当講座の研究は、学位取得後は個々の専門性や関心領域に応じて自由なテーマで取り組んでいます。大学院生や学位取得前の場合は、希望する研究課題を考慮して、最も適切な指導教員に師事するようにしています。2026年4月時点の各教員の研究テーマおよび科研費課題名等は以下の通りです。

山﨑亮教授:
グリア細胞が支えるニューロネットワークとその破綻機序解明と新規治療法開発
大八木保政特任教授:
アルツハイマー病の新規治療薬:アポモルフィン
伊賀瀬道也教授:
高齢者における歯周炎と軽度認知障害の関連
越智博文教授(難病・高齢医療学講座):
視神経脊髄炎スペクトラム障害免疫病態の制御〜濾胞外免疫応答に着目した個別化治療の可能性〜
基盤C(2026〜2028)CD21低発現B細胞の濾胞外免疫応答に着目した視神経脊髄炎の免疫モニタリング法の開発
越智雅之准教授:
終末糖化産物とサルコペニア・フレイル、認知機能低下の関連
三浦史郎講師:
遺伝性神経疾患の責任遺伝子変異解明
グリア細胞が支えるニューロネットワークとその破綻機序解明と新規治療法開発
研究者:山﨑亮教授
私たちの研究室では、神経疾患の病態を、神経細胞だけでなく、ミクログリアやアストログリアなどのグリア細胞、免疫細胞、血液脳関門を含む神経・免疫ネットワークの視点から解明することを目指しています。
私は大学院時代からミクログリアの研究に取り組み、米国Cleveland Clinicへの留学中には、多発性硬化症をはじめとする神経免疫疾患におけるミクログリアや末梢由来マクロファージの役割について研究しました。その後も、ミクログリア、アストログリア、コネキシンなどを中心に、中枢神経系の炎症、脱髄、神経変性を結びつける分子機構の解明を進めています。
現在は、多発性硬化症や視神経脊髄炎スペクトラム障害などの中枢神経免疫疾患、筋萎縮性側索硬化症などの神経変性疾患、慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチーをはじめとする末梢神経疾患を主な研究対象としています。疾患モデル動物、培養細胞、患者さんから得られる臨床情報・画像・生体試料などを組み合わせ、基礎研究と臨床研究の双方向から病態に迫ります。
特に、病態に関与するグリア細胞や免疫細胞の働きを制御することによって、神経炎症や神経変性を抑える新たな治療法の開発を目指しています。また、末梢神経疾患については、自己抗体、電気生理学的検査、MRIによる神経根・末梢神経画像を組み合わせ、より正確な診断や病型分類、治療効果予測につながる研究に取り組んでいます。
臨床で生じた疑問を研究室に持ち帰り、研究によって得られた成果を再び患者さんの診療へ還元することが、私たちの研究の基本姿勢です。医学生、大学院生、若手医師をはじめ、多様な分野の研究者と協力しながら、愛媛から世界に向けて新しい知見を発信していきたいと考えています。
アルツハイマー病の新規治療薬:アポモルフィン
研究者:大八木保政特任教授
アルツハイマー病(AD)は高齢者認知症の60%以上を占める主要疾患です。AD脳の特徴的な病理所見として、アミロイドβ蛋白(Aβ)を主成分とする老人斑と過剰リン酸化タウ蛋白(p-tau)を主成分とする神経原線維変化(NFT)が挙げられます。特に、最初期に形成・蓄積すると考えられているAβを標的とするβ-/γ-セクレターゼ阻害薬、凝集阻害薬、抗体やワクチンなどがこれまで多数開発されましたが、ADの認知機能の改善効果に関しては多くの薬剤が不成功に終わりました。しかし、2023年12月にAβプロトフィブリルを標的とするレカネマブ、2024年12月にN3pG-Aβを標的とするドナネマブが承認されました。これらの薬剤を早期に投与することでADL障害の進行が約3割抑制されたことは一つの進歩ですが、進行期認知症の記憶・見当識などの認知機能を直接回復させる効果はありません。
私たちは2011年にドパミン受容体アゴニストの一つであるアポモルフィン(APO)の皮下注射でADモデルの3xTg-ADマウスの認知機能とAD病理の改善を報告しました(文献1) (図1)。

