不整脈

当院でのカテーテルアブレーション

当院では従来の薬物治療や徐脈性不整脈に対する恒久的ペースメーカ治療に加え、2006年より頻脈性不整脈に、2009年から心房細動に対する髙周波エネルギーによるカテーテルアブレーションを開始、2014年から冷凍凝固バルーンを用いた治療も行っております。

また、心臓突然死ハイリスク患者の突然死予防のための植込み型除細動器(ICD)や両室ペーシング機能付き植込み型除細動器(CRTD)植え込み術等の非薬物治療を幅広く行っております。

心臓の刺激伝導路

image21心臓は寝ている間も含め1分間に50-100回規則正しく動き続け、全身に血液を循環させています。その心臓を規則正しく動かしているのは心臓の中に生じる電気です。
その電気は心房の洞結節というところで最初の電気刺激が発生し、心房を興奮させた後に、房室結節を通り、心室に伝わります。

 

 

 

徐脈性不整脈とは?

徐脈とは、普通の状態に比べて脈の数が足りなかったり、あるいは急に脈が止まってしまったりする状態にあります。そのため、失神やふらつき、息切れ、めまい、だるさなどの症状を生じます。これは、心臓の中の脈を形成する部分(洞結節)や脈を伝える部分(房室結節)などに障害があるためにおきています。 このような障害により日常生活を支障を来す症状を有した場合にペースメーカー治療を行います。

<ペースメーカーについて>

ペースメーカーとは、あなたのご病気によって、足りなくなった脈をおぎない、あなたの心臓の働きを 本来の状態に戻すために行われる治療です。

ペースメーカーは心臓に脈を伝えるための電線(リード)の部分と機械を動かすための電池の部分からできており、外科手術で皮下ポケットを設けて鎖骨の下あたりに留置します。やせた人では、機械の膨らみが分かりますが、やや小太りの方ではほとんど分からないぐらいの大きさです。 鎖骨にある静脈を通して、リードを心臓内に留置します。

近年、 経カテーテルペーシングシステムが一部の患者さんで使用可能となり、従来のペースメーカと異なり、このような皮下ポケットもリードも不要なため、それらに関連した合併症のおそれがありません。また、外科手術による胸部の傷もなく、外からは装置のふくらみもないため、患者さんが外観上判別できず、装置を意識することなく生活できるようになりました。

頻脈性不整脈とは?

心臓はリズミカルに規則正しく拍動していますが、頻拍症になると、本来の脈とは異なる頻拍(毎分100心拍以上)になります。原因となる心臓の病気がある方と、明らかな原因を見出せない方があります。主な症状としては、動悸を感じたり、気が遠くなったり、めまいがすることがあるため、きちんと検査をして、病気にあった治療法を選択せねばなりません。この頻拍症に対する治療法は、大きく2つの方法があります。

1.薬物治療:

薬を用いて、発作を予防したり、あるいは生じた発作を止める方法です。比較的手軽にできますが、病気を抑えるだけで、病気が完全に治ってしまう(なくなってしまう)と言うわけではありませんし、副作用の心配もあります。

2.アブレーション治療

以前は外科的手術を行い、胸を大きくあけて実際に心臓をみながら治療していましたが、最近は胸を切ることなく、細い管(カテーテル)を体の中に入れて不整脈を治すことができるようになりました。簡単なことではありませんが、技術の進歩に伴い、比較的安全に、苦痛も少なく行えるようになってきました。

カテーテルアブレーションとは?

不整脈の原因となる部位に、治療用のカテーテルを血管から心臓内に持っていきます。治療は電気(高周波)を使って、約1分間カテーテルの先の部分を摂氏50-60度程度に上げ、心臓の一部にやけどを起こさせることで行います。治療の影響が及ぶ範囲はカテーテルの先端から半径3~5mm程度の小さな範囲です。

カテーテルアブレーションは、他院から紹介して頂く患者様が増加していることもありコンスタントに症例数を伸ばしています。

特に発作性上室性頻拍、心房頻拍、特発性心室頻拍等の頻脈性不整脈の根治術として積極的に施行し高い成功率を残していますが、器質的心疾患を有する心室頻拍等においても施行し効果が得られています。

 

心房細動とは?

