対象疾患について
消化管・腫瘍外科
●病的肥満について
1)病的肥満、代謝改善手術について
肥満、肥満症とは?
肥満とは体の標準の量を超える脂肪が蓄積した状態を指し、病気ではありません。しかし、アメリカの国立衛生研究所(NIH)によると、理想体重より20%以上増加していると健康が害される危険性が出てくると報告しており、この肥満に伴って健康が害されている状態を「肥満症」といいます。
肥満の状態はボディー・マス・インデックス(BMI)で評価されます。
BMI : 体重 (㎏) ÷ 身長 (m)の二乗(= ㎏/㎡)
BMI 25 以上 → 肥満
BMI 25 以上 + なんらかの肥満に伴う健康障害を伴うもの → 肥満症
特にBMI 35 以上の肥満症を「高度肥満(病的肥満)」といいます。
肥満になる原因は複雑です。単に食べ過ぎの結果ではなく、根本的原因は遺伝であるという報告もあります。一旦病的肥満になると、食事制限や運動療法だけでは長期間の減量効果は乏しいことが報告されています。
また、病的肥満患者さんの平均寿命は肥満のない人と比べて明らかに短いという結果がでています。体重が理想体重の2倍をこえる患者さんは、肥満のない患者さんに比べて死亡率が約2倍高く、糖尿病や心臓発作による死亡は5-7倍になるといわれています。
病的肥満に合併しやすい主な病気は以下のとおりです。
① 糖尿病
肥満はインスリンに対する抵抗性を高くし、そのため血糖のコントロールが悪くなって体に大きなダメージを生じさせます。
② 高血圧・心臓病・腎障害
肥満は心臓に大きな負担を与えます。高血圧を生じ、心臓発作を起こす危険性が高くなります。
③ 関節の不具合
ひざや股関節に体重がかかり、関節の消耗や炎症を生じます。
④ 睡眠時無呼吸症候群
舌や首の周りに脂肪がつき、寝ている間の空気の通りが悪くなります。そのため充分な睡眠が取れなくなり、昼間の眠気や頭痛を引き起こします。
⑤ 胸焼け
腹圧が上昇して胃液が食道に逆流して生じます。長く続くと、食道がんになりやすくなります。
⑥ 胆石症
コレステロールの影響と考えられています。
⑦ 精神疾患
繰り返すダイエットの失敗、周囲や見知らぬ人からの差別、冷笑を受けることで精神的に不安定になることがあります。
⑧ 失禁
膀胱に圧がかかり、咳などで尿漏れをおこしやすくなります。
⑨ 生理不順
ホルモンのバランスが崩れ生理不順が起こりやすくなります。
⑩ 脂質代謝異常
脂質が動脈内で固まって動脈硬化を生じます。
⑪ 肺塞栓
足などの静脈にできた血液の塊が肺に飛ぶことによって起こります。肥満患者さんは静脈の還流が悪いため血栓ができやすく、肺塞栓が起こりやすくなります。
2) 治療法
<生活習慣の改善>
減量治療の基本は、食事、運動療法などの生活習慣改善が基本となります。これは、薬物療法、手術療法を行う際も継続が必要です。また、食事・運動療法は一生続ける必要があります。途中でやめてしまうと容易にリバウンドを起こします。
<薬物療法>
内科で行う治療です。食事療法や運動療法など生活習慣改善治療を行っても効果が不十分な場合に考慮されますが、保険診療で行えるのはBMI 35以上の高度肥満症で医師が必要と判断した場合のみです。ただ単に「痩せたいから」という理由で行われることはありません。
<外科療法、metabolic surgery>
外科で行う治療です。以前は減量手術と言われていましたが、現在では肥満に伴うさまざまな合併症(代謝疾患)を改善する目的で行われることから、代謝改善手術 (metabolic surgery)と呼ばれます。食事摂取を制限する手術と、栄養吸収を抑える手術とに分類されます。
手術は高度肥満症(糖尿病などの肥満関連疾患を合併する場合はBMI
32以上)で、半年以上の生活習慣改善や薬物療法を含めた内科治療の効果がない場合に考慮されます。
ただし、保険診療で手術が行えるのは国の定めた基準を満たす施設のみで、術式は現時点でスリーブ状胃切除のみとなっています。当院は保険診療で手術が行えるだけでなく、その治療への取り組みや技術、成績について国内でも数少ない日本肥満症学会の肥満症外科手術認定施設(中四国で初、四国では当院のみ)に認定されています。
しかし、手術のみで減量が保証、維持されることはありません。生活習慣の改善は手術を行なっても一生涯継続が必要です。したがって、単に痩せたいから手術を受けたいという理由では手術は受けられないようになっています。
また、手術による合併症(縫合不全、狭窄など)で再手術や処置が必要となったり、術後に急激な減量が得られることにより、皮膚がたるむ(余剰皮膚)などの後遺症も存在します。
3)手術の効果
以下に当科の手術成績をお示しします。
術後1年で平均約30㎏の減量が得られ、体重だけでなく、糖尿病の改善効果も認めています。