6ヶ月齢および12ヶ月齢の3xTg-ADマウスにAPO 5 mg/kgを週1回1ヶ月間(計4回)皮下注射しました。モリス水迷路の遊泳軌跡解析では、APO治療後はゴール台場所の記憶が改善しました(A)。海馬の免疫染色では、神経細胞内のAβ42 (BC-05抗体)およびリン酸化タウ蛋白(AT-8抗体)の減少が見られました(B)。Scale bars = 100 μm
その後、培養細胞におけるAPO処理前後の遺伝子発現プロファイル解析で、APOの作用が細胞のインスリン代謝を刺激している可能性が示唆されました。近年、ADは「脳の糖尿病」や「3型糖尿病」とも言われ、またAD患者に対して多数の糖尿病薬の治験が行われています。私たちもAPOの効果も脳神経細胞のインスリンシグナリングに関する機序を想定して継続的に研究を行ってきました。2011年の論文発表以降、これまで継続的に採択された科研費(基盤C)代表分の課題名と主な知見は以下の通りです(図は論文掲載済みのみ引用)。
2010〜2012年:アルツハイマー病の画期的アポモルフィン治療の開発
APO処理した培養細胞のDNAマイクロアレイ解析で、APO処理は細胞周期、酸化ストレス、インスリンシグナリングなどに関連する分子の発現上昇が見られました。中でも、特にインスリンシグナリングへの作用に着目しました。
2014〜2016年:アルツハイマー病のインスリン抵抗性を標的とするアポモルフィン治療法の開発
3xTg-ADマウスにおいて、脳神経細胞のインスリン抵抗性を表すインスリン受容体基質(IRS)-1の発現がAPO治療で低下しており、脳神経細胞のインスリン抵抗性の改善が示唆されました(文献2)。
2017〜2019年:アルツハイマー病のインスリンシグナリング障害とアポモルフィン・インスリン複合治療
6ヶ月齢の3xTg-ADマウスに対して、インスリンを欠乏させるSTZ注射(1型糖尿病)、またインスリン抵抗性を上昇させる高フルクトース食飼育(2型糖尿病)を行うと、脳神経細胞のインスリンシグナリングが低下し、神経細胞内でAβ42とp-tauの共凝集を認め(図2)、インスリンシグナリング低下は脳内AD病理と深く関わっていることが示唆されました(文献3)。

