愛媛大学医学部 眼科学教室Department of Ophthalmology,
Ehime University School of Medicine

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教室紹介About

研究内容角膜

研究室へようこそ

従来、臨床の研究室では、病気の組織のパラフィン切片を切って、抗原を免疫染色したり、組織を磨り潰してPCRやウエスタンブロットなどの手法で、遺伝子や蛋白の発現量が「上がった。下がった。」という議論に終始することがほとんどでした。しかし、これらの結果は本当に生命現象や治療の効果を捉えているものなのでしょうか。一見、同じに見える細胞の集団でも、個々の細胞によって遺伝子の発現パターンが異なり、組織の中で違う役割を担っている可能性があり、また個々の細胞内においても、すべての生命現象は細胞内のごく一部でナノモルの濃度で起きていることが解っています。そこで、当研究室で最近始めたのが、バイオイメージングです。以前から、角膜の研究に取り組んでいましたが、角膜は光を通しやすい特殊な組織であるため、生きた状態で組織全体を俯瞰することが可能です。

画像:マウス角膜基底上皮細胞のイメージング

A:マウス角膜基底上皮細胞のイメージング。赤、青、黄、緑の上皮が、神経(赤い曲線)を引き連れて、中心に向かって渦を巻く状態が観察できる。

画像:マウス角膜実質細胞であるケラトサイトを4種類の蛍光蛋白で10色に描出

B:マウス角膜実質細胞であるケラトサイトを4種類の蛍光蛋白で10色に描出した。細胞が密に存在するにも関わらず、角膜実質は、ほぼ透明を保てる不思議な組織。

画像:マウス角膜内皮細胞(緑色)

C:マウス角膜内皮細胞(緑色)。角膜内皮細胞は6角形をしていると考えられているが、隣の細胞に長い突起を多数伸ばしているため、バイオイメージングでは足の多いダニのような形で観察される。

不死化ヒト結膜上皮細胞の培養

結膜(しろめ)は眼表面の約9割以上を占め、粘膜バリアの形成や涙液量のコントロールなど、眼表面を健常な状態に保つために非常に重要な働きをもっています。しかし、結膜疾患の分子・細胞レベルでの病態解明や結膜に作用する点眼薬の作用機序、薬剤毒性の解明には未だ不明な部分も多くあります。
それを解明するためには、研究に利用できる安定した結膜上皮、つまり結膜上皮培養細胞が必要ですが、健常な人の結膜上皮細胞を取って、それを培養しても永続的に維持することはできません。人が必ず年をとるように、細胞もまた老化し、死んでしまうためです。
そこで私たちの研究では、このヒト結膜上皮細胞を不死化し、さらに3次元培養を行い生体に近い結膜3次元培養モデルを作成することで、今後の結膜の基礎研究への応用を目指しています。

画像:不死化ヒト結膜上皮細胞の培養01
画像:不死化ヒト結膜上皮細胞の培養02
  1. 1)Mitani A, et al.
    Characterization of doxycycline-dependent inductible Simian Virus 40 large T antigen immortalized humen conjunctival epithelial cell line. Plos One. 2019

角膜感染症研究

モラクセラはヒトの口腔鼻腔咽頭の常在する細菌です。モラクセラはあらゆる分野で感染症の起炎菌となります。その中でも有名なのは、呼吸器感染症で肺炎を引き起こすことです。また、身近なことでは、洗濯物の部屋干しの際に発症する悪臭の原因菌としても知られています。
モラクセラは眼科領域でも様々な疾患の起炎菌になり、眼瞼炎、結膜炎、角膜炎といった疾患を引き起こすことが知られています。特にモラクセラの角膜炎は重症化することが報告されており、失明に繋がることもる疾患です。
角膜炎の起因となる細菌は多種あり、その病原因子が解明されていますが、モラクセラによる角膜炎の病原因子は詳細にはまだ解明されていません。

私たちの研究ではモラクセラ⾓膜炎において、⾓膜炎が重症化する因⼦について調べています。
最初にモラクセラの菌体の構造に着目しました。
同じく角膜炎の起炎菌として有名な細菌である緑膿菌(P. aeruginosa)があります。この緑膿菌の病原因子については当科を含めあらゆる施設で研究されており、かなり解明されています。この緑膿菌とモラクセラ(M. nonliquefaciens)の菌体の構造の違いを比較するため透過型電子顕微鏡で菌体を撮影しました。写真を比較したところ緑膿菌とモラクセラでは細胞壁の構造が大きく異なるようでした。

今後はこの菌体の構造の違いをもとに、各種病原因子を調べ、モラクセラ角膜炎の重症化の因子を検討していく予定です。

画像:角膜感染症研究

ミカン果皮配合ヨーグルトのアレルギー性結膜炎抑制効果

花粉症やアトピー性皮膚炎、ぜんそくなどアレルギー性疾患を有する患者の割合は近年増加しているといわれています。その中でも、特にアレルギー性結膜炎の有病率は48.7%にものぼるということが最近の調査で分かってきました。アレルギー性結膜炎の治療は、抗アレルギー点眼薬やステロイド点眼薬、また、結膜に増殖病変を来す重症型の春季カタルでは免疫抑制薬点眼を組み合わせて行っているのが現状です。しかし、薬剤にのみ頼るのではなく、毎日口にする食品で抗アレルギー効果を得ることができないかという研究は以前より行われてきました。

我々は、愛媛大学農学部と協力し、ミカンの皮に含まれているノビレチンとヨーグルトに含まれるβグロブリンを組み合わせたミカン果皮配合ヨーグルトにアレルギー性結膜炎の抑制効果があることを証明しました1)。このミカン果皮配合ヨーグルトは、四国乳業とコラボレーションをして作成し、現在N+ドリンクヨーグルトとして市販されています。
しかし、この抑制効果のメカニズムに関してはまだブラックボックスであり、現在、涙液に着目して研究を行っています。

  1. 1) Effect of Mandarin Orange Yogurt on Allergic Conjunctivitis Induced by Conjunctival
    Allergen Challenge. Hara Y, Shiaraishi A et al IOVS 2017
画像:ミカン果皮配合ヨーグルトのアレルギー性結膜炎抑制効果01
画像:ミカン果皮配合ヨーグルトのアレルギー性結膜炎抑制効果02