愛媛大学医学部附属病院 人工関節センター

部門紹介

臨床部門

膝関節のしくみ

膝関節は「太もも」(大腿骨)と「すね」(脛骨)の継ぎ目にあたり、さらに「お皿」と言われている膝蓋骨の3つの骨から成り立っています。我々人間の体の中で最も大きな荷重関節が膝関節です。大腿骨と脛骨が接する部分は、骨と骨が直接こすれあわないように関節軟骨というなめらかで弾力性のある組織で覆われています。また、大腿骨と脛骨の間は靱帯で繋がっており、そのすき間には、半月板という三日月型の軟骨性組織が存在し、衝撃を吸収し、負荷を分散させるクッションの役割を果たしています。膝が滑らかに動く為に、膝関節全体は滑膜という薄い膜で内側を覆われた関節包という袋に包まれ、滑膜では関節液がつくられ、潤滑油の様な働きをするとともに、関節軟骨に栄養を運ぶ大切な役割を果たしています。

下肢のアライメント

大腿骨の正面から下肢全体を見た場合、股関節(大腿骨頭)の中心と膝関節の中心を結ぶ線(大腿骨機能軸)は大腿骨の長軸と約7°の角度をなしています。また、脛骨の長軸に垂直な面と脛骨関節面のなす角度は約3度の外側あがりになっています。全体として大腿骨の長軸と脛骨の長軸のなす角度 (femoro-tibial angle :FTA)は、正常では176°です。

股関節(大腿骨頭)中心と足関節中央を結ぶ線を下肢機能軸 (mechanical axisあるいはMikulicz line)と呼び、膝関節面の通過位置を下肢全体の評価に用います(図)。O脚は膝関節の内側、X脚は外側に下肢機能軸がとおり、荷重がかたよってしまうため、関節に均一な荷重がかからず、かたよった部分の軟骨がすり減ります。元々O脚やX脚である場合には変形性膝関節症になりやすい傾向があります。日本人はO脚傾向の人が多くみられます。(図)

膝関節の働き

膝関節の主な役割は、体重を支える機能と下肢を動かす機能の2つの大切な役割があります。膝関節に障害が起きると、立位や歩行など、人間の日常生活活動の根幹的な動作に影響が及びます。平地歩行や階段昇降では体重の約2~3倍、走るときには5倍以上の負荷が膝関節にかかり、ジャンプからの着地動作では体重の24倍にも及ぶと報告されています。膝関節の可動域は、歩行で約60度、しゃがむ動作で約100度、正座では約140から150度と言うように、膝関節は広い可動域をもっていますので一度可動域が制限されると日常生活に支障を来します。(図)

関節軟骨

スムーズな関節運動を誘導するために関節の表面は関節軟骨に覆われています。関節軟骨は骨に比べ、弾力性がありタイヤのゴムくらいの柔らかさです。また表面が非常になめらかでほとんど摩擦がありません。そのおかげで膝はスムーズに動き、骨がすり減りにくい構造となっています。関節軟骨はその80%を水分が占め、コラーゲン、ヒアルロン酸、コンドロイチンなどで残りの成分が構成されています。軟骨には神経、血管がありません。関節軟骨は、その機能を保つために、滑膜から分泌される関節液より栄養を得ています。しかし、血行がなく軟骨をつくる細胞が供給されないため、軟骨が一度損傷すると修復されにくい、という性質があります。変形性膝関節症はこの軟骨がすり減り、関節炎や変形を生じて、痛みなどが起こる病気です。

膝関節痛を引き起こす病気やけが

膝関節の疾患は、経年的な変化によるもの、外傷によるもの、炎症によるもの、腫瘍によるものなど様々です。

膝関節に関連した症状

  • 膝の違和感
  • 膝の痛み
  • 思うように膝が動かない
  • 正座が苦痛である
  • 階段の昇り降りが苦痛である
  • 膝がはれている
  • 膝ががくがくする

その中でも頻度が高く、ADL(日常生活活動)制限につながる代表的な疾患に次のようなものがあります。

変形性膝関節症

変形性関節症は、関節表面に存在する軟骨(クッション)が、加齢とともに摩耗し、消失することで膝関節の変形が生じ、痛みや、腫れを誘発します。
靱帯損傷、骨折など外傷が原因でおこるものもありますが、明確な原因がないのにおこることもあります。関節軟骨は、自己修復能力に乏しい特徴があり、軟骨の損傷が重度になると、滑らかな関節運動が障害され、長い期間にわたり持続的な痛みに悩まされることとなります。