6ヶ月齢の3xTg-ADマウスにSTZ皮下注射でインスリン枯渇を誘導し1型糖尿病モデルを作成しました。脳病理で神経細胞内Aβ42およびp-tauの蓄積増加が見られ、二重蛍光免疫染色で両者の共凝集を認めました。(A) 核染色(DAPI)、(B) タウオリゴマー(T22)、(C) Aβ42オリゴマー(11A1)、(D) 融合像。Scale bars = 10 μm
また、培養N2a細胞において、インスリンを含むN2 supplement培地に置換すると、インスリンシグナリングマーカーであるリン酸化Akt (pAkt)レベルが上昇しました。Aβ42ペプチドで処理するとpAktレベルが低下しましたが、APO添加で回復しました。したがって、細胞外Aβ42オリゴマー増加で神経細胞のインスリンシグナリングが抑制されますが、APO治療によりその病態が改善することを確認しました。
2020〜2022年:アルツハイマー病のインスリンシグナリング障害およびAβの分子病態と治療
APOは元々パーキンソン病に保険適用されているドパミン受容体アゴニストの一つですが、APO以外のドパミン受容体アゴニストであるプラミペキソール、ロピニロール、ペルゴリドではpAkt上昇作用を認めませんでした。一方、糖尿病薬のリラグルチド、ビルダグリプチン、メトホルミンでは、APO同様にpAkt上昇作用を認めましたが、APOとリラグルチドで最も顕著な効果が見られました。また、APOとそれらの糖尿病薬の作用は競合的であり、また、IRS-1の特異的阻害薬であるNT157でAPOの作用は抑制されたため、APOのpAkt上昇作用機序はインスリン受容体への作用と考えられました。
2023〜2025年:アルツハイマー病のインスリンシグナリング標的治療:モデルマウスにおける解析
培養細胞における上記のようなAPOのpAkt上昇作用を3xTg-ADマウスで検証しました。まず、ウェスタンブロットで、1、4、7、11ヶ月齢のマウス脳において、加齢とともにpAktレベルが低下しました。一方、6ヶ月齢からAPO 10 mg/kg週1回1ヶ月間(計4回)皮下注射マウス脳では、生食注射マウス脳に比べて約2倍のpAktレベル上昇が見られました。単純に考えると、APO注射により4ヶ月齢程度まで回復したと考えられます(論文作成中)。引き続き、他の薬剤と効果を比較検討中です。
私たちは以前少数のAD患者に対して週1回のAPO皮下注射を3ヶ月間行い、記憶力の改善効果を確認しました(文献4)。以上の成果を包括的に考えると、APO治療はAD脳における神経細胞のインスリンシグナリング障害を改善することで、進行期ADにおける認知機能を改善することが期待できます。
文献
- Himeno E, Ohyagi Y, et al. Apomorhine treatment in Alzheimer mice promoting amyloid-β degradation. Ann Neurol 69: 248-256, 2011.
- Nakamura N, Ohyagi Y, et al. Apomorphine therapy for neuronal insulin resistance in a mouse model of Alzheimer’s disease. J Alzheimers Dis 58: 1151-1161, 2017.
- Imamura T, Yanagihara Y, Ohyagi Y, et al. Insulin deficiency promotes formation of toxic amyloid-β42 conformer co-aggregating with hyper-phosphorylated tau oligomer in an Alzheimer’s disease model. Neurobiol Dis 137: 104739, 2020.
- Ohyagi Y, Takei SI. Insulin signaling as a therapeutic target in Alzheimer’s disease: Efficacy of apomorphine. Neurol Clin Neurosci 8: 146-154, 2020.
高齢者における歯周炎と軽度認知障害の関連
研究者:伊賀瀬道也教授(愛媛大学病院抗加齢医療予防センター長)

愛媛大学病院に2006年から開設されている抗加齢予防医療センターでは、高齢者の方を中心に身体年齢を評価する人間ドック「抗加齢ドック」を提供しており、これまでのべ4000名を超える受診者を迎えています。私はおもに抗加齢ドックのデータを用いて臨床研究を行っておりますのでここでは直近の研究論文1報とその他の主な活動を紹介します。
1. 高齢者における歯周炎と軽度認知障害の関連
(Igase M et al. JAR Life. 2024; 13: 108-112.)
軽度認知障害の早期発見による介入は、良好な予後をもたらすと期待されています。いっぽう近年の研究から歯周炎と軽度認知障害との関連が示唆されています。そこで本研究では抗加齢ドック(歯科口腔ドックを含む)を受診した高齢者において、歯周炎と軽度認知障害との間に関連があるかを検討しました。歯周炎の指標は「歯周ポケット(PPD)が4mm以上であること」とし、重症の歯周炎の指標は「 PPDが6mm以上であること」としました。軽度認知障害の評価は「あたまの健康チェック」(ミレニア)を使用しました。321名(平均67.5歳、女性202名)の受診者のデータを元に歯周炎と軽度認知障害に関連性があるかを検証しました。下表に軽度認知障害群と正常群との比較を示します。

