論文の要旨:
勃起障害の有病率は高いものの適切にスクリーニングがされているとは言えず、日常診療で有用なマーカーはほとんどありませんでした。
血清アルブミンはほぼすべての医療機関で測定可能で、特に病院などでは迅速に測定可能です。栄養状態や肝予備能力の目安であることに加えて炎症との関連性や動脈硬化疾患では予後予測マーカーとなることも報告されています。
性機能障害は様々な疾患との関連性が指摘されるも、我が国においては残念ながら日常的に相談しにくい疾患の一つ。性機能障害は糖尿病に多く、最近では炎症性腸疾患との関連性も指摘されています。
そこで、血清アルブミンと性機能障害の代表疾患である勃起障害との関連性を愛媛潰瘍性大腸炎研究のベースラインデータを用いて検討を行いました。勃起障害の定義はSHIM scoreを用いて定義しました。
血清アルブミンが高いほど、勃起障害の有病率は低く、飲酒、喫煙、BMI、年齢などを補正しても有意でした。血清アルブミンとEDおよび重症EDとの関連性を検討しましたが、血清アルブミン値4.3g/dlを目安にするともっとも有用なマーカーとなりそうでした。ただし、そのマーカーはあくまでも補助的に使うことが適していると考えられます。
論文の要旨:
連続グルコースモニタリング (CGM) システムは、グルコース変動の評価ツールで、さまざまなグルコース変化パターンを確認することが出来ます。そのため、血糖変動には、1型糖尿病(T1DM)と2型糖尿病(T2DM)の間の血糖変化の違いに関する特定の情報が含まれている可能性があると仮説を立て、振動データの時間領域と周波数領域を同時に解析可能な連続ウェーブレット変換 (CWT) で、T1DM におけるグルコース変動を検出できるかどうか検討を行いました。
方法
T1DM (n = 5) および T2DM (n = 25) の患者の 60 日間および 296 日間の血糖変動データをそれぞれ評価しました。 356 日間 15 分ごとに取得されたグルコース データが分析されました。 データは、Morlet 形式 (n = 7) をマザー ウェーブレットとして CWT によって評価されました。 この方法論は、毎日のグルコース変化における限られた周波数のグルコース変動を探索するために使用されました。 出現した 18 個の信号の周波数と囲まれた面積 (0.02625 スカログラム値) を比較しました。 T1DMの特異性は、有意差が認められる項目を説明変数として重回帰分析により評価した。
結果
深夜の高周波(中央値:75 Hz、サイクル時間:19 分)と正午の中周波(中央値:45.5 Hz、サイクル時間:32 分)は、T1DM と T2DM の方が高かった(中央値:73 および 44 Hz、P = それぞれ0.006と0.005)。 真夜中から正午にかけて 100 Hz を超えるゾーンの領域は、T1DM と T2DM でより頻繁に発生し、より大きかった。 1 日の中で、より低い周波数ゾーン (15 ~ 35 Hz) の頻度が高く、その面積は T1DM よりも T2DM の方が大きかった。 CWT 後の各信号の時刻、周波数、面積で構成される 3 次元散布図は、深夜の T1DM に属する高周波信号が 17 ~ 24 分の波周期の緩やかな分布を持っていることを明らかにしました。 多変量解析により、深夜の高周波信号が T1DM を特徴付ける可能性があることが明らかになりました (オッズ比: 1.33、95% 信頼区間: 1.08-1.62; P = 0.006)。
結論
CWT は、CGM データを使用して各タイプの糖尿病の血糖変動を区別するための新しいツールである可能性があります。
論文の要旨:
最近、骨盤内臓器のクロストークが報告されており、Pelvic organ cross-sensitizationという概念が広がりつつあります。間質性膀胱炎、過敏性腸症候群、子宮内膜症とそれぞれ双方向の関連性が報告されています。なかでも月経困難症と過敏性腸症候群との関連も欧米を中心として報告されておりましたが、日本人をはじめとしたアジア人種でのエビデンスはありませんでした。
そこで、愛媛大学の学生健診データのうち、女性学生4693名を対象として解析を行いました。
過敏性腸症候群はROMEⅢの基準で定義し、本コホートでの過敏性腸症候群の有病率は6.1%でした。
自己申告の月経痛のうち、痛みなしをreferenceとしたところ、中等度痛みの補正後OR 1.89 [95% CI: 1.27-2.91]) および高度の痛み (adjusted OR: 2.14 [95% CI: 1.42-3.45])は独立して有意でした。
痛みのコントロールのための薬物使用頻度も同様に頻度が高いほど、過敏性腸症候群が有意に多く、その関連性は独立していました。月経不順との関連性はありませんでした。
