愛媛大学医学部附属病院 人工関節センター

部門紹介

臨床部門

股関節のしくみ

股関節(こかんせつ)は身体の中で最も大きな関節です。二足歩行する人間にとって、身体を支えるとともに、立って歩く、走り跳躍する、階段を昇降する、四股を踏みボールを蹴る、床に座り胡座をかくなどのさまざまな動作をこなすうえで要となる関節です。

股関節の形状は、大腿骨上端にある大腿骨頭(こっとう)と呼ばれる球状の部分が、骨盤の寛骨臼(かんこつきゅう)と呼ばれるソケットにはまり込むような形状(ボールソケット関節)になっています。大腿骨頭のおよそ2/3を寛骨臼が包み込むことにより、股関節が安定し、体重支持において理想的な荷重分散が達成されます。また、安定した股関節に、筋肉が効率よく機能することで、自由自在に動かすことができ、体が傾くことなくまっすぐ歩行することが可能となります。

股関節の正常正面像(左図)と、股関節の正常断面像(右図)を示す。骨盤の寛骨臼のくぼみに丸い大腿骨頭がはまり込み、ボールソケット関節となり安定している。

股関節痛を引き起こす病気やけが

変形性股関節症

変形性股関節症は、股関節の軟骨の摩耗(すり減り)から始まり、最終的には骨の変形まで生じる関節の病気です。股関節の運動時痛から始まり、跛行(はこう、歩行時に肩が揺れる状態)、関節可動域制限、安静時痛や脚長差などが出現します。日本では臼蓋形成不全症(きゅうがいけいせいふぜんしょう、骨頭に対する寛骨臼の包み込みが浅い状態)という病気によって二次的に引き起こされる二次性変形性股関節症によるものが70-80%を占めます。原因なく生じる場合や、骨粗鬆症によって生じる場合もあります。

正常股関節断面像(左図)と、臼蓋形成不全症断面像(右図)を示す。臼蓋形成不全症では正常股関節に比べ、大腿骨頭に対する寛骨臼の包み込みが不良である。二次性変形性股関節症に進行することが多い。

変形性股関節症の正面像(左図)と、変形性股関節症の断面像(右図)を示す。正常な関節軟骨が消失し、関節の隙間が狭くなる。骨の増殖性変化が生じて骨棘や骨嚢胞が形成されている。

手術治療は、変形性股関節症の状態や年齢によって、骨切り術と人工股関節置換術が選択されています。当院では、若年・壮年者の変形性股関節症に対しては、関節温存手術である骨切り術を積極的に行っています。一方、最終手術である人工股関節置換術は、様々な変形を有する症例に対しても対応が可能です。

大腿骨頭壊死症

大腿骨頭の一部が血流障害により壊死(骨組織が死んだ状態)に陥った状態です。壊死した大腿骨頭の骨組織は再生されないため、壊死範囲が大きい場合は荷重することで骨頭が圧壊し強い痛みを伴う事があります。当院では壊死範囲や部位に応じて、骨切り手術や人工股関節置換術を選択しています。骨切り術には、大腿骨頭回転骨切り術と弯曲内反骨切り術が行われます。関節が圧壊した場合、若年者でも人工股関節置換術が選択されます。

大腿骨頭壊死症の断面像を示す。血流障害により大腿骨頭内に壊死が生じます。壊死の範囲や大きさによって、左図のように骨頭が圧壊されない症例と、右図のように大腿骨頭が圧壊する症例があります。圧壊した場合は、人工股関節置換術が選択されます。

関節リウマチ

関節リウマチは、免疫の異常により関節の腫れや痛みを生じ、それが続くと関節の破壊や変形をきたす病気です。適切な薬物治療を受けることで、関節の炎症や痛みを最小限に抑えることが可能になっています。リウマチ専門医と連携して治療することが重要です。
股関節の破壊が進行した場合は、人工股関節置換術が必要になります。リウマチにより骨が弱くなった症例は、骨セメントを使用した人工関節を行います。

関節リウマチの股関節断面像を示す。滑膜の増殖や関節腫張により、関節破壊が進行します。

外傷等が誘因による変形性股関節症

股関節の脱臼・骨折等で、股関節周囲の骨変形が遺残することにより、外傷性変形性股関節症が生じることがあります。また、大腿骨の付け根の骨折(大腿骨頚部骨折や転子部骨折)後に、骨頭壊死(骨頭の血流障害)や偽関節(骨折がつかない状態)が生じることもあります。股関節症状が強い場合は、人工股関節置換術が選択されます。

人工股関節置換術

人工股関節置換術とは、変形性股関節症や大腿骨頭壊死症、関節リウマチ、外傷などで、傷ついた股関節を、関節の代替として働くインプラントと呼ばれる人工股関節部品に置き換える手術です。

患者さんが人工股関節置換術を受けることによって享受できる事項として、
1. 股関節痛のない生活がおくれる 
2. 正常な歩容、歩行能力が獲得できる
3. 左右の脚長差がなくなる
4. 生活に必要十分な関節可動域が得られる
5. 早期に社会復帰できる 
6. 不安のない術後生活がおくれること、などがあげられます。