軽度認知障害群では正常群と比較して年齢が高いこと、教育歴が短いこと以外に歯周炎の存在がある割合が多く、重症歯周炎を持つ割合も多いことがわかりました。そこで軽度認知障害を説明変数として多重ロジスティック回帰分析を行った結果、下表に示しますように重症歯周炎では軽度認知障害の存在の可能性が約4倍になることがわかりました。

2. さくらの湯ブランチ
抗加齢予防医療センターでは東温市内に簡易検査を受けていただくためのブランチを設けています。2018年4月から私の発案で一か月に一回東温市の温浴施設「さくらの湯」において「さくらの湯ブランチ」を開設しています。さくらの湯への入浴客に対して簡易骨密度検査と脈波伝搬速度検査(baPWV/ABI)を提供するサービスです。昨年までに受診した362名(平均年齢70.2±10.9歳、男性134名)のデータを確認すると、12名で末梢動脈疾患(PAD:Peripheral Arterial Disease)を疑わせる所見ABI低値(<0.9)があり専門医の受診を勧めました。また20名ではABI高値(>1.3)を示しており、背景のリスク(糖尿病歴、透析歴など)を問診で確認しましたがこれらに該当するものはなく、既報(J Hypertens. 2009; 27: 167-73.)のように「一般集団におけるABI高値は必ずしも高度のアテローム性動脈硬化の存在ではなくBMIが高く(筋肉量が多く)、栄養状態が良い傾向がある」ことが確認できました。この事業は現在は東温市健康医療創生研究会のメイン事業の一つに格上げしていただいております。
視神経脊髄炎スペクトラム障害免疫病態の制御〜濾胞外免疫応答に着目した個別化治療の可能性〜
研究者:越智博文教授
視神経脊髄炎スペクトラム障害(neuromyelitis optica spectrum disorder:NMOSD)は、病原性自己抗体であるアクアポリン4(aquaporin-4:AQP4)抗体によってアストロサイト傷害が惹起される結果、神経細胞や軸索が二次的に傷害される中枢神経の自己免疫疾患です。多彩な臨床症状を呈しますが、重度の視神経炎と脊髄炎を繰り返すことが多く、失明や車椅子生活を余儀なくされるなど重篤な後遺症を残すことも少なくありません。また、AQP4抗体の発見により病態の解明が大きく進展したにもかかわらず、根治療法は未だ開発されておらず、生涯にわたる再発予防治療が必要となります。従来は、免疫抑制薬やグルココルチコイド薬による非特異的な治療に終始し、再発予防効果が不十分な難治例も少なくありませんでした。また、再発の有無のみを指標に経験的に用量設定が行われ、必要以上の治療が行われるなどした結果、骨粗鬆症や感染症、悪性腫瘍などの副作用が問題となることも少なくありませんでした。
しかし、作用機序の違いにより主に3つのカテゴリーに分類される5剤の生物学的製剤(図1)、つまり、①補体成分C5を標的とするエクリズマブとラブリズマブ、②IL-6受容体を標的とするサトラリズマブ、③B細胞に発現するCD20を標的とするリツキシマブとCD19を標的とするイネビリズマブ、が承認されたことで、これまで以上に高い再発予防効果が期待できるようになりました。しかし、これらの生物学的製剤は非常に高額な上、重篤な感染症の懸念があります。また、補体標的薬以外の3剤はいずれもB細胞系列の細胞を主な標的としていますが、その使い分けに一定の見解はありません。さらに、再発例がなくなった訳ではなく、生物学的製剤間での切り替えに関する指針もありません。
従って、これからのNMOSD診療では、①疾患活動性に応じてグルココルチコイド薬や免疫抑制薬、生物学的製剤を使い分ける、さらには、②免疫病態に応じて生物学的製剤を使い分ける、こうした高度な個別化治療戦略が必要となってきます。そのためには、疾患活動性や治療反応性に関わる免疫病態を反映する生物学的指標を確立する必要があります。我々は、IgD陰性CD27陰性B細胞、CD21低発現B細胞、加齢関連B細胞に代表される非定型B細胞と末梢性ヘルパーT細胞との濾胞外免疫応答に着目して、その変化と臨床経過との関連を解析することで、疾患活動性や治療反応性を反映する濾胞外免疫応答機構を明らかにするとともに、濾胞外免疫応答を指標としたNMOSDの個別化治療戦略を構築することを目指しています。


