愛媛大学医学部 眼科学教室Department of Ophthalmology,
Ehime University School of Medicine

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教室紹介About

研究内容涙道・眼形成

眼形成領域

眼球は、眼瞼などの眼球付属器と適切に相互作用することで、良好な視機能を発揮します。我々の教室では、高齢化に伴い有病率が高まっている眼瞼下垂や眼瞼内反症の手術を中心に、眼瞼が視機能に与える影響について臨床研究を進めています。

研究内容
1. 眼瞼下垂と自覚症状

眼瞼下垂は、単にまぶたが下がっているという外見上の問題だけでなく、下がったまぶたを前頭筋(額の筋肉)で挙げようとする力が過剰に働き、また、開いているまぶたの下側から物を見ようと顎を上げて無理な姿勢を維持するため、頭痛や肩こりなどの様々な疲労症状の原因となり得ます。そこで、眼瞼下垂手術前後での眼精疲労に関する自覚症状アンケートを実施したところ、「眼が疲れる」、「頭痛がする」、「肩がこる」など、調査した10項目全てにおいて、術後は改善傾向であること(図1)が明らかとなりました1)。

画像:眼瞼下垂手術前後での自覚症状アンケート結果

図1. 眼瞼下垂手術前後での自覚症状アンケート結果

2. 眼瞼下垂と実用視力

一般的に眼科で行われる視力検査は、その時点での一瞬の最高視力をあらわし、実生活での見え具合とは乖離している可能性が考えられます。実用視力検査(図2,3)は1分間連続して行う視力検査で、より日常生活での見え方に近い値を反映するとされています。我々の教室では、この実用視力を眼瞼下垂手術前後で比較検討し、術前に低下していた実用視力値が術後優位に改善していること(図4)を報告しました2)。

画像:実用視力検査

図2. 実用視力検査

画像:実用視力検査パラメーター

図3. 実用視力検査パラメーター

画像:代表症例

図4. 代表症例

3. 眼瞼と角膜形状

眼瞼下垂に伴う二次的な角膜形状の変化については以前から報告がありますが、近年の角膜形状解析では屈折率や乱視量の他に、より視機能に影響する高次収差の測定も可能となりました(図5)。そこで、眼瞼下垂患者における術前後での角膜形状、および高次収差を検討したところ、角膜乱視量、高次収差ともに術後優位に改善を認める結果(図6)となりました3)。

画像:角膜形状、高次収差解析OPDⅢ(NIDEK社)結果

図5. 角膜形状、高次収差解析OPDⅢ(NIDEK社)結果

画像:眼瞼下垂手術前後での角膜乱視・収差の変化

図6. 眼瞼下垂手術前後での角膜乱視・収差の変化

文献

  1. 1, 3) 鄭 暁東、五藤智子、鎌尾知行ほか:眼瞼下垂術後における角膜形状、自覚及び他覚視機能の変化. 臨眼 72 : 245-251, 2018
  2. 2)Zheng X, Yamada H, Mitani A et al : Improvement of visual function and ocular and systemic symptoms following blepharoptosis surgery. Orbit 2020 Apr 15 ; 1-7. doi : 10. 1080/01676830. 2020. 1752743

涙道・涙液研究

涙液は常時、涙腺から分泌されて様々な機能を発揮して眼の表面を健常に保ち、涙道から排出されます。涙液の機能は、眼表面の乾燥防止、洗浄、殺菌、栄養補給、滑らかにすることです。この涙腺からの涙液の産生・分泌と涙道からの排出のバランスが保たれることが、眼の表面の維持に重要です。ドライアイは代表的な眼疾患の1つですが、涙腺からの涙液の産生・分泌が障害されることで眼の表面に異常が起こり、乾燥感や異物感など様々な症状を訴えます。一方、涙道からの排出が障害される代表的な疾患として涙道疾患がありますが、ドライアイと同様、眼の表面に異常が起こり、様々な症状を訴えます。流涙(涙がこぼれる)や眼脂が代表的な症状で、涙道閉塞の患者様は常に涙をふく、眼脂を気にするようになり、日常生活の質:Quality of Life (QOL) に多大な影響を及ぼします。また眼の表面の涙が多くなると、ぼやけて見えにくいと感じるようになり、日常生活の見え方の質:Quality of Vision (QOV)を低下させることが明らかとなり1,2)、涙道疾患の治療の重要性が認識されるようになりました。当科では様々な検査機器を利用した涙道疾患の診断、病態解明、治療効果判定に関する研究を行っています。

