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抄読会要約まとめのご報告(第五回目)
 

お知らせ

第三内科で行われた抄読会の内容要約を週1回、同門メールにて現在までお知らせしてまいりました。第三内科ホームページ上でも抄読会内容を確認したいという希望がありましたので、定期的に今後更新してまいります。

第五回目報告をさせていただきます。

[過去抄読会要約のURLリンク]

平成23年 5月

       6月

       7月

       8月

抄読者 重松 秀一郎
論文名 Induction of functional heatocyte-like cells from mouse fibrobrasts by defined factors
著者 Huang P, He Z, Ji S, Sun H, Xiang D, Liu C, Hu Y, Wang X, Hui L
reference Nature 2011;475:386-11
サマリー
ミネソタ大学のグループからの論文です。

この論文では上皮細胞から多能性幹細胞へと形質転換,その後肝細胞に誘導するというルートでなく,“上皮細胞などから直接肝細胞へ形質転換することが可能”と示している。

著者らはマウスの繊維芽細胞などに転写因子を導入することでhepatocyte-likeな表現型が誘導できる因子があることから,以外のプロセスにも肝細胞としてのpotentialがあるところに着目しています。

実験はマウスにて行っており

① 転写因子14個を繊維芽細胞に導入するとprimary hepatocyte likeな表現型になることを確認

② その転写因子を絞っていき3個の導入で2週間後に同様にhepatocyte likeになることを示し

③ 肝障害モデルマウスに作成したhepatocyteを補充することで生存率を改善

④ 肝予備能がその後良好であることと発癌の上昇がないこと

をFigにて示しています。

遺伝子の導入がウイルスベクターを使用しての内容であることや,ヒトの細胞を用いての実験ではないものの,体細胞から直接肝細胞として機能する細胞を生み出している点で非常にimpactが高い論文であると考え紹介させていただきました。

抄読者 渡辺 崇夫
論文名 Metabolic Syndrome Increase the Risk of Primary Liver Cancer in the United States: A Study in the SEER-Medicare Database
著者 Welzel TM, Graubard BI, Zeuzem S, El-Serag HB, Davila JA, McGlynn KA.
reference Hepatology. 2011 Aug;54(2):463-71. doi: 10.1002/hep.24397. Epub 2011 Jun 30
サマリー
【背景・目的】

metabolic syndromeと、原発性肝癌(肝細胞癌,以下HCC、肝内胆管癌,以下ICC)との関係が言われているが、population baseでの報告はない。

【方法】

アメリカ合衆国のSurveillance, Epidemiology, and End Results(SEER)-Medicare datebaseを用い、metabolic sydrome群(耐糖能異常、高脂血症、高血圧、肥満)とcontrol群(n:195,953)でHCC・ICCの発症に差があるかどうかを検討した。

【結果】

1993年~2005年の観察で3649例のHCC、743例のICCが発症。

原発性肝癌の発症はコントロール群17.1%に対してmetabolic sydrome群ではHCC 37.1%、ICC29.7%であり優位な差があった(P<0.0001)。

HCCのリスクファクターとしてHBV、HCV、アルコール、肝硬変、胆汁性肝硬変、ヘモクロマトーシス、ウイルソン病、ICCのそれとして胆汁性肝硬変、胆管炎、胆管結石、胆管嚢胞、HBV、HCV、アルコール、肝硬変、炎症性腸疾患を投入した多変量解析でもmetabolic sydriomeはHCCでodds ratio 2.13、ICCでodds ratio 1.56でありそれぞれ原発性肝癌の発症に対して独立したリスクファクターであった。

【結論】

metabolic syndromeはHCC、ICCの発症の重要なリスクファクターである。

抄読者 小泉 洋平
論文名 Hepatocellular Carcinoma: Response to TACE Assessed with Semiautomated Volumetric and Functional Analysis of Diffusion-weighted and Contrast-enhanced MR Imaging Data.
著者 Bonekamp S, Jolepalem P, Lazo M, Gulsun MA, Kiraly AP, Kamel IR
reference Radiology. 2011 Sep;260(3):752-61. Epub 2011 Jul 19.
サマリー
【目的】

