抄読会要約まとめのご報告(第7回目)
2011年12月7日 10:40 AM
第三内科で行われた抄読会の内容要約を週1回、同門メールにて現在までお知らせしてまいりました。第三内科ホームページ上でも抄読会内容を確認したいという希望がありましたので、定期的に今後更新してまいります。
第7回目報告をさせていただきます。
[過去抄読会要約のURLリンク]
平成23年 5月
抄読者 | 小泉 光仁 |
論文名 | Treatment-Related Mortality With Bevacizumab in Cancer Patients.:A Meta-analysis. |
著者 | Ranpura V, Hapani S, Wu S. |
reference | JAMA. 2011 Feb;305(5):487-94. |
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【背景、目的】
Bevacizumabは血管内皮細胞増殖因子Vascular endothelial grouwth factor(VEGF)に対するモノクローナル抗体で、VEGFの働きを阻害することにより、血管新生を抑えたり腫瘍の増殖や転移を抑えたりする作用を持つ分子標的治療薬である。日本では2007年4月に「治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌」の治療薬として製造販売承認されている。このreviewではBevacizumab併用化学療法における治療関連死とBevacizumabの関連を明らかにする。 【方法】 randamized controlled trial 16個を対象に治療関連死についてmeta-analysisを行った。 【結果】 対象は10217人(bevacizumab 5608: chemotherapy alone 4609)となり、bevacizumab群で2.9%(95%CI, 2.0-4.2)、chemotherapy alone群で2.2%(95%CI, 1.4-3.2%)に治療関連死がみられ、相対危険度は1.33(95%CI, 1.02-1.73)であった。出血、白血球減少、消化管穿孔が治療関連死の原因として多かった。 【結論】 Bevacizumab併用化学療法は化学療法単独と比較し、治療関連死の発生率を増加させる。 |
抄読者 | 渡辺 崇夫 |
論文名 | Genetic Variation in the Interleukin-28B Gene Is Not Associated With Fibrosis Progression in Patients With Chronic Hepatitis C and Known Date of Infection |
著者 | Marabita F, Aghemo A, De Nicola S, Rumi MG, Cheroni C, Scavelli R, Crimi M, Soffredini R, Abrignani S, De Francesco R, Colombo M |
reference | Hepatology. 2011 Oct;54(4):1127-34. |
サマリー | |
【背景】
C型慢性肝炎について、IL28BのpolymorphismがIFN治療効果の強力な予測因子であることが明らかとなっている。しかしC型肝炎に対する予後、つまり線維化の進行に対する予測因子となるかどうかは不明である。 【方法】 対象となる患者は2008年から2010年までに著者らの施設を受診したC型肝炎患者247名。IL28BのSNP(rs8099917、rs12979860)、HCVに感染した年齢(問診)、性、HCV genotype、脂肪肝の有無、肝炎の活動性、BMIの各因子を投入して、高度線維化の有無に対する予測因子を多変量解析を用いて検討した。 【結果】 感染した年齢、性、HCV genotype、脂肪肝の有無が高度線維化に対する独立した予測因子として抽出されたが、IL28BのSNPはrs8099917、rs12979860のどちらも抽出されなかった。 【結論】 IL28 Bのpolymorphismは肝の線維化の進行とは関係がない。 |
抄読者 | 畔元 信明 |
論文名 | Body-mass index and cancer mortality in the Asia-Pacific Cohort Studies Collaboration: pooled analyses of 424,519 participants. |
著者 | Parr CL, Batty GD, Lam TH, Barzi F, Fang X, Ho SC, Jee SH, Ansary-Moghaddam A, Jamrozik K, Ueshima H, Woodward M, Huxley RR; Asia-Pacific Cohort Studies Collaboration. |
reference | Lancet Oncol. 2010 Aug;11(8):741-52. Epub 2010 Jun 30 |
サマリー | |
【背景】
過体重が癌の危険因子であることはいつくか知られているが、アジアにおけるデータはほとんどない。 【方法】 Parr CLらは成人BMIと癌による死亡率を、アジアとオーストラリア、ニュージーランドの424519例を対象として比較した。 【結果】 癌による死亡率はBMI18.5-24.9のnormal群にくらべてBMI30以上のObese群では、癌全体では1.21倍(他の因子による影響が強いと考えられる肺癌や咽喉頭癌は除く)、大腸癌では1.5倍、直腸癌では1.68倍、60歳以上の女性の乳癌では1.63倍、卵巣癌では2.62倍、子宮頸癌では4.21倍、前立腺癌では1.45倍、白血病では1.66倍と有意に高かった。 【結論】 過体重、肥満はアジア地域においても癌による死亡率を増加させる。体重のコントロールが癌による死亡率を下げるために必要である。 |
