抄読会要約まとめのご報告(第一回目)
2011年7月13日 2:31 PM
第三内科で行われた抄読会の内容要約を週1回、同門メールにて現在までお知らせしてまいりました。第三内科ホームページ上でも抄読会内容を確認したいという希望がありましたので、定期的に今後更新してまいります。
第一回目報告をさせていただきます。
抄読者 | 渡辺崇夫 |
論文名 | Use of Aspirin or Nonsteroidal Anti-inflammatory Drugs Increases Risk for Diverticulitis and Diverticular Bleeding |
著者 | Lisa L. Strate et al |
reference | Gastroenterology 2011; 140: 1427-1433 |
サマリー | |
NSAIDS使用に伴う重篤な消化管関連の合併症のうち、30-50%が下部消化管に関わるものであることが報告されており、そのうち憩室炎、憩室出血は多くをしめていることが予想される。しかし、正確な頻度などは不明であるのが現状である。 そこで今回の研究は40歳から75歳までのUSAの男性47210人を22年間観察した、前向きコホート研究である。憩室炎、またはそれに伴う憩室出血をend pointとし、NSAIDSまたはアスピリンの使用は使用頻度、使用量まで調査された。 これらはすべて隔年で行なわれる質問形式で行なわれた。正確な情報をとるため対象はすべて、歯科医、獣医、薬剤師などの医療関係者である。 【結果】 22年の観察で939例の憩室炎、256例の憩室出血が発症。週2回以上アスピリンを使用する常習使用者は使用しない者に比べ、HR1.25、95%CI 1.05-1.47で有意に高い発症であった。またその使用量、使用頻度別で解析すると憩室出血の頻度はそれぞれ、2-5.9T(325mg錠)/week、4-6日/weekで最多であり、HRはそれぞれ2.32、3.13であった。 NSAIDSのみ使用している者でも同様な結果であった。 |
抄読者 | 黒田 太良 |
論文名 | Serum bilirubin and risk of respiratory disease and death |
著者 | Horsfall LJ,Rait G,Walters K,et al. |
reference | JAMA 2011;305(7):691-697 |
サマリー | |
ビリルビンには抗酸化作用や抗炎症作用,増殖抑制効果などの蛋白保護作用があることが示唆されている。著者 らは全科に訪れた700万人以上を登録したUnited Kingdom Health Improvement Networkから得られたデ ータを解析した。このデータベースには診断、介入、症状、紹介、処方、健康状態の変化に関する情報が含まれていた。20歳以上で少なくとも1回はCBC、肝機能検査と共に総ビリルビンを測定した患者504306人を対象とし、肝機能異常、BC異常、溶血性疾患や肝胆道系疾患の既住がある患者は除外された。組み入れられた患者はこの研究の仮説について知らされていなかった。COPD、肺癌、死亡に関する多変量解析が行われた。90%以上の患者に対して20年(中央値8年)以上の追跡が行われた。ビリルビンの中央値は男性で0.64mg/dl、女性で0.53mg/dlであった。ビリルビン値が0.1mg/dl上昇する毎に、肺癌患者の割合が男性で8%、女性で11%減少した。同様に、ビリルビン値が0.1mg/dl上昇する毎に、COPDのリスクが男女共に6%、あらゆる原因による死亡のリスクが男女共に3%、減少した。これらの減少は、併存疾患、処方、局所の汚染レベル、脂質レベル、喫煙の調整を行っても有意であった。 |
抄読者 | 上杉和寛 |
論文名 | Metabolic syndrome increases the risk of primary liver cancer in the United States: a population-based case-control study |
著者 | Tania M. Welzel, Barry I. Graubard, Stefan Zeuzem, et al |
reference | Hepatology. 2011 Apr |
サマリー | |