肝細胞癌に対する肝動脈化学塞栓術後の治療効果判定を、MRIの拡散強調像と造影MRI像で行い、その有用性を検討する。

【方法】

48症例、71結節の肝細胞癌対象とした。TACEの前、TACEの1か月後、TACEの6ヵ月後に、MRIを施行。拡散強調像の、みかけの拡散係数(ADC)の変化を画像解析ソフトを用いて評価した。同様に、造影MRIでの血流変化を画像解析ソフトを用いて評価した。TACEから1か月後と6ヵ月後の段階で、RECIST基準に従って、治療効果判定を行った。

【結果】

71結節中、30結節はPR、35結節はSD、6結節はPDであった。画像解析ソフトでの評価で、(1)拡散強調像でADCが増加、(2)造影MRIで造影効果が減少。の2つが、PR症例とSD症例およびPD症例を区別するのに有用であった。結果は下記の通り

(1) ADCの増加:PR群とSD+PD群の判別(AUROC 0.78)

ADCの増加:PR+SD群とPD群の判別(AUROC 0.89)

(2) 血流の減少:PR群とSD+PD群の判別(AUROC 0.90)

血流の減少:PR+SD群とPD群の判別(AUROC 0.73)

【結論】

ADCの増加と腫瘍内部への血流の減少の分析は、TACE後、早期の治療効果判定に有用である。

抄読者 布井 弘明
論文名 Laparoscopic antireflux Surgery vs Esomeprazole Treatment for Chronic GERD
著者 Jean-Paul Galmiche,Jan Hatlebakk,Stephen Attwood,Christian Ell,Roberto Fiocca,Stefan Eklund,Goran Langstrom,Tore Lind,Lars Lundell for the LOTUS Trial Collaborators
reference JAMA, May 18, 2011-Vol.305,No.19:1969-1977
サマリー
【目的】

GERDは慢性、再発性の疾患で日常生活に支障を来たす。治療としては長期薬物療あるいは外科治療の2つオプションがある。薬物療法と腹腔鏡下逆流防止術(laparoscopic antireflux surgery;LARS)のどちらが治療として適しているかの比較検討である。

【方法】

18~70歳のGERD患者を対象に、欧州11カ国の大学病院で2001年10月~2009年4月まで、5年間のオープンラベルの無作為化並行群試験(LOTUS試験)である。

GERD患者626人を登録し、全員にエソメプラゾール40mg/日を投与する3ヶ月治療期間を設けた。治療に反応し、3か月時には逆流性食道炎の重症度がLA分類のGradeB以下、酸逆流症状が軽症になっていた患者554人(平均年齢45歳)を選んで、266人をエソメプラゾール20~40mg/日に、288人(うち248人が実際に手術実施)をLARSに無作為に割り付けた。

主要評価項目は治療失敗までの時間(LARS群は酸分泌抑制薬追加を要した場合、内服群は投与量調整後も症状が持続する場合と定義)とし、5年寛解率で検討した。解析にはKaplan-Meier法を用いた。被験者のうち、5年間追跡できたのは372人(内服群192人、LARS群180人)であった。

【結果】

5年寛解率は内服群92%、LARS群85%で有意差は認められなかった。

5年時点での両者のGERD症状について(質問票で)比較したところ、胸焼けは16% vs. 8%(p=0.14)、酸逆流は13% vs. 2%(p<0.001)、嚥下障害は5% vs. 11%(p<0.001)、腹部膨満感は28% vs. 40%(p<0.001)、ガス貯留は40% vs. 57%と症状の改善度には差がみられた。

試験期間中の死亡率は両群とも低く(内服群4人、LARS群1人)、要治療者は認められなかった。また、重大有害事象の発生率は、内服群24.1%、LARS群28.6%で両群に有意差はみられなかった。

