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エコー動画集

心筋症について

超音波心エコー検査で心筋症を診る

超音波心エコー検査は心筋症の鑑別診断で非常に重要な非侵襲的検査である。心臓の詳細な形態、血行動態の評価により正確な診断が可能である。また、診断のみならず治療中の経過観察においても中心的な役割を果たしている。

(1)肥大型心筋症(Hypertrophic cardiomyopathy)

肥大型心筋症は左室内圧較差の有無により(1)閉塞性、(2)非閉塞性に分類される。左室内圧較差は簡易ベルヌーイの式(Bernoulli  equation: P= 4V2)によって求められる。閉塞性肥大型心筋症は左室内圧較差を軽減することが第一の治療目標となり、左室内圧較差は(1)負荷状況(Loading condition: 前負荷、後負荷)、 (2)左室サイズ(LV size)、(3)左室心筋収縮能 (Contractility)に依ってdynamicに変動する。

(A) 傍胸骨左縁長軸像 (B mode):僧帽弁前尖の前方運動(SAM:  systolic anterior motion)を認める。SAMは閉塞性肥大型心筋症の重要な所見である。SAMは心室中隔の肥大により狭小化した左室流出路に加速血流が生じ、ベンチュ リー効果(Venturi  effect)により僧帽弁前尖が中隔に引き寄せられて起こると考えられている。

benmaku4(B) Mモード法:僧帽弁前尖の前方運動(SAM: systolic anterior motion)を認める。

benmaku41(C) 連続ドプラ法:左室流出路に加速血流を認め、その流速は3.51m/secであった。簡易ベルヌーイの式より圧較差は4×3.51×3.51= 49.3mmHgと算出された。

(D) 左室後壁に比し心室中隔の著明な心肥大を認める(非対称性心肥大:asymmetric septal hypertrophy; ASH)。僧帽弁前尖の前方運動は明らかではないため、非閉塞性肥大型心筋症と診断した。

(E) 心尖部肥大型心筋症(APH: Apical hypertrophy)の左室二腔断面像を示す。拡張末期では左室内腔はスペード型を示しており、心電図ではgiant negative T waveが特徴的である。本症例は欧米に比し日本で多い。

(2)拡張型心筋症(Dilated cardiomyopathy: DCM)

拡張型心筋症は左室の拡大、左室収縮能低下、壁の菲薄化を特徴とする。治療の目標はいかに血行動態を安定化させ、左室を小さくかつ楕円形 (ellipsoidal)できるかである。左室が大きくなると左室形状は球形(spherical)となり、壁応力(wall stress)が増す。さらには非同期運動(dyssynchrony)が生じ、心不全を発症する可能性が増加する。

(F)拡張型心筋症の心尖部四腔断面像を示す。びまん性に左室収縮能は低下しており、左室形状は正常に比し球形(spherical)である。

(G)完全左脚ブロックを伴う拡張型心筋症の左室短軸像である。収縮期に中隔の二段モーション(septal flash)を認め、視覚的に非同期運動(dyssynchrony)が明らかである。

(H)完全左脚ブロックを伴う拡張型心筋症の左室心尖部四腔断面像である。左室心尖部にapical shuffle(左室心尖部が側方にスウィングする動き)を認め、septal flashと同様に非同期運動(dyssynchrony)の定性的所見である。

(I)完全左脚ブロックを伴う拡張型心筋症に対する心臓再同期療法(CRT: Cardiac resynchronization therapy)施行後の心エコー所見である(左室短軸像)。Septal flashは消失している。
(J)完全左脚ブロックを伴う拡張型心筋症に対する心臓再同期療法(CRT: Cardiac resynchronization therapy)施行後の心エコー所見である(左室心尖部四腔像)。Apical shuffleは消失している。
(K)左室拡大に伴う機能性僧帽弁閉鎖不全例(Functional MR:Functional mitral regurgitation)を示す。左室拡大に伴い前後乳頭筋の距離が離れ、僧帽弁は左室心尖部側に牽引される(LeaflettetheringによるMR, tetheringとは鎖に繋がれたという意味である)。結果として僧帽弁の接合(coaptation)不良をきたし、僧帽弁閉鎖不全を併発する。

 (3)心アミロイドーシス(Cardiac amyloidosis)

心アミロイドーシスはアミロイド蛋白が心筋内に沈着することにより心臓の構造および機能異常をきたす疾患である。左室収縮能低下に比し拡張能は高度に障害されており、左室内圧は容易に上昇する。超音波心エコー検査は形態異常(壁厚増加、左房拡大)のみならず、血行動態の状態を把握する上で非常に重要である。本疾患では左房圧の上昇をきたすことが多いが、左房圧の推定には僧帽弁流入波形(E波、A波、E波減衰時間)と僧帽弁輪速度(e’: イープライム)を同時に測定して導かれた超音波指標(E/e’: イーオーバーイープライム)が有用である。