米国で肝細胞癌(HCC)と肝内胆管癌(ICC)の発症率は増加している。一方、メタボリックシンドロームはHCCの危険因子と認められているがICCの危険因子である可能性がある。しかしながら集団レベルでの調査は今までされていない。著者らは一般集団でメタボリックシンドロームと原発肝癌の発現の関係を調査した。対象は1993年から2005年の間でHCC、ICCと診断された人を”SEER-Medicare database”で特定した。コントロールとして同地域に住んでいる人を選択した。メタボリックシンドロームの判定基準は”US National Cholesterol Education Program Adult Treatment Panel III criteria”を使用した。結果、HCC症例3649人、ICC症例743人、コントロール195953人で検討を行った。メタボリックシンドロームはHCC(37.1%)ICC(29.7%)と、コントロール(17.1%)と比較して高頻度に見られた。ロジスティック回帰分析でメタボリックシンドロームはHCCおよびICCのリスク増加に関係していた。HCC (OR=2.13; 95%CI=1.96-2.31,p<0.0001)、ICC (OR=1.56; 95% CI= 1.32-1.83, p<0.0001)
【結論】 一般の米集団において、メタボリックシンドロームは、HCCとICCの発現の有意な危険因子である。 |
抄読者 | 小泉光仁 |
論文名 | FOLFIRINOX versus Gemcitabine for Metastatic Pancreatic Cancer |
著者 | Fouchardière C et al |
reference | N Engl J Med 2011; 364: 1871-25 |
サマリー | |
【背景】
転移性膵癌患者に対する第一選択治療としてのFOLFIRINOXの有効性と安全性を、ゲムシタビンと比較したデータはない。 【方法】 PS: 0 または 1 の患者 342 例を、FOLFIRINOX 群(2 週間ごとに,オキサリプラチン 85 mg/m2 体表面積、イリノテカン 180 mg/m2、ロイコボリン 400 mg/m2 を点滴静注し、フルオロウラシルは 400 mg/m2 をボーラス投与後 2,400 mg/m2 を 46 時間持続点滴静注)と、ゲムシタビン群(1,000 mg/m2 週 1 回を 8 週間中 7 週間投与し、その後 4 週間中 3 週間投与)のいずれかに無作為に割り付けた。両群とも、反応がみられた患者に対しては 6 ヵ月間の化学療法を推奨した。主要エンドポイントは全生存期間とした。 【結果】 全生存期間中央値は、FOLFIRINOX 群では 11.1 ヵ月であったのに対し、ゲムシタビン群では 6.8 ヵ月であった。客観的奏効率は、FOLFIRINOX 群では 31.6%であったのに対し、ゲムシタビン群では 9.4%であった。有害事象は FOLFIRINOX 群のほうが多く、この群の 5.4%で発熱性好中球減少症がみられた。 【結論】 FOLFIRINOX は、全身状態の良好な転移性膵癌患者に対する治療選択肢の一つとなりうる。 |
抄読者 | 檜垣直幸 |
論文名 | Low-Dose Aspirin Use and Performance of Immunochemical Fecal Occult Blood |
著者 | TestsHermann Brenner et al |
reference | JAMA. 2010;304(22):2513-2520 |
サマリー | |
対象は大腸癌検診受診者1979人。低用量アスピリン服用と2種類の免疫化学的便潜血検査の成績との関連を検討した。進行大腸癌の検出感度は、2種類の検査とも服用群が非服用群に比べて有意に高く(70.8%対35.9%、58.3%対32.0%)、特異度はやや低かった(85.7%対89.2%、85.7%対91.1%)。
【結論】 大腸癌のスクリーニングに使われる免疫化学的便潜血検査の大腸癌検出能力が、低用量アスピリン使用者では有意に高くなった。 |
抄読者 | 森健一郎 |
論文名 | The impact of suboptimal bowel preparation on adenoma miss rates and the factors associated with early repeat colonoscopy |
著者 | Lebwohl B, Kastrinos F, Glick M, Rosenbaum AJ, Wang T, Neugut AI |
reference | Gastrointest Endosc. 2011 Apr 7 |
サマリー | |
【背景及び目的】