【結論】

GERDに対するPPI投与と手術治療について5年寛解維持率に差はない。

抄読者 小泉 光仁
論文名 Early Fluid Resuscitation Reduces Morbidity Among Patients With Acute Pancreatitis. Clinical Gastroenterology and Hepatology
著者 Warndorf MG, Kurtzman JT, Bartel MJ, Cox M, Mackenzie T, Robinson S, Burchard PR, Gordon SR, Gardner TB
reference Clin Gastroenterol Hepatol. 2011 Aug;9(8):705-9. Epub 2011 Apr 8.
サマリー
【目的】

急性膵炎において、早期の大量輸液による循環動態安定が重症化を防ぐために推奨されているが、そのことを証明するエビデンスは限られている。この論文は早期の循環動態安定と治療成績の関係を明らかにすることを目的とした。

【対象】

1985-2009年までにLebanonの単一施設で急性膵炎治療された701名のうち輸液量のデータがある434名。輸液開始から3日間の輸液量で2群にわけた。OutcomeはSIRS、臓器不全の発生、死亡率。

①3日間の輸液量のうち1日目の輸液量が最も多かった群をEarly resuscitation群(早期循環動態安定群)。

②3日間の輸液量のうち1日目の輸液量よりも2,3日目の輸液量が多かった群をLate resuscitation群(後期循環動態安定群)。

【結果】

Early resuscitation群340名の平均輸液量が3493ml、Late resuscitation群94名平均輸液量は2403ml。Early resuscitation群において発症後24時間、48時間、72時間後におけるSIRSの発生と発症後72時間における臓器不全の発生が有意に少なかった。両群の死亡率に差はなかった。

【結論】

急性膵炎症例において、早期の循環動態安定はSIRSの発生と、発症後72時間における臓器不全を減少させた。

抄読者 森 健一郎
論文名 Outcomes from a prospective trial of endoscopic radiofrequency ablation of early squamous cell neoplasia of the esophagus
著者 Bergman JJ, Zhang YM, He S, Weusten B, Xue L, Fleischer DE, Lu N, Dawsey SM, Wang GQ.
reference Gastrointestinal endoscopy 2011 Aug 12
サマリー
【背景及び目的】

RFAはバレット食道のneoplasiaの治療に安全で有効であることは言われていた。今回はmoderate grade squamous intraepithelial neoplasia(MGIN)、high grade squamous intraepithelial neoplasia (HGIN)、early flat type esophageal squamous cell carcinoma(ESCC)(m2までの0-Ⅱb病変)をearly esophageal squamous cell neoplasia(ESCN)と定義し、ESCNに対するRFAの効果をprospectiveに検討している。

【対象及び方法】

2008年10月から2009年4月までに登録された3cm 以上12cm未満の平坦なルゴール不染域でESCNと診断された患者29例を対象としている。病変の長さは平均で6.2cm(treatment areaは8.2cm)でmarginを口側と肛門側にそれぞれ1cmとりRFAを施行、1年後のCR率と、病変の進行、合併症について検討している。

【結果】

3か月後のCR率は86%(25/29)、4例でヨード不染域があり中等度~高度異型上皮と診断され、追加のRFAが施行された。1年後ではCR率は97%(28/29)であり、病変の進行は1例もみられなかった。また、4例で狭窄を認めたが、拡張術で治療可能であり、その他大きな副作用はなかった。

【結論】

今後の検討が必要だが中等度~高度異型上皮、M2までのflat typeの食道癌に対してRFAは有効な治療の選択枝となりうる。

抄読者 山西 浩文
論文名 Association of Alcohol Intake With Pancreatic Cancer Mortality in Never Smokers
著者 Gapstur SM, Jacobs EJ, Deka A, McCullough ML, Patel AV, Thun MJ.
reference Arch Intern Med. 2011 Mar 14;171(5):444-51.
サマリー
【背景】

アルコール摂取量と膵癌との関係については未だ十分なエビデンスはない。その要因として以下のものが挙げられる。

・症例数が少ない

・喫煙の影響を否定できない

・アルコールの種類が検討されていない

【目的】

The Cancer Prevention Study II(もっとも規模の多い長期間追跡されているコホート研究の一つ;対照120万人30年間追跡)を用いてアルコール摂取量と膵癌死との関連について喫煙歴、アルコール飲料の種類を層別化して検討する。