心房細動とは?通常、心房は1分間に50-90回規則正しく収縮していますが、心房細動は心房内に高頻度(1分間に400回以上)かつ無秩序な興奮が生じることにより、心房自体がふるえている状態、つまり収縮していない状態です。心房収縮の消失により心機能低下(心拍出量の25%低下)が生じ、心不全を引き起こす可能性があります(健常人の10倍の発症率)。心房が収縮できなくなるために心臓内の血流がよどみ、特に左心耳といわれる部分に血栓が形成され、その血栓が心臓から全身へ流れて行くことにより全身性塞栓症(脳梗塞、心筋梗塞、腎梗塞など)を生じ得ることが問題となります(健常人の5-10倍の発症率)。

 

心房細動の種類について

  • 発作性・・・心房細動が自然停止するもの
  • 持続性・・・自然停止しないが何らかの処置により停止(除細動)可能なもの
  • 永続性・・・除細動が不可能なもの

心房細動の治療は?

発作性または持続性には抗不整脈薬により発作を抑える調律のコントロールを行い、永続性心房細動の場合には、心拍数が速い場合において脈拍数を低下させる心拍数のコントロールを行うこととなります。
いずれの場合でも、塞栓症のハイリスクと思われる場合には薬物による抗凝固療法を併用することが現在の標準的な治療となっています。
近年、抗不整脈薬が無効であり、かつ発作時の症状が強いために調律コントロールにて洞調律(正常な脈拍)を維持したい場合では、カテーテルアブレーションによる治療が行われるようになりました。.

カテーテル治療(カテーテルアブレーション)について

カテーテルアブレーション

心房は左房と右房に分かれていますが、左房は左右2本ずつの肺静脈を介して肺からの血流を受けていますが、発作性心房細動の80-90%でこの肺静脈から起こる、期外収縮と言われる別の不整脈が心房細動発症に先行することが分かっています。

 

 

カテーテルアブレーション

この治療は、血管、心臓の中に管を通して、心筋、刺激伝導系の一部に高周波焼灼もしくは冷凍凝固を加え、心臓の一部にやけどを起こさせることで行います。

心房細動においては、肺静脈周囲を焼灼し、左心房と肺静脈を隔離することにより期外収縮が左心房に入ってこさせないこと を目標とします。

 

アブレーション初回のアブレーションにおいて、ほぼ100%で肺静脈の隔離に成功しますが、約20-30%の確率で心房細動が再発します。時間とともに左心房と肺静脈の 電気的交通が回復することと、心房細動のきっかけとなる期外収縮が肺静脈以外から出ている場合などがその主な原因であり、再発が見られた場合でも2回目の アブレーションを行うと、約90%の確率で洞調律を維持することができます。

 

当院では、2009年より心房細動に対するカテーテルアブレーションを開始しております。
心房細動アブレーションにおいて有名な横須賀共済病院より桑原大志先生に技術協力していただき治療を行っております。

入院スケジュール

入院期間はおおよそ3泊4日を予定しています。

1日目

術前検査として心電図、胸部単純写真、心臓超音波検査、経食道エコー検査、造影CT検査、ホルター心電図  など必要に応じて施行していきます。

2日目(手術当日)

手術時間は発作性の方で3-4時間を予定しています。持続性の場合には発作性よりも時間がかかるばあいもあります。手術中は静脈麻酔薬で眠っていただきます。この検査後の安静は、カテーテルを入れる場所、太さによって異なりますが、完全に止血できるまでに4~7時間程度必要です。

3,4日目

血栓症を防ぐために、治療後にヘパリンの注射を行うことがあります
治療後の内服薬については、担当医から説明させていただきます。

費用について

おおよそ初期費用が約150万円かかりますので、3割負担の方であれば約50万円となります。
高額療養費の還付を使用すれば10万円前後となります(所得額により異なります)。

高額療養費(高額医療費の還付)について

“手術”や“入院”は医療費の自己負担が高額になります。この負担を軽減できるように『自己負担限度額』を超えた部分が払い戻される還付制度があります。
※ただし、保険適用外の治療や入院時の食事療養費、入院時生活療養費は対象外です。

合併症について

  1. 脳梗塞(0.28-2.8%):術前に血栓が証明されなくてもアブレーション中や術後にも脳梗塞等の全身性の塞栓症が起こることがあります。この予防のため術中はヘパリンという抗凝固薬を十分量使用しております。
  2. 心タンポナーデ(0.19-0.6%):カテーテル操作や焼灼の直接的な影響により、心臓に穴があいてしまい心臓外に出血しショックを来たすことがありま す。この場合にはみぞおちから血液を抜く管を挿入しますが、出血を止めるために心臓外科医による開心術が必要となることがあります。
  3. 食道迷走神経障害(0.24-1.1%)、左房食道瘻 (-0.05%):食道は左心房の後面に接しています。そのため、左心房後壁への焼灼熱による効果が食道や周囲の神経に影響を与え、神経障害により食道・ 胃の運動障害が生じ、胃部不快感などの消化管症状を訴えることがあります。特に左房食道瘻は左心房と食道の間に交通が生じることにより、死亡する場合があ り、これらに対する対策が必要となります。当院では食道内に温度センサーを挿入することにより食道温度をモニタリングするという方法を用いています(横須 賀共済病院 桑原先生より報告)。
  4. 横隔膜麻痺(0.36-0.48%):横隔膜は肺に空気を取り入れる時に必要な筋肉ですが、これらを支配する神経が焼灼する部位の近くを走っていることが あり、焼灼の効果により横隔膜が動かなくなります。ほとんどの方は無症状で、自然に良くなりますが、持続する方もいます。対策としては、電気刺激を行い、 これらの神経の走行を確認しています。
  5. その他:出血、アレルギー、血気胸、深部静脈血栓症、肺動脈血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)等があります。