前処置不良例は全下部消化管内視鏡検査の約20%を占めているが、次回いつフォローすべきかはアメリカのガイドラインには示されていない。今までの6つの論文では前処置良好例でのadenoma miss rateはtotalで22%(15~32%)、10mm以上の腺腫では2%(1~8%)という報告がある。今回この論文では前処置不良例でどのくらいの病変が見逃されているのかをretrospectiveに検討している。 【方法、対象及び結果】 前処置の状態については4段階(excellent、good、fair、poor)で評価し、fairとpoorを前処置不良と定義。対象は2006年3月から2008年12月にColumbia University Medical CenterでCSを施行された12787例でそのうち3047例(24%)が前処置不良であった。そのうち3年以内に再検されたのが505例で、その中で両方の検査でtotal colonoscopyが出来ていて、最初の検査時にポリープがなかったか、あってもすべてポリペクをした216例を対象にadenoma miss rateを算出している。再検で腺腫がみつかったひとは216例中55例(25%)で、全体のAdenoma miss rateは42%(adenomaの数)で、advanced adenoma(10mm以上か絨毛腺腫、高度異型腺腫)miss rateは27%であった。 【結論】 前処置不良例では腺腫の見逃しが多いので、そのような症例ではより早期の再検を義務づける必要がある。 |
抄読者 | 布井弘明 |
論文名 | Is There an Increased Risk of GERD After Helicobacter pylori Eradication?:A Meta-Analysis |
著者 | Mohammad Yaghoobi |
reference | The American Journal of GASTROENTEROLOGY |
サマリー | |
HP除菌が一部の患者で胃食道逆流症(GERD)のリスクについて2010年にmeta-analysisの結果が発表された。文献検索は、1983年から2007年2月までのもので、除菌群対非除菌群をベースラインに、元来非GERD患者のGERDの有病率を比較している無作為対照化試験(RCT)とコホート研究で行われている。271文献のうち12(7件のRCTと5つのコホート)が該当した。除菌群と非除菌群のGERDの頻度は内視鏡による評価や、症状による評価ともに両群間で有意差はみられなかった。HP除菌後にGERDを新規発症するリスクは、除菌群と非除菌群で有意差がないことが確認され、GERDが除菌を躊躇する理由にならない可能性が示唆された。 |
抄読者 | 石原暢 |
論文名 | Hepatocellular Adenomas:Accuracy of Magnetic Resonance Imaging and Liver Biopsy in Subtype Calssification |
著者 | Ronot M, Bahrami S, Calderaro J, Valla DC, Bedossa P, Belghti J, Vilgrain V, Paradis V |
reference | Hepatology 2011;53:1182-1191 |
サマリー | |
肝細胞腺腫はその成長過程によっていくつかの遺伝型/表現型に分けられ、治療方針が異なる。それゆえ、患者のサブタイプを知ることは治療を行う上で臨床的に重要なことである。MRIは最も有用な画像診断法であり、肝生検も重要な診断である。今回の研究ではMRIと肝生検の診断能力を評価し、観察者間での診断能に変動がないかをしらべた。47名の肝細胞腺腫の手術患者にMRIと肝生検を事前に行った。MRIの検査結果は2人の放射線科医がお互いにBlind状態で診断を行った。肝生検のサブタイプは形態を中心とし、臨床的、生化学的、画像的、最終診断結果においてBlind状態で診断を行なった。
最終的なHCAサブタイプは外科切片によって決定した。 結果としてMRIでは85%で正確な診断がつき、相互κ相関係数は0.86であった。 組織生検では76.6%で正確な診断がつき、免疫学的マーカー診断が可能であった際には81.6%の診断が得られた。MRIと組織生検は74.5%で一致し、診断の尤度は20以上であった。 MRIや組織生検はHCAのサブタイプをしるうえで有用な検査であり、両者を組み合わせることで診断の精度がさらに上がることが分かった。 また、MRIの観察者間での変動はとても低かった。 |