また、機能性ディスペプシア例は除外しても同様の結果でした。
女性のおいては月経周期によって腸管運動が変化することが報告されており、月経困難症と過敏性腸症候群との関連に矛盾ないと思われます。一方で、NSAIDSやピルの使用によって過敏性腸症候群に類似した症状が出現することも過去報告されているようです。
過敏性腸症候群などは投薬によって症状が緩和しにくい疾患の一つですが、時にNSAIDSなどで症状が緩和する症例も経験します。もしかすると腸管運動だけでなく、痛みの閾値のコントロールを通じて、症状が緩和されてるかもしれません。今後は縦断研究が必要と思われます。
論文の要旨:
潰瘍性大腸炎は粘血便や下痢などの症状に加えて、便秘が多いとされています。しかし、なぜ便秘が多いのかは未だ不明とされています。
290例の潰瘍性大腸炎において、自己記入式質問調査票を用いて夜間頻尿なし、夜間排尿回数1回、夜間排尿回数2回に分けました。便秘はROMEⅠおよび便秘薬の使用ありで定義しました。
夜間排尿回数別ではそれぞれ便秘の頻度は8.2%、10.8%、20.5%でした。その関連性は交絡因子で調整後であっても、有意でした (adjusted odds ratio for mild nocturia: 1.55 [95% confidence interval: 0.57-4.28], serious nocturia: 3.19 [95% confidence interval: 1.09-9.81], p for trend = 0.035)。
基礎的研究では膀胱や前立腺などの尿路の炎症は、腸管内の炎症や症状と関連し、その関連性は双方向とされています。また、我々が実施した学生を対象であるとした研究でも月経困難症と過敏性腸症候群が関連しており、骨盤内臓器間でそれぞれ疾病を起こりやすくする可能性が示唆されています。加えて、糖尿病では便秘の有病率が高く、夜間頻尿も多いことも知られています。
潰瘍性大腸炎の治療中には、排便回数等の消化器症状に加えて、夜間頻尿にも配慮する必要があると思われます。
夜間排尿回数は動脈硬化と関連しており、潰瘍性大腸炎で動脈硬化が進行しやすい点からも注意が必要かもしれません。
以下は和泉先生からのコメントです。
10月14日に開催された日本超音波学会四国地方会で「Micro B-flowにてThreads and streaks signを観察しえた肝細胞癌の一例」を報告させて頂きました。従来のドプラ法では腫瘍栓内の微弱な血流を検出することは困難でしたが、最新の血流評価技術である「micro B-flow」を用いることで鮮明に血流を描出することが可能となりました。美麗な超音波画像が先生方の心を動かし受賞に至ったものと思われ、廣岡先生に感謝するばかりです。
発表にあたりご指導頂いた日浅先生、廣岡先生、小泉洋平先生ならびに第三内科の諸先生方に厚く感謝申し上げます。
今後ともご指導ご鞭撻頂けますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
以下、松浦先生からのコメントです。
UEG Week 2023に参加して
松浦文三
2023年10月13-18日に,デンマークのコペンハーゲンで開催されたUEG Week 2023に参加してきました。COVID-19パンデミック後のはじめての現地参加でしたが,COVID-19以前と比べると現地参加は少し少なかったように思います。コペンハーゲンは,日本に比べると気温は8-10度程度低く,日本の初冬の感じでした。また,海の近くですので非常に風の強いところでした。風力発電の風車がホテルや学会場からよく見えました。これまで代謝改善/減量手術のデータを国内外の学会で発表してきましたが,今回は「Characteristics and diabetes remission after laparoscopic sleeve gastrectomy in diabetic patients stratified by body mass index」と題して発表しました。BMIに関わらず,血中C-peptideが保たれている例は70%以上で糖尿病が完全寛解するし,C-peptideが低下している例でも全例薬物が減量できる,という内容です。
今回のUEG Weekは学会最終日の前夜に,UEG Nightとして,世界で10%の中に入るエンターテイナーが出演するWallmans Circus Buildingでのdinner showが設定されており,それにも参加して,楽しい時を過ごしました。また,学会の合間にあの有名な人魚姫の像も見学してきました。
次回は2024年10月12-15日にオーストリアのウィーンで開催予定です。