文献
- Ochi H, Nakamura S, Nakahara J. B cell depletion as a therapeutic strategy for neuromyelitis optica spectrum disorder: Rationale, evidence, and challenges. Front Immunol 2025.16:1635989.
- Nishigori R, Hamatani M, Yoshitomi H, Kimura K, Takata M, Ashida S, Fujii C, Ochi H, Takahashi R, Kondo T, Ueno H.CD21lo B cell subsets are recruited to the central nervous system in acute neuromyelitis optica. Brain. 2025 Mar 5:awaf086. doi: 10.1093/brain/awaf086. Online ahead of print. PMID: 40042820.
- Ochi H, Fukazawa T, Yamamura T, Yokoyama K, Ohashi T, Nakashima I, Mizuno M, Fukaura H, Kawachi I, Okuno T, Sato R, Makioka H, Tsuchiya A, Kanda M, Sato Y, Saida T. Safety and effectiveness of dimethyl fumarate in Japanese patients with multiple sclerosis: 2-year post-marketing surveillance data. Neurol Clin Neurosci.2026;14(1):54-68.http://doi.org/10.1002/ncn3.7002.
- Nakashima I, Ohashi T, Yokoyama K, Kaida K, Nakahara J, Kondo T, Yoshikura N, Shimizu Y, Nohara C, Sakurai K, Yokote H, Niino M, Yamamura T, Fujihara K, Isobe N, Ochi H, Mori M, Kawachi I, Shimizu F, Kanda M, Tani Y, Fukazawa T. A multicenter, retrospective study in patients with multiple sclerosis treated with natalizumab in a real-world setting in Japan: The REFIND study. Mult Scler Relat Disord 2026;107:107007.http://doi.org/10.1016/j.msard.2026.107007.
- Fujihara K, Isobe N, Miyamoto K, Niino M, Nakahara J, Hattori S, Tanaka M, Tahara M, Suzumura A, Sakurai K, Yoshikura N, Shiomi K, Ochi H, Nagata E, Deguchi K, Tomizawa Y, Yamashita K, Nagatsuka T, Adachi H, Nakashima I. Long-term effectiveness and safety of satralizumab for neuromyelitis optica spectrum disorder in a real-world clinical setting in Japan: A 2.5-year final analysis of a multicenter medical chart review (The SAkuraBeyond Study). Mult Scler. 2026 Feb 24:13524585261418536.doi:10.1177/13524585261418536.
- Nakashima I, Fukazawa T, Yokoyama K, Yamamura T, Ochi H, Kanda M, Sato Y, Sato R, Makioka H, Tsuchiya A, Saida T.Safety and effectiveness of dimethyl fumarate in Japanese patients with multiple sclerosis: subgroup analysis of older patients and patients switching from fingolimod or natalizumab using 2-year post-marketing surveillance data. Clin Exp Neuroimmunol. 2026;17:e70074. https://doi.org/10.1111/cen3.70074.
- Aratake Y, Yoshinaga K, Ashida S, Fujii C, Hamatani M, Kimura K, Ochi H, Takahashi R, Kondo T. Beyond dissemination criteria: lesion-based longitudinal MRI of atypical demyelinating lesions at the boundary of multiple sclerosis. J Neurol. 2026;273:438. https://doi.org/10.1007/s00415-026-13951-6.
終末糖化産物とサルコペニア・フレイル、認知機能低下の関連
研究者:越智雅之准教授
近年、老化関連マーカーとして終末糖化産物(AGEs)が注目されている。AGEsは、蛋白が過剰に糖化され、不可逆的に機能を喪失した最終産物である。加齢や糖尿病などで体内に蓄積し、特定の食品にも過剰に含有されている。また、アルツハイマー病患者の脳内にも蓄積し、認知症や動脈硬化症などの発症要因の一つとも考えられている(Yaffe K, et al., Neurology. 2011)。現在、血液中AGEsの生化学的測定よりも、皮膚組織に蓄積したAGEsの自家蛍光度測定が普及しており(Meerwaldt R, et al., Diabetologia. 2004)、非常に簡便かつ非侵襲的な測定が可能である。本院の抗加齢・予防医療センターにおいても2013年よりルーチン検査項目に加えている。これまでの解析の結果、MCIの早期診断マーカーとして皮膚AGEs測定の有用性(Igase M, et al., J Alzheimers Dis. 2017)(図1)、中高年男性におけるサルコペニア関連指標の握力および大腿筋横断面積と皮膚AGEs蓄積量の逆相関(Matsumoto S, et al., Arch Gerontol Geriatr. 2022)(図2)、さらに、年齢とSF scoreを組み合わせたリスクスコアを作成したところ、リスクスコアが高い男性群で認知機能低下および皮膚AGEs蓄積量が高値(Takei S, et al., Arch Gerontol Geriatr Plus. 2024)(図3)、などを報告している。