人工関節センターの特徴

当人工関節センターでは、人工股関節置換術における確実な治療と早期の社会復帰、不安のない術後生活を目指して以下のことを行っています。
1. 術前の二次元設計図作成
2. 術前の三次元設計図作成(術前シュミレーション)
3. 変形の程度や骨の強さに合わせた個人に最適なインプラント機種の選択
4. 術中ナビゲーション装置の使用(正確なインプラント設置、術後脱臼の予防、長期成績の達成)
5. 最小侵襲手術(MIS)
6. 可能な限り自己血輸血

二次元設計図・三次元設計図

術前にレントゲン撮影やCT撮影を行い、二次元と三次元の設計図を作成します。どの大きさの人工関節をいれるのか、どの位置にどの角度でいれたら最善なのかを、手術前にコンピューター画面上で確認する事が可能な手術支援システムです。特に三次元設計図では、術前にシュミレーションを行うことにより、得られる可動域、インピンジや脱臼の確認を行い、手術中における注意点を確認することが可能となります。
また、このシステムを使用することで、変形の程度や骨の強さに合わせた最適なインプラント機種の選択が可能となります。

二次元設計図

両股関節の単純X線写真(左図)を用いて、二次元設計図(右図)を作成します。画面上に、インプラントを仮設置して、インプラントの適合性や術後の脚長差を確認します。

三次元設計図

三次元設計図では、コンピューター画像内にインプラントを設置してシュミレーションを行います。人工股関節置換術で得られる可動域の確認やインピンジや脱臼の確認を行い、脱臼しないます。

人工股関節におけるナビゲーション

術中には、コンピューターナビゲーション装置を使用して術前計画通りの正確な手術を行います。
まず、赤外線カメラを設置したナビゲーション装置に術前計画の情報を入力します。手術の器具には赤外線を反射もしくは発信するアンテナが付いていますので、コンピューター画面上に手術器具の位置などが表示されます。ナビゲーション装置が事前の計画通りに手術を行えるように、器具に装着した人工関節の位置、深さや角度などを画面上にナビゲーション(指し示すこと)します。
当院の検討では、ナビゲーションを使用することにより約95%の症例で計画通りにインプラント設置が達成されています。正確な設置の重要性は、術後脱臼の予防や、人工股関節の長期成績の達成に重要です。

当院では,2種類のナビゲーション装置を使用しています。左図は、赤外線カメラを設置したナビゲーション装置が手術野のボールから反射して来た赤外線を感知するタイプの装置です。右図は、手術野に設置する器具から出る赤外線を、本体の赤外線カメラで感知するタイプの機器です。

MIS( 最小侵襲手術 )

患者さんの術後の痛み軽減や、術後早期のリハビリテーションを可能とし、早期の筋力回復や歩行能力の獲得、早期の社会復帰を目指して、MIS( 最小侵襲手術 )手術を行っています。当院のMIS手術は、股関節の前外側、中殿筋と大腿筋膜腸筋の筋肉間から進入し、できる限り筋肉を損傷しないアプローチです。筋肉を切離しないため、手術後早期から生理的な股関節の動きが可能となり、痛みも少なくかつ機能回復も良好です。また、外側と後方の筋肉を残すことにより脱臼しにくく、早期から歩行が可能になると考えて行っています。

人工股関節再置換術

人工関節にとって最大の問題は、長期耐用性です。現時点では、20-30年後に再置換が必要になる可能性を否定できないと考えています。再置換手術の場合、部品交換手術で済む場合とすべての部品を交換する再置換手術があります。当院で行われた再置換術の85%の症例が部品交換再置換手術です。利点として、定期検診の中で再置換手術の必要性を説明でき、患者さんも手術準備することが可能になります。部品交換再置換手術の手術侵襲は比較的軽く、骨移植も少なく、症例によっては人工骨で代用できます。手術後早期からリハビリや歩行が可能です。

症例供覧

若年・壮年者の変形性股関節症に対する骨切り手術

若年・壮年者の変形性股関節症には、関節温存手術である骨切り手術が選択されます。当院では、人工関節だけではなく、症例に合わせて、寛骨臼回転骨切り手術(a)もしくはキアリ外反骨切り手術(b)を施行しています。

様々な変形を有する変形性股関節症に対する人工股関節置換術

50歳台の女性、股関節軟骨が消失した右末期変形性股関節症を認めます。人工股関節置換術が行われ、術後2週で自宅退院されています。

50歳台の女性、小児期に手術を受け著しい股関節変形と脚短縮を認める症例です。術前の二次元設計図を作成している。術前計画通り人工股関節が設置されており、左右の脚長がそろっています。

30歳代の女性、左股関節の著しい股関節変形と脚短縮を認める変形性股関節症です。人工股関節置換術により脚長がそろい可動域が改善しています。術前できなかった杖なし歩行や靴下履きも可能となっています。

60歳代女性、小児期から股関節脱臼している症例です。脱臼を整復し、大腿骨短縮骨切り併用人工股関節置換術を施行ています。痛みが消失し、杖なし歩行が可能になっています。

関節リウマチ患者に対する人工股関節置換術

左図はセメントレス人工股関節置換術、右図は大腿骨側にセメントを使用したハイブリット人工股関節置換術を示します。関節リウマチのように、骨が脆弱な症例に対しては、骨セメントを用いた人工股関節置換術を選択することがあります。

外傷による変形性股関節症に対する人工股関節置換術

左図は骨盤骨折後の外傷性変形性股関節症を示します。骨盤の変形が強いため、特殊な補強プレートと自家骨移植を用いた人工股関節置換術が必要でした。術後、痛みは消失し杖なし歩行が可能です。

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