(UEG Week 2023会場)
(UEG Nightが行われたCircus Building)
(人魚姫の像)
以下、廣岡先生からのコメントです。
9月22日、23日に東京で第30回日本門脈圧亢進症学会総会が開催されました。この会において廣岡が田尻賞(英文論文)を受賞いたしました。田尻賞は、田尻孝前理事長より設置され、前年の門脈圧亢進症に関する優秀な論文に授与されることになっております。今回脾臓の硬度・粘性診断などを評価いただき受賞させていただきました。当教室から引き続き受賞者が出るよう励んでいきたいと思います。(日本門脈圧亢進症学会理事長、吉田寛教授と撮影)
石川将先生が愛知県がんセンターで作成していた論文がアクセプトされました。おめでとうございます。
以下、石川先生からのコメントです。
今回、愛知県がんセンターで作成させて頂いた論文がClinical Endoscopyにアクセプトされましたので御報告させて頂きます。
タイトルは「Safety and efficacy of novel oblique-viewing scope for B2-EUS-HGS」です。
EUS-HGSにおいて、B2あるいはB3穿刺が行われます。穿刺後の処置が容易なのはB2-EUS-HGSですが従来のEUSスコープでは経食道穿刺による重篤な偶発症のリスクがあり、B3が主に穿刺対象とされていました。今回使用した新型EUSスコープであるEG-740UTは従来のEUSスコープと比較してアップアングルが効き、より垂直に近い穿刺が可能です。今回この新型スコープを使用してB2-EUS-HGSの安全性と有用性を後ろ向きに検討しましたところ、経食道穿刺をきたさず高率にB2-EUS-HGSを施行出来ておりました。
新型EUSスコープを用いたB2穿刺は今後EUS-HGSにおける第一選択になる可能性を秘めていると考えます。
論文作成に際し、原先生をはじめとする愛知県がんセンターの先生方には多々ご迷惑をお掛けしましたが、最後まで御指導頂き大変感謝しております。
また、勉強の機会を与えて下さった日浅教授をはじめとする医局の皆様にもこの場で感謝申し上げます。愛媛からも新しい知見を発信出来るよう、今後も精進していきたいと思いますので今後ともよろしくお願い致します。
以下,first author Sからのコメントです.
新規の遺伝子変異を有するWilson病患者が腎癌と肝癌を併発した症例に関する論文 ” Renal Cell Carcinoma and Hepatocellular Carcinoma in a Patient with Wilson’s Disease: A Case report” がInternal Medicine(IF 1.2)にアクセプトされました. 本症例は腎癌と肝細胞癌を発症したWilson病患者です.これまでにWilson病に腎癌を合併した報告はありません.本検討の特徴として腎癌領域と非癌領域における銅と鉄の沈着の程度を評価しました.結果として,腎癌領域において銅の沈着はほとんどありませんでしたが,鉄の過剰な沈着がみられました.鉄過剰は淡明細胞癌のリスクであることがこれまでに報告されており,また無セルロプラスミン血症は鉄過剰と密接な関係があります.腎癌が偶発的な合併の可能性も否定はできませんが,腎癌の好発年齢ではなく,Wilson病による代謝障害が関連している可能性が示唆されました.
また本症例ではATP7Bに新規の遺伝子変異であるp.Leu1395Terfsが特定されました.
この変異が腎癌や肝癌に関連しているかは更なる症例蓄積が必要となります.
論文作成にご尽力いただきました済生会今治第二病院の道堯浩二郎先生に感謝を申し上げます.
渡辺先生と徳本先生がまとめた、DAA治療によるSVR後HCCを予測するスコアリングシステムに関する論文がScientific Reportsにアクセプトされました。
おめでとうございます。
以下、渡辺先生からのコメントです。
本論文は、愛媛県内で組織するEKEN study Groupの先生方にご協力いただき、多変量解析によりDAA治療によるSVR達成後のHCC発症を予測するスコアリングを作成したという内容です。DAA治療前、治療終了時、SVR12判定時のデータでそれぞれスコアリングを行い、それらの中で、SVR12判定時でのスコアリングが最も有効にHCC発症を予測できたというのがアピールポイントです。
ご指導いただいた徳本先生、また何より、大変お忙しい中ご協力いただいたEKEN study Groupの先生方に深く感謝申し上げます。
Sci Rep. 2023 Jun 2;13(1):8992. doi: 10.1038/s41598-023-36052-0.