抄読者 | 上田 晃久 |
論文名 | Body-mass index and mortality among 1.46 million white adults. |
著者 | Berrington de Gonzalez A, Hartge P, Cerhan JR, Flint AJ, Hannan L, MacInnis RJ, Moore SC, Tobias GS, Anton-Culver H, Freeman LB, Beeson WL, Clipp SL, English DR, Folsom AR, Freedman DM, Giles G, Hakansson N, Henderson KD, Hoffman-Bolton J, Hoppin JA, Koenig KL, Lee IM, Linet MS, Park Y, Pocobelli G, Schatzkin A, Sesso HD, Weiderpass E, Willcox BJ, Wolk A, Zeleniuch-Jacquotte A, Willett WC, Thun MJ. |
reference | N Engl J Med. 2010 Dec 2;363(23):2211-9. Erratum in: N Engl J Med. 2011 Sep 1;365(9):869. |
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【背景】
BMIは心血管疾患・一定の癌からの死亡率と関連するとされる。しかしBMIとあらゆる死因との関係性はいまだ不確定である。 2009年のLancetにBMIと心血管イベントの関連性の報告(90万人対象)がる。BMI22.5-25が危険性は少ないとの結果であったが、喫煙者・担癌症例が対象の中に含まれており、今回喫煙・担癌を除いた大多数の対象で検討を行った。 【方法】 年齢・肉体的活動性・飲酒量・教育の調整を行い、BMIとあらゆる死亡原因の関連性を146万人の白人成人(19-84歳 中央年齢58歳)を対象に19の前向き研究を比較して検討した。(開始時85歳以上、1年未満のフォローアップ、BMI15未満・50以上は対象から除外) 【結果】 ベースラインのBMI中央値は26.2。平均観察期間は10年(5-28年)。160087名が死亡。非喫煙者においては、BMIとあらゆる原因による死亡の関係は、Jカーブの関連性があった。 BMIと死亡率の関連(女性)の場合は下記の通り。男性も同様の結果であった。 15-18.4:1.47 18.5-19.9:1.14 20-22.4:1 22.5-24.9:基準 25-29.9:1.13 30-34.9:1.44 35-39.9:1.88 40-49.9:2.51 全体の死亡率の関連のほかに、年齢とBMI別からみた検討・フォローアップ期間からBMI別にみた検討・死亡原因(癌・心血管イベント・他の死因)とBMI別に見た検討がされたが同様の結果であった。 ただしBMI20未満のhazard ratioは長期間のフォローが必要。 【結論】 白人成人において過体重・肥満はあらゆる死亡原因と関連する。一番死亡率が低いのはBMI20-24.9であった。 |
抄読者 | 山西 浩文 | |||||||||
論文名 | CD40 Agonists Alter Tumor Stroma and Show Efficacy against Pancreatic Carcinoma in Mice and Humans | |||||||||
著者 | Beatty GL, Chiorean EG, Fishman MP, Saboury B, Teitelbaum UR, Sun W, Huhn RD, Song W, Li D, Sharp LL, Torigian DA, O’Dwyer PJ, Vonderheide RH. | |||||||||
reference | Science. 2011 Mar 25;331(6024):1612-6. | |||||||||
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【背景】
膵癌では癌の周囲に存在する腫瘍間質が抗腫瘍免疫を減弱させることが知られている。 CD40を活性化させることで抗原提示細胞を介したT細胞依存性の抗腫瘍免疫を活性化される。 【目的】 CD40アゴニストが膵癌間質細胞による免疫抑制を改善し、T細胞による腫瘍免疫を誘導するか否か検討する 。 【対象・方法】 膵癌の手術不能、または再発症例 21症例(90%が遠隔転移、10%が局所進行癌) ジェムザールは28日サイクルでDay1,8,15に投与し、CD40アゴニストはDay3に投与した。 【結果】 ・CD40アゴニストによる治療効果
・治療後の組織 リンパ球以外のマクロファージや多核球が腫瘍周囲に浸潤しておりCD40による抗腫瘍効果はT細胞依存性であるとのこれまでの報告と矛盾する結果であった。 ・膵癌自然発症モデルマウスを用いたCD40アゴニストによる治療効果の機序の解明 マウスの体内よりT細胞を除去しても治療効果に変化なく、マクロファージを除去すると治療効果は消失した。CD40アゴニストの投与は、腫瘍に浸潤しているマクロファージに腫瘍殺傷効果及び、膵癌の間質、線維の減少効果をもたらした。 【結論】
以上の事から、腫瘍の免疫による監視はCD40を介した自然免疫により制御されており、腫瘍の微小環境における炎症細胞や間質に対する治療戦略が今後重要となる 。 |
抄読者 | 森 健一郎 |
