ノルウェーオスロ大学留学記
井上勝次先生よりノルウェー・オスロ大学留学記を頂きました。
私はこれまで心エコーから知る循環生理学を軸に研究を行ってまいりました.尊敬するオスロ大学Otto Smiseth教授の指導いただきたいという願いが叶い,2018年6月から一年間,ノルウェーオスロ大学へ留学させていただきました.オスロの北に位置するMidstuenという場所(Midstuenの二駅北には世界的に有名なHolmenkollenスキージャンプ場があります)でノルウェーのご家族のアパートをお借りして北欧での生活を始めました.オスロへ移住した当初は言語と文化の違いでいろいろな苦労がありましたが,温かいノルウェーのご家族に助けられ,そしてOtto先生,同僚の先生達に多大なご配慮をいただき研究をスムーズに始めることができました.
研究のテーマは,左房ストレインを用いた左室充満圧(=左房圧)評価法の提案でした.Otto先生の研究スケールは大きく,本研究はオスロ大学,Methodist DeBakey Heart and Vascular CenterのSherif F. Nagueh先生,Cleveland ClinicのAllan L. Klein先生,スペインHospital Universitario Puerta de Hierro MajadahondaのEusebio García-Izquierdo先生,Yonsei universityのJong-Won Ha先生,名古屋市立大学の大手信之先生,菊池祥平先生とのmulticontinental, multicenter, multivendor studyとして計画されました.共著者の先生方の快諾を得,研究のプロポーザル作成,エコーの取得・解析,データ収集,統計解析を行いました.
心不全患者では左室駆出分画のいかんに関わらず左室拡張障害の影響を受け左房は大きくなります.2016年左室拡張機能評価ガイドライン(本ガイドラインのリーダーはE/e’を提唱した著名な先生で今回の多施設研究の共同研究者であるSherif F. Nagueh先生とOtto Smiseth先生です)では左房容量係数が34ml/m2以上を左房拡大ありと定義しており,左房拡大は左室充満圧上昇を示唆する所見と述べられています.それでは左室充満圧の推定に左房機能の指標である左房ストレインは使えないだろうかという問いが本研究の仮説です.Otto先生は現在のガイドラインをより良くしたい,そしてより良くするだけではなくサイエンスを良くしたいといつも私に話していただきました.研究はただ単なる結果解析に終わらず,その背景にある循環生理学を考える,そして臨床に貢献するという主旨でした.
ノルウェーでの留学期間は一年間と限られていましたが,多施設研究の解析,議論を終え,帰国の日を迎えました.オスロ大学で開催していただいた送別会ではOtto先生,同僚の先生達,そしてノルウェーへの感謝でスピーチの際に涙が止まりませんでした.ノルウェーの同僚から日本人はshyだと言っていましたが,その一方で研究はstrongだと最高の褒め言葉を言ってくれました.
帰国後はOtto先生,仲間と何度も何度も議論し,論文が完成しました.そして2020年12月15日にOtto先生から嬉しい一通のメールをいただきました.
Our left atrial strain article is now accepted in the European Heart Journal – Cardiovascular Imaging. Thank you for your great contributions!
Best regards
Otto
この場を借りして留学中に愛媛大学の循環器診療をサポートいただいた山口教授,循環器グループの先生方にあらためて感謝申し上げます.コロナ感染の収束が見通せない中,海外留学が困難な状況になっている現状を心配しております.若い先生方に留学の道が拡がるよう近い将来には現在の状況が改善,解決されることを強く願っております.その際には今回いただいた経験を若い先生にお伝えしたいと思っております.今後とも宜しくお願いします.
写真:オスロ大学Rikshospitalet, リーセフィヨルド
井上勝次