エコー
超音波心エコー検査は安全で繰り返し施行可能な非侵襲的検査法でありmobile性を追求したポータブル心エコーから冠動脈血流評価に至るまで幅広い臨床応用が可能です。前者は岡山循環器部長の循環器回診時にベッドサイドで心機能をチェックしたりします。
また重篤な患者様の緊急心エコー等に活躍しています。 循環器内科診療は特に緊急症例において的確な診断のもと迅速に治療のストラテジーを決定する必要があります。虚血性心疾患における超音波心エコー検査の役 割は重要です。急性冠症候群例では責任冠動脈病変の推定と血行動態の把握ならびにその他の疾患(肺血栓塞栓症、大動脈解離など)の除外診断に超音波心エ コー検査は必須です。さらに詳細な評価法として、経胸壁ドプラ心エコー検査を用いた冠動脈血流の検出が挙げられます。大動脈左冠尖左側に冠動脈加速血流が 確認されれば、左冠動脈近位部にハイリスク病変が存在する可能性があり、可能な限り冠動脈造影前にチェックしています。
左前下行枝近位部モザイク血流を認める |
冠動脈造影: 左主幹部に90%狭窄を認める |
また急性心筋梗塞例では、冠動脈遠位部血流波形
( 左前下行枝遠位部血流)
と2D speckle tracking法を用いて心筋障害の重症度の評価を行い、将来の左室リモデリング進展の推測に役立てています。
前壁中隔心筋梗塞例の心尖部四腔断面像 |
2D speckle tracking像 |
一方安定した症例では視覚的評価に留まらず客観的(定量的)評価を行うように心がけています。 例えば僧帽弁閉鎖不全の重症度評価にはvolumetric法 あるいはPISA法を、大動脈弁閉鎖不全症にはpressure half time法を評価し、視覚的評価の裏付けを行うよう努めています。このことは的確な手術適応を決定する上で重要と考えています。また種々の心筋疾患に対して超音波心エコー検査は有用です。 代表的な心筋疾患には、拡張型心筋症、肥大型心筋症、心サルコイドー シス、心アミロイドーシスなどが挙げられます。
拡張型心筋症 | 肥大型心筋症 |
左室の全周性壁運動低下を認める。心尖部四腔断面像 | 心室中隔から心尖部にかけて心肥大が著明である。 |
心サルコイドーシス | 心アミロイドーシス |
心室中隔基部の非薄化を認める | 心室中隔基部の非薄化を認める。左室は全周性に肥大している |
その中で左脚ブロックを伴う拡張型心筋症例では高率に左室の非同期運動(dyssynchrony)が認められ、心不全の非薬物療法である心臓再同期療法 (CRT: cadiac resynchronization therapy)が有効です。心臓再同期療法は心不全症例に有効ですが、術前に左室の非同期運動が明らかではない例では治療が奏功しない可能性があると言 われています。 この左室非同期運動の評価にはspeckle tracking法が有用です。
左室非同期運動を伴う拡張型心筋症例の左室短軸像 |
同症例のspeckle tracking像: 左室中隔と側壁の間に収縮のタイミングのずれを認める。 我々は心臓再同期療法の術前に左室非同期運動の視覚的評価(eyeball dyssynchrony)のみならず、組織ドプラ法やspeckle tracking法を用いて定量的評価を行い、治療効果が最大限上げられるよう努めています。さらに近年三次元心エコー法(3D echocardiography)の発展が目覚ましく、将来の超音波心エコー検査を大きく変える可能性があります。これまでの二次元心エコー検査で表現することが出来なかったsurgeon viewや右心系の空間的な観察などが可能となり、心エコー検査の死角が取り払われようとしています。
僧帽弁後尖P3腱索断裂例のsurgeon view; 外科医が手術時に観察するviewである
超音波心エコー検査の大きな特徴は循環器診療の診断から将来の予測まで幅広く貢献できることです。また日常臨床におけるさまざまな疑問を超音波心エコーか らヒントを得ることが出来ます。我々エコーチームは超音波心エコー図をあらゆる角度から切り込むことにより心臓の病態の理解・知識を深め、循環器診療に貢 献できるよう努力していきたいと思います。