画像:眼瞼下垂手術前後での自覚症状アンケート結果

図1. 涙液に関与する臓器

研究内容
1. 涙道内視鏡

涙道閉塞の治療として涙嚢鼻腔吻合術が全世界で一般的に行われています。古くは100年以上前から行われており、涙道周囲の骨を切除して新たな涙液排出経路を作成するバイパス治療です。顔面の骨を一部除去する侵襲的な治療であり、治療を受ける患者様の心理的抵抗も高くなります。本邦では2002年に涙道内視鏡が開発され、ブラックボックスであった涙道内の詳細な観察、涙道疾患の治療への応用が可能となり、非観血的で低侵襲な診療が可能となりました。当院では涙道内視鏡検査で涙道疾患の診断、病態解明、治療効果判定を行い、涙道内視鏡手術による治療を行っています。

画像:涙道内視鏡

図2. 涙道内視鏡

2. 涙液クリアランス

涙液は前述のように常時、眼の表面を流れており、涙道疾患診療においては涙液の流れ(涙液クリアランス)を評価することが重要ですが、従来の診察機器では観察が困難でした。当院では前眼部OCTを用いて涙液の断面を撮影し、涙液の高さや面積を経時的に測定することで涙液クリアランスの測定3)を行っています。また、PMMAというコンタクトレンズに使用されている素材を用いた白色微粒子を涙液に投与することで、涙液の流れを可視化することに成功しています4)。

画像:前眼部OCTを用いた涙液の断面図

図3. 前眼部OCTを用いた涙液の断面図

画像:PMMA粒子を用いた涙液の流れの可視化

図4. PMMA粒子を用いた涙液の流れの可視化

3. 視機能評価

涙道疾患に罹患しても、眼科で行われる通常の視力検査では視力低下を認めません。なぜなら、通常の視力検査では日常生活の視機能低下を検出できないためです。現在、日常生活の視機能を評価可能な様々な検査機器が開発されていますが、当院では「アンケート調査」「実用視力検査」を用いて治療効果判定を行っています。

研究業績

  1. 1) Kamao T, Zheng X, Shiraishi A.
    Outcomes of bicanalicular nasal stent inserted by sheath-guided dacryoendoscope in patients with lacrimal passage obstruction: a retrospective observational study BMC Ophthalmology. 2021 Feb 25;21(1):103.
  2. 2) Kamao T, Takahashi N, Zheng X, Shiraishi A.
    Changes of Visual Symptoms and Functions in Patients with and without Dry Eye after Lacrimal Passage Obstruction Treatment.
    Curr Eye Res. 2020 Dec;45(12):1590-1597.
  3. 3) Zheng X, Kamao T, Yamaguchi M, Sakane Y, Goto T, Inoue Y, Shiraishi A, Ohashi Y.
    New method for evaluation of early phase tear clearance by anterior segment optical coherence tomography. Acta Ophthalmol. 2014 Mar;92(2):e105-11.
  4. 4) Yamaguchi M, Ohta K, Shiraishi A, Sakane Y, Zheng X, Kamao T, Yamamoto Y, Inoue Y, Ohashi Y.
    New method for viewing Krehbiel flow by polymethylmethacrylate particles suspended in fluorescein solution Acta Ophthalmol. 2014 Dec;92(8):e676-80.
  5. 5) Kamao T, Yamaguchi M, Kawasaki S, Mizoue S, Shiraishi A, Ohashi Y.
    Screening for dry eye with newly developed ocular surface thermographer.
    Am J Ophthalmol. 2011 May;151(5):782-791.
  6. 6) Nakamura J, Kamao T, Mitani A, Mizuki N, Shiraishi A.
    Comparison of the efficacies of 1.0 and 1.5 mm silicone tubes for the treatment of nasolacrimal duct obstruction.
    Scientific Reports 2022 Jul 11;12(1):11785.
  7. 7) Nakamura J, Kamao T, Mitani A, Mizuki N, Shiraishi A.
    Analysis of Lacrimal Duct Morphology from Cone-Beam Computed Tomography Dacryocystography in a Japanese Population.
    Clin Ophthalmol 2022 Jun 23;16:2057-2067.
  8. 8) Nakamura J, Kamao T, Mitani A, Mizuki N, Shiraishi A.
    Accuracy of the Lacrimal Syringing Test in Relation to Dacryocystography and Dacryoendoscopy.
    Clin Ophthalmol 2023 May 3;17:1277-1285.