【方法 】

除外項目: 多臓器癌、喫煙歴、飲酒歴の聴取が不十分、過剰な飲酒歴

対象人数1030467人(男性:453770人 女性 576697人)

膵癌による死亡:6847人

多変量解析:アルコール摂取と膵癌死との関連について

年齢,性別, 人種/民族、教育、婚姻の状態、BMI、膵臓癌の既往歴と胆石、糖尿病、喫煙歴

飲酒歴:1日何杯飲酒したかを聴取した。アルコールの種類はビール、ワイン、蒸留酒

【結果】

飲酒量と膵癌死との間には相関関係がみられた。非喫煙者の3杯/日以上の飲酒による膵癌死のリスクは飲酒歴のない人と比較して1.36倍になる。蒸留酒3杯/日以上の飲酒と膵癌死との間には関連がみられたが、ビール、ワインとの間には関連はみられなかった。

【結論】

喫煙とは無関係に3杯/日以上の蒸留酒を飲酒することは膵癌死のリスクを増加させる。

抄読者 上田 晃久
論文名 Gastric bypass surgery enhances glucagon-like Peptide 1-stimulated postprandial insulin secretion in humans.
著者 Salehi M, Prigeon RL, D’Alessio DA.
reference Diabetes. 2011 Sep;60(9):2308-14.
サマリー
【OBJECTIVE】

減量目的に胃バイパス術を施行されることがある。この術式により食後低血糖を起こす症例がいることが知られている。胃バイパス術は食後の過インスリン分泌と関連し、食後低血糖を悪化させる可能性がある。また胃バイパス術後、明らかにGLP-1血清濃度は上昇している。この研究では、胃バイパス症例のGLP-1によるインスリン分泌の役目を確立することである。

【RESEARCH DSIGN AND METHOD】

対象は12名の低血糖を有さない12名の胃バイパス症例と12名の症状のない胃バイパス症例12名、コントロールとして胃バイパス術を受けていない10名。それぞれ食事負荷試験(MTT)と1週間後にGLP-1のアンタゴニストであるEx9を用い、MTT高血糖クランプにて評価を行った。

【RESULTS】

無症状のバイパス症例においてGLP-1をブロックすることにより、コントロールと比較して食後のIRIは抑制が見られた。しかし低血糖を有する胃バイパス症例と無症状胃バイパス症例に有意差は認められなかった。グルカゴンはすべての群において高血糖時には抑制されていたが、胃バイパス症例においては食事負荷後に明らかに上昇していたが、コントロール群においては抑制されたままであった。GLP-1を阻害することにより食後のグルカゴンは上昇したが、低血糖・無症状両群において見られた。

【CONCLUSION】

増加したGLP-1は胃バイパス症例において高インスリン血症につながる。しかしながら、胃バイパス症例の食後のGLP-1の効果は低血糖を有する群と有しない群において差がみられなかった。胃バイパス術後の低血糖はGLP-1によるインスリン分泌だけで説明することが出来ず、様々な要因が合わさった影響と考えられる。

抄読者 越智 裕紀
論文名 Preoperative FDG-PET Predicts Recurrence Patterns in Hepatocellular Carcinoma
著者 Kitamura K, Hatano E, Higashi T, Seo S, Nakamoto Y, Yamanaka K, Iida T, Taura K, Yasuchika K, Uemoto S.
reference Ann Surg Oncol. 2011 Aug 18
サマリー
【背景】

HCCの術後の再発形式のパターンは、治療法選択含めて予後規定因子となる。

今回はFDG-PET-CTにてHCCの術後の再発形式が予測できないかを検討した。

【方法】

対象 63人の肝切除症例(FDG-PETを術前に撮影している)