これらのような手技に伴う合併症が全体の約5%で起こると報告されています。
万が一このような合併症が起こった場合は、緊急でそれぞれに応じた治療を行わせて頂きます。

植え込み型除細動器

あなたのご病気(心室頻拍・心室細動)は不整脈の発作が生じたときに、直接生命に危険がある病気です。こういった病気を致死的不整脈と呼びますが、この不整脈が生じたときには、すぐに不整脈を止めないと血圧が下がり、気を失い(失神)そのまま命を無くしてしまう危険があります。病院や救急隊ではこういった時には”電気ショック”と呼ばれる器械を用いて直ちに体の外から不整脈を止めることもできますが、退院されたあとでは不整脈が起こり倒れてから、救急車が駆けつけるまでに手遅れになることがあり得ます。

 このような場合、もし不整脈が生じても、その場で自動的に電気ショックを行い、不整脈を止めることのできる器械が植込み型除細動器(ICD)です。 今回の入院で、不整脈に対して薬やカテーテル治療、あるいは手術による治療が検討されましたが、いずれもあなたのご病気に対しては充分な治療とはいえません。現在の状態では、依然として不整脈の発作が生じる危険があり、生命に関わる可能性があります。今まで知られている使用成績では、ICDと薬剤による治療と比較すると、ICD治療は明らかに不整脈による死亡率を低下させることができます。ICDは24時間、常にあなたの脈拍数を感知しており、不整脈が生じた際には、95%以上の確率で数十秒から数分以内に停止させることができます。

この治療法は、不整脈の発生を予防したり、根本的に治してしまう治療法ではありませんので、今後も不整脈が出現し、失神を生じる可能性があります。ですから、ICDの治療を行った後にも、各種の運動や生活の制限をしたり、あるいは長期にわたって薬物治療を継続していただくこともあります。また器械の定期的な点検は必要ですし、生活上制限をうけることもあります。電池により機能しているため、電池寿命がきたら入院して交換手術を行う必要もあります。しかし、あなたの生命を守るという意味では、ICDによる治療が最前の方法と我々は考えています。

心臓再同期療法(CRT)とは?

慢性心不全とは、心臓のポンプ機能が低下し、心臓が送り出す血液の量が少なくなることにより呼吸困難などの症状が現れ、日常生活が困難になる状態をいいます。心筋梗塞、虚血性心疾患、弁膜症、拡張型心筋症など様々な心臓病が最終的にたどりつく病態です。これまでは慢性心不全に対しては薬物による治療が中心でした。心臓のポンプ機能を高める薬、体内の余分な水分を排泄したり、血管を広げることにより心臓の負担を軽くする薬、心臓の負担を軽減し心臓を守る薬、また心筋を守り、突然死や心不全の悪化を予防し心機能や血液の循環効率を向上させる薬などがあります。これらの薬物治療にも抵抗する難治性慢性心不全を引き起こす原因のひとつに、左右の心室全体が同時に収縮しないため、血液が効率よく送りだせなくなる「心室同期障害」という状態があります。このような状態がある場合は、心室の遅れて収縮する部分にペースメーカーで電気刺激を送り、左右の心室を同時に収縮させて(再同期)、心臓のポンプ機能を改善する治療が行われております。それが、「心臓再同期療法(CRT)」です。

心臓再同期療法を受けた場合、息切れや動悸などの心不全症状の改善、体を動かしたときのつらさの改善(運動耐容の改善)、生活の質(クオリティ・オブ・ライフ:QOL)の向上や生命予後の改善も期待できます。いくつかの大規模臨床試験によって心臓再同期療法は慢性心不全患者の約7割の患者に有効ですが、約3割の方には無効であることが分かっています。しかし、心臓再同期療法の適応がある患者さん(軽い作業をしただけで心不全による症状が出現し、心臓のポンプ機能が低下し、心室同期障害が存在する患者さん)の中この治療がどの患者に有効で、どの患者に無効かは現在のところ解明されていません。                                 

 

 

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