論文名 | Albumin and C-reactive protein levels predict short-term mortality after percutaneous endoscopic gastrostomy in a prospective cohort study |
著者 | Blomberg J, Lagergren P, Martin L, Mattsson F, Lagergren J. |
reference | Gastrointest Endosc. 2011 Jan;73(1):29-36. Epub 2010 Nov 12. |
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【背景および目的】
PEG(percutaneous endoscopic gastrostomy)には多くの合併症があり、時に重篤になる可能性のある手技である。今回の論文ではPEG後30日までの死亡および14日後における瘻孔周囲炎のリスクファクターについてprospective cohort研究にて解析している。 【方法】 2005年6月から2009年11月にKarolinska大学病院(ストックホルム、スウェーデン)にて胃瘻増設(pull 法)を行った484人の患者を対象としている。 【結果】 484人中58人、12%が30日以内に死亡し、処置前のアルブミンが3以下だとハザード比が3.46倍、CRPが1以上では3.47倍、65歳以上では2.26倍、BMIが18.5以下では2.04倍死亡のリスクが高かった。特にアルブミン低値とCRP高値の両方があると死亡率が20.5%、ハザード比は7.45倍と高くなった。適応となった疾患や、糖尿病などの合併症の多さとの関連は統計学的にはなかった。 瘻孔周囲炎については年齢、BMI、CRP、アルブミン、合併症などで統計学的有意差はなかった。 【結論】 アルブミン3以下、CRPが1以上ある患者では経管栄養や高カロリー輸液など他の方法を考えるか、栄養状態が改善し炎症がおさまるまでPEGを延期するなどの工夫が必要であるとしている。 |
抄読者 | 竹治 智 |
論文名 | Incidence of Adenocarcinoma among Patients with Barrett’s Esophagus |
著者 | Frederik Hvid-Jensen, M.D. et al. Aarhus University Hospital, Denmark |
reference | N Engl J Med 365:1375-83. October 13, 2011 |
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【目的・方法】
バレット食道患者における食道腺癌やhigh-grade dysplasia の発生率を知ることを目的として、デンマークにおける病理登録やがん登録のデータを用いて1992年から2009年の17年間におけるデンマークの全てのバレット食道患者を対象とした全国規模の住民ベースのコホート研究を行った。(相対リスクの指標として、同研究期間におけるデンマークでの癌罹患率を用いて計算された標準化発症比を算出した。) 【結果】 11,028人のバレット食道患者を拾い上げ、中央値で5.2年間解析を行った。バレット食道と診断された最初の内視鏡検査後1年以内に131例の新たな腺癌発症例があり、その後の数年間で新たに66例の腺癌が見つけられ、腺癌発症率は1000人-年当たり1.2例(95%信頼区間0.9~1.5)となった。一般集団の発症リスクに比してバレット食道患者の腺癌発症の相対リスクは11.3(95%信頼区間8.8~14.4)であった。観察開始時の内視鏡検査でdysplasiaがない患者の食道腺癌発症率は1000人-年当たり1.0例であるのに対し、low-grade dysplasiaがあった患者の食道腺癌発症率は1000人-年当たり5.1例であった。(High-grade dysplasiaの患者の場合には発症率はやや高くなる。)また、男性、高齢であることがリスク因子となる。 【結論】 バレット食道は食道腺癌の強い危険因子ではあるが、絶対年間リスク0.12%という結果は、現行のサーベイランスガイドラインの根拠とされる推定リスク0.5%と比較してはるかに低い。したがって、本研究は、dysplasiaを伴わないバレット食道患者に対して行われているサーベイランスの理論的根拠に疑問を投げかけるものである。 |
抄読者 | 川﨑 敬太郎 |
論文名 | Adipocytes promote ovarian cancer metastasis and provide energy for rapid tumor growth |
著者 | Kristin M Nieman, Hilary A Kenny, Ernst Lengyel |
reference | Nature medicine (Published 30 October 2011) |
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【背景】 卵巣癌などの腹腔内腫瘍は脂肪細胞が豊富な大網に転移しやすいことが知られている。 【方法・結果】 ヒト大網脂肪細胞と卵巣がん細胞を共培養すると、卵巣癌のホーミング・浸潤などを促進する。脂肪を染色すると、卵巣癌細胞内に脂肪の移動がみられた。大網転移部と原発卵巣腫瘍を比較すると、FABP4という脂肪酸結合蛋白が増加していた。FABP4が欠損したマウスにおいて、卵巣癌の大網転移は明らかに減少していた。 【考察】 脂肪細胞が腫瘍に増殖に使われる脂肪酸を供給していることが示された。癌において脂質の代謝と輸送を標的とする治療が期待できる。 |