皮膚AGEs蓄積量はAGE-Reader®で測定した自家蛍光(skin autofluorescence, SAF)で表される。

以上の知見から、高齢者、特に男性において、サルコペニア・フレイル、AGEs蓄積、認知機能低下と複合的にリンクしており、皮膚AGEs蓄積量は高齢男性におけるフレイルや認知機能低下の予見因子やサロゲートマーカーになりうる可能性が示唆された。しかし、これまでの研究成果は横断的研究であり、縦断的・介入的研究を進めることで、皮膚AGEs蓄積量の低減による新たなフレイル・認知機能低下の予防法の確立を目指している。
遺伝性神経疾患の責任遺伝子変異解明
研究者:三浦史郎講師
『疾患』は『遺伝要因』と『環境要因』の組み合わせで生じると考えられます。いわゆる単一遺伝病というのは『遺伝要因』がほぼ100%であり、一方、サリン中毒などは『環境要因』がほぼ100%の疾患といえます。この講座では、『遺伝要因』にspotをあて、遺伝解析・遺伝子変異機能解析などを行い、『遺伝学的に(and/or臨床的に)新たな疾患単位確立』をし、最終的には治療法を開発することを目指しています。

疾患の責任遺伝子変異を同定する意義
- 疾患発症の分子基盤解明の第一歩となる
- 分子基盤が解明すれば治療法開発につながる
疾患遺伝解析のおおまかな流れ
- 遺伝性疾患であると疑う
- 既知の疾患責任遺伝子変異がないか調べる
- 家系を集め、遺伝学的解析をする
- 新しい責任候補遺伝子変異を同定する
- 責任候補遺伝子変異について機能解析をする
稀少遺伝性神経疾患研究の具体例
1. 臨床像を押さえる
典型的な緩徐進行性の痙性対麻痺
2. 家系調査
両親が血族婚(常染色体劣性遺伝の可能性大)

3. 世界初の遺伝子変異の発見
機械で遺伝子の塩基配列を読み取ると患者ではGTAAの4塩基が完全欠失している。両親は半分ずつ欠失している。

4. 世界初の遺伝子変異の発見



5. 論文発表
遺伝学的・臨床的に新規の遺伝性神経疾患研究の具体例
1. 臨床像を押さえる
下肢近位筋優位・排尿障害・発作性空咳を来す遺伝性運動感覚ニューロパチー
2. 臨床像に加えて検査・画像・病理をおさえる

3. 家系調査
常染色体優性遺伝
4. 疾患責任候補遺伝子変異を同定
A 責任遺伝子は第1番染色体にありそう

B コンピュータ解析により患者特異的な変異を割り出す

C 患者さんの点変異を確認

5. 責任候補遺伝子の機能解析