以下の①と②の場合でそれぞれのグループ間でSUV ratio (腫瘍部SUVmax /非腫瘍部SUVmax)の値を検討した。

① 無再発、ミラノクライテリア内の再発(MC内)、ミラノクライテリアを超える再発(MC外)という3群に分ける

② 無再発、1年以内再発、1年を超えて再発 という3群に分ける

【結果】

SUV ratioの値は以下の通りである。

① 無再発群 1.3±1.5 MC内 1.9±1.6 MC外 2.9±2.6 MC外再発はそれ以外の群に比べ有意に高値であった

② 無再発群 1.3±0.5 一年以内 3.1±2.7 1年を超える 1.6±0.8 1年以内再発はそれ以外の群に比べ有意に高値であった。

また再発形式と再発期間に関してそれぞれ多変量解析を行うとSUV ratioのみが有意な独立因子として抽出された。

【結論】

SUV ratioは術後の再発形式や再発期間の推測に有用である。

抄読者 上杉 和寛
論文名 Hepatic Overexpression of Abcb11 Promotes Hypercholesterolemia and Obesity in Mice
著者 ANNE S. HENKEL, MARK H. KAVESH, MICHAEL S. KRISS, AMANDA M. DEWEY, MARY E. RINELLA, and RICHARD M. GREEN
reference GASTROENTEROLOGY 2011 Jul 2.
サマリー
【背景・目的】

Abcb11は、肝胆汁酸分泌で律速段階となる輸送蛋白質であるが、どのように脂質代謝に影響を及ぼすかは明らかでない。著者らは、マウスのAbcb11の過剰発現が腸で脂質吸収を増加させて、肥満や高コレステロール血症の発現に影響するか調査した。
【方法】

Abcb11を過剰発現するトランスジェニックマウス(TTR-Abcb11)とコントロールマウスに、12週間高コレステロールまたは高脂肪食を与え、腸の脂質吸収を二重糞便の同位元素方法で測定、エネルギー消費を間接熱量測定で測定した。

【結果】

TTR-Abcb11マウスは、コントロールマウスと比較して腸のコレステロール吸収が2倍に増加した。また、高コレステロール食を摂取したTTR-Abcb11マウスは、血漿中及び肝組織でのコレステロール高値、肥満、腸の脂質吸収の増加がみられた。
【結論】

マウスのAbcb11の肝過剰発現は、食餌誘発性の肥満とコレステロール過剰血を促進する。ヒトにおいても、Abcb11の発現は、食餌誘発性の高脂血症と肥満における遺伝的感受性に関与する可能性がある。

抄読者 竹治 智
論文名 Short-term and long-term health risks of nuclear-power-plant accidents.
著者 Christodouleas JP, Forrest RD, Ainsley CG, Tochner Z, Hahn SM, Glatstein E.
reference N Engl J Med. 2011 Jun 16;364(24):2334-41. Epub 2011 Apr 20.
サマリー
The Department of Radiation Oncology, Univ. of Pennsylvania, Philadelphia.

このレビューでは、今年の福島第一原発での事故を受けて、1979の米国ペンシルバニア州のスリーマイル島や1986年のウクライナのチェルノブイリでの事故の経験を含めた原発事故の短期的あるいは長期的な健康被害についてレビューされている。原発事故による被曝には、

1)事故現場での直接的な被曝、2)飛散し定着した放射性同位元素による外部汚染、3)飛散した放射性同位元素の吸収、吸入による内部汚染の3つのタイプがある。1)は短期的な影響に関連し、2)及び3)は長期的な影響に関わる。

原発事故で放出される放射性同位元素のうち、半減期の短いもの(molybdenum-991等)、半減期が長くても放出される量が少ないもの(Plutonium-238, 239等)、気体のもの(xenon-133等)は実質的な外部汚染や内部汚染の原因とはならないが、iodine-131は吸入あるいは摂取されると速やかに甲状腺に集積されて内部被曝の原因となる。

被曝量の単位としては、吸収線量のグレイ(Gy)、各臓器の放射線感受性などを加味した実効線量であるシーベルト(Sv)がある。急性期障害には、前駆症状期、潜伏期、発症期があり、ヒトは1Gy以上の全身被曝により急性期の放射線障害が出現する。特に細胞の再生周期の短い造血系や消化管の障害が最も一般的である。8Gy以上の全身被曝では致死的となる。被曝の長期的な影響としては発癌リスクがある。日本での原爆の被爆者においては白血病と固形癌の発症率の明らかな上昇がみられたが、チェルノブイリ原発事故での主にiodine-131やcesium同位元素の汚染に曝された500万人以上の住人や、スリーマイル島事故での住民に明らかな発症率の上昇は見られていない。しかし,iodine-131を摂取した子供については、1Gyの甲状腺被曝あたり2~5倍の甲状腺癌の発症リスクの上昇がみられた。したがって、iodine131が放出される原発事故においては、現地の農産物や地下水の摂取を控えること(事故後2~3ヶ月程度)、及び、iodine-131の甲状腺への吸収を阻害する目的で予防的なヨウ化カリウム摂取が勧められる。