(L)心アミロイドーシスの傍胸骨長軸像である。左室はびまん性に肥大しており、収縮能のみならず拡張能が高度障害されている印象である。

 (4)心サルコイドーシス(Cardiac sarcoidosis)

サルコイドーシスは乾酪壊死を認めない類上皮細胞肉芽腫が形成される全身性の肉芽腫性疾患であり、同病変が心筋に及ぶと刺激伝導障害(房室ブロック)、心不全、致死的不整脈(心室頻拍など)を発症しその予後は不良である。超音波心エコー検査は本疾患を拾い上げる重要な検査法であり、わずかな異常も見逃さないように留意して検査に望む必要がある。本疾患が確定診断されたら、ステロイドの治療が奏功するため早期治療が可能となり予後の改善が期待できる。

(M)心サルコイドーシスの傍胸骨長軸像である。左室中隔基部は菲薄化しており、本症例を強く疑わせる所見である。

 弁膜症について

超音波心エコー検査で心臓弁膜症を診る

超音波心エコー検査は心臓弁膜症におけるdynamicな血流、血行動態を非侵襲的(non-invasive)に評価可能である。心臓弁膜症の手術の適応を判断するために超音波心エコー所見が最重要であるといっても過言ではない。

(1)僧帽弁狭窄症

(A)傍胸骨左縁長軸像:僧帽弁の開放制限を認める。

(B)(B)僧帽弁口面積測定1:Area trace法;僧帽弁レベル短軸像(拡大図)である。僧帽弁口面積は1.17c㎡と中等度から重度の僧帽弁狭窄症である。

C1(C1)僧帽弁口面積測定2:Pressure half time(PHT)法;僧帽弁流入波形(E波)の減衰時間から僧帽弁口面積をPHT法を用いて算出した。

A. 連続ドプラ法を用いて左室流入血流を記録する。僧帽弁口面積が狭小化するに従いE波の減衰時間が延長する。最大血流速(V1)からV1×1/√2(V2) まで減少する速度までの時間がPHT(pressure half time)に相当する。僧帽弁口面積(MVA)は以下の式で算出される。 MVA= 220 / PHT; *MVA: mitral valve area MVA= 220 / 216= 1.02 c㎡ (C2)B. 僧帽弁狭窄症例の左室-左房圧関係を示す。拡張早期時相における左房と左室との圧較差が最大となる時相(P1)から圧較差が1/2となる時相(P2)までの時間がPHTである。

(2)僧帽弁閉鎖不全症

(D) 傍胸骨左縁長軸像 (B mode):収縮期に僧帽弁後尖を主体に左房側への落ち込んでいる。逸脱した僧帽弁に紐状の構造物がひらひらしており僧帽弁腱索断裂が疑われる。
(E) 傍胸骨左縁長軸像 (color flow imaging):収縮期に高度の僧帽弁逆流を認める。
(F) 三次元経食道心エコー検査(surgeon’s view, 3D transesophageal echo, 3DTEE):(D), (E) 同一例の3DTEE像。Surgeon’s viewとは手術時に外科医が観察するviewである。すなわち、僧帽弁を左房側から観察している。僧帽弁後尖内側(P3)に僧帽弁腱索断裂の所見を認める。

(3)大動脈狭窄症

(G) 傍胸骨左縁長軸像 (B mode):大動脈弁開放制限を認める。
(H) 大動脈弁口面積測定:Area trace法;大動脈弁短軸像(拡大図)である。大動脈弁口面積は0.90c㎡と重度の大動脈弁狭窄症である。
(I) 心尖部左室長軸像から得られた大動脈弁血流波形である。連続ドプラ法で4m/sec以上の加速血流を認め、平均左室-大動脈間圧較差は39.2mmHgであった。以上より重度の大動脈弁狭窄症と診断した。

(4)大動脈閉鎖不全症

(J)  傍胸骨左縁長軸像 (color flow imaging):重度の大動脈弁逆流を認め、左室は遠心性に拡大している。
 (K)心尖部長軸像 (color flow imaging):やや後方に偏位した重度の大動脈弁逆流を認める。(L1,2) 大動脈弁閉鎖不全例では、逆流の重症度をpressure half time(PHT)法を用いて推定できる。重症大動脈弁閉鎖不全例では拡張期における大動脈圧は急激に低下し、それに従い左室拡張末期圧は増加する。高度の大動脈弁閉鎖不全例ではPHTは300ms未満に短縮する。