractはどの雑誌でも手に入る。文献がなくとも、理論的に、薬理学的に効果の期待できる治療薬があれば、検討するとよい。新しい治療方法の手掛かりとなる可能性がある。

海外で承認されている薬は、輸入して倫理委員会で承認を受けると研究治療として応用できる。また、他の疾患で用いられている薬が理論的に有効であると予想できるときには、同様な手続きで治療に応用できる。この手続きは概説講義や研修開始時のオリエンテーション、また創薬セミナーで配布した資料を参考にしてほしい。臨床研究で承認申請する時の臨床試験は治験と呼ばれる。この手続きは新しい治療を開発する時には必須で、倫理委員会で承認されたらインターネットを用いて登録することが義務付けられている。私も自ら実施する臨床研究を登録している。ただ、世界的にみると日本からの届け出は少ない(図1)。日常診療で用いる治療薬の大部分は海外で開発されて日本に導入されたもので、日本から海外へ貢献できた薬は少ない。一方、世界で使用頻度の高い治療薬の開発を見ると、米国が1位で日本は英国、スイスと同率の2位グループとなっている(図2)。日本はかなり頑張っていると思うが、この評価は創薬した会社の成績であり、被験者とともに研究を担当した医師の所属する国ではない。日本の会社は臨床試験を米国をはじめとして、海外で開始し成功すると日本での治験を開始している。このために日本での治療開始は数年遅くなる。

これからは治療薬を導入する以上に、日本で開発して世界へ導出することが求められている。そのためには日常診療の中で常に研究や治験を実施し、新しい治療を生み出す体制を構築することが必要である(図3)。新しい治療を作ることは楽しい仕事である。目の前の患者さんのために全力を尽くすとともに、今の方法で治らない病気であれば、新たな技術を生み出してほしい。

IMG_6474 図1 IMG_5870 図2
図1 図2(製薬協/医薬産業政策研)
図3 1
図3