【補足】

TO THE EDITORとして、Tilman A. Ruff, M.B., B.S., University of Melboruneは、”Biological Effects of Ionizing Radiation (BEIR) VII report”において、①ヒトの固形癌の発癌と電離放射線の被曝量との間には確定的影響ではなく確率的影響があること、②15か国の40万人以上の原子力産業従事者を対象とした追跡調査において、放射線従事者の推奨被曝上限以下の平均19.4mSvの被曝量でも、白血病や固形癌による死亡率が上昇すること、③1950年代に行われたOxford Survey of Childhoodにおいて、10~20mSvの胎児期の被曝が、15歳までの発癌リスクの40%上昇と関連することが報告されていることを指摘している。また,Richard hatchet,M.D., Biomedical Advanced Research and Development Authority, Washington, DCらは、チェルノブイリ事故後のポーランドで数約万人の小児にヨウ化カリウムの予防的投与によって、数%の新生児に一過性の甲状腺機能低下状態となり、小児の知能の発達に影響を及ぼすことを指摘している。

抄読者 山本 安則
論文名 Esophageal adenocarcinoma incidence in individuals with gastroesophageal reflux: synthesis and estimates from population studies.
著者 Rubenstein JH, Scheiman JM, Sadeghi S, Whiteman D, Inadomi JM.
reference Am J Gastroenterol. 2011 Feb;106(2):254-60.
サマリー
胃食道逆流症(GERD)患者の食道バレット腺癌発生率は本当に高いのかどうかということに関する論文

【背景】

GERDは食道(バレット)腺癌(EAC)の相対リスク因子となることは知られている。しかし、GERD患者集団のEAC発症率(絶対的リスク)は、知られていない。 そこで今回、GERD患者の症状、性別および年齢別のEAC発生率を推定して、スクリーニングが推奨されている他の癌腫(大腸がんや乳がんの発生率)と比較し、GERD患者にバレット腺癌のスクリーニングを行うということがどの程度必要なのか、その位置づけを決める目的で研究を行った

【方法】

GERD症状を有する非ヒスパニック系白人の一般公開されているpublishな大規模臨床データを利用して、EACの年齢および性別ごとの発生率をマルコフ・コンピュータ・モデルを用いて推定した。

【結果】

胃食道逆流症の症状のある患者の中で、女性と50歳未満の男性ではEAC発生率は非常に小さい。例えば、60歳のGERD症状を有する女性では、EACの発症率は100万人・年当たり3.9だった。男性における乳がんのそれと同程度だった。 同様に、胃食道逆流症のある50歳未満の若い男性のEAC発症率も非常に低く、同年代の大腸がん発生率の3分の1未満だった。例えば、35歳のGERD男性ではEACの発症率は10万人・年当たり1.0で、大腸がんの発症率はこの6.7倍だった。

60歳以上の高齢男性に限り、絶対リスクの明らかな増加が見られることが分かった。例えば、60歳の男性のEAC発症率は10万人・年当たり34.6、70歳の男性では60.8人だった。それでも同年代の一般的な大腸がんの発症率の3分の1未満と小さかった。

【結論】 

女性と50歳未満の男性は、胃食道逆流症の症状の頻度にかかわらず食道腺がんの発症率が非常に低いことから、EAC発見を目的としたスクリーニング検査を受ける必要は必ずしもない。しかし、毎週のように胃食道逆流症の症状がある60歳以上の高齢の男性では、食道腺がんの発生の増加は明らかであり、食道がんの検診は意味がある。

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消化器・内分泌・代謝内科学
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