治療法には保存治療と手術治療があり、基本的には保存治療が中心となります。
保存治療には、運動やダイエット、薬物療法(痛み止め内服、ヒアルロン酸関節内補充)などがあります。こうした保存治療で効果がえられない場合に、手術治療が選択されます。
50歳を超えると発生頻度は急激に上昇し、60歳以上では80%以上の人に何らかのX線学的評価が生じるといわれています。
近年社会の高齢化に伴い増加しており、本邦での潜在的な患者数は約3000万人に達すると推定されています。

関節リウマチ

関節リウマチは膠原病の1つで、膝関節以外にも全身のあらゆる関節に炎症を引き起こします。関節リウマチの初期における特徴的な症状に、朝持続する手のこわばりや、関節の腫れや痛みを生じます。変形性膝関節症と同様に、炎症により関節や軟骨破壊が生じると自己修復は得られませんので、早期発見・早期治療が重要です。

早期リウマチの診断基準 (1994年日本リウマチ学会)

  1. ➊ 3つ以上の関節で、指で押さえたり、動かしたりすると痛みを感じる。
  2. ➋ 2つ以上の関節で、腫れを認める。 
  3. ➌ 朝持続するこわばりがある。
  4. ➍ 皮下結節を肘や膝などに認める。
  5. ➎ 血液検査で赤沈に異常がある。もしくはCRPが陽性である。
  6. ➏ 血液検査でリウマトイド因子が陽性である。

以上6項目のうち3項目以上あてはまれば関節リウマチと診断できます。

治療法はリハビリテーション、薬物療法、手術療法などがあります。
近年関節リウマチの薬物療法は、急速に発展しており、早期発見・早期治療をおこなうことで症状は改善する方が増えており、実際に関節手術を必要とする患者さんは減少しております。
しかし、薬物療法にも限界はあり、関節破壊が高度な場合や、保存療を継続しても疾患活動性のコントロールが不十分な場合は、手術加療の適応となります。

人工膝関節置換術

人工膝関節置換術は全ての関節面を置換する全置換型人工関節置換術(Total knee arthroplasty:TKA)と軟骨損傷の強い片側部位のみを置換する単顆置換型(Unicompartmental knee arthroplasty:UKA)とがあります。

1.人工膝関節置換術 Total Knee Arthroplasty (TKA)

膝関節内の痛んだ部分を取り除き、内外側とも金属やポリエチレンに置き換える手術です。除痛効果と関節機能の改善に優れ、術後のリハビリテーションが短期間ですむ利点があり、術後10年以上の長期成績でも90%を超える安定した成功率が報告されています。

使用する人工関節の機種には、関節内に存在する後十字靱帯を温存する型であるCR (cruciate retension) 型と後十字靱帯を切除しその機能を人工関節のデザインで代用するPS (posterior stabilizer) 型があります。当センターでは機種選択において温存可能なものは極力温存することを基本的スタンスとしており、可能なかぎりCR型を選択しています。当センターでは我々のグループが研究開発した次世代人工膝関節 (Mera Quest Knee System、CR型) も使用しています。この人工膝関節は日本人の膝関節の解剖学的形状に適合しながら、日本人の生活習慣の特徴である正座、横座りなどの深屈曲に対応するという2つの条件を考慮した人工膝関節です。2009年10月より臨床応用を開始しており、500例を超える臨床実績を持ち、これまでのCR型の術後可動域の報告と比較しても良好な可動域が得られています。

2.人工膝単顆関節置換術 Unicompartmental Knee Arthroplasty (UKA)

内側、あるいは外側の関節面に限局した関節症に対し、前・後十字靱帯を残し、障害された部分のみを人工関節で置換するもので、人工膝関節置換術に比べ侵襲が少なく、可動域が比較的保たれるという利点があります。また小さな皮膚切開で手術を行うため、術後の回復が早い術式です。 人工膝単顆関節置換術は痛んだ部分のみを置換する術式であるためその適応は人工膝関節置換術よりも限定され、肥満がなく、活動性が比較的低い人であり(75歳以上)、また前十字靱帯の変性が軽度で、かつ膝蓋大腿関節に著明な関節症変化がないことが重要です。一方、90°以下の膝屈曲制限、著明な屈曲拘縮を伴うものは適応外で、炎症性疾患である関節リウマチには施行されません。

Navigation手術

手術精度は人工関節手術の成否を分ける非常に重要な要素です。従来のガイドを用いた骨切り方法で正確にインプラントを設置することは容易ではありません。これらの問題を克服すべく1990年代後半にコンピュータナビゲーションシステムが開発されました。術前の画像情報や位置センサーなどの情報からコンピュータ上の仮想空間に3次元骨格を構築し、その情報をもとに術者が骨切りを行うシステムです。光学式と磁場式がありますが、当院では精度の点で優れる光学式を用いています。従来の方法に比べ骨切り精度の点で優れていることが多くの